第427話 187『新しいダンジョンに向かって』

 思い立ったが吉日……と言うわけではないが、アンナリーナたちは早速ダンジョンに向かっていた。

 今回はちょうど、ダンジョン行きの馬車があったのでふたりはそれに乗っている。


 アンナリーナは目だけを動かして、これからダンジョンに潜るだろう、同乗している冒険者たちを観察している。

 彼らは皆それぞれの装備で身を固めていた。


『熊さん、ここに乗ってる人たちは良くてC級止まりみたい』


『……そんな感じだな。

 出来て間なしだから上級冒険者にはまだ広がってないのかもな』


 普通、新しいダンジョンが発生した時、上級冒険者はある程度の攻略がなされるまで腰をあげない。

 今回はまだ、まったくと言っていいほど情報がなく、アンナリーナたちも現地のギルド出張所で詳しい説明を受けるように、と言われてきた。


「今夜は途中の野営地で一泊なのかしら」


 思わず唇から漏れた疑問に、隣に座っていたパーティーの1人が答えてくれた。


「お嬢さんは……初めて見る顔だね。

 お察しの通り、今夜は途中の空き地で一泊だよ。そこもまだ野営地としての整備が追いついてなくて、本当にただの空き地。

 ダンジョンの周りもまだ何もなくて、びっくりするんじゃないかな」


 テオドールと同じくらいか、もしくはもう少し年長かもしれない男が気さくに教えてくれる。

 アンナリーナはその親切にもう少し甘える事にした。


「そうなんですか?

 このダンジョンは発生して、まだそれほど経ってない?」


「ああ、小規模な “ 湧き ”があったのが……」


「38日前ですよ、お嬢さん」


 パーティー一行の中の比較的若い男が口を挟んできた。装備を見れば、彼は大剣使いであるようだ。

 ちなみに、最初に声をかけてきた彼は盾職だ。


「38日……討伐に数日かけたとしても、攻略可能になってひと月ちょっと。

 現在はどのくらい進んでいるのですか?」


「昨日、伝から仕入れた情報では8階層まで攻略したそうだ。

 今は9階層に挑戦中らしい」


「では、私たちが到着する頃には10階層まで進んでいるかもしれませんね。地図の作成はどうですか?」


「それが……後回しになっている。

 皆、先に進む事ばかりに目が行ってな。とりあえず浅い階層の、下に降りる階段への道だけ、簡単な地図が有志によって作成され、公開されているんだ」


「これはまだまだ大変そうですね。

 申し遅れました、私はリーナ。ハルメトリアの冒険者です。こっちはテオドール」


「よろしく、リーナ嬢。

 俺はヘンリクス、こっちがマルティン。あとは右からニコ、ノアハ、セルファース、ヨリックだ」


 ひとりひとりが名前の紹介の時に片手をあげて挨拶してきた。

 アンナリーナも挨拶したが、必要以上に声をかけてこないのが好感を持てる。




 うつらうつらしていたアンナリーナは、ガタンと馬車が揺れて目を覚ました。


「熊さん?」


「ああ、着いたみたいだ」


 いつの間にか眠ってしまったアンナリーナは今、テオドールの太ももの上で横抱きされていた。

 そして身体の上にはテオドールのマントがかけられていて、ぬくぬくと眠っていたことに気づいた。


「ごめん、ありがとう」


 キョロキョロとあたりを見回すと、降りる支度を始めているヘンリクスと目が合う。


「おお、やっと起きたか。

 先に夜見張りの順番を決めてから飯だ。リーナ嬢は免除な」


 以前のテオドールのような髭面が笑う。


「“ 嬢 ”はくすぐったいので、リーナと呼んで下さい。

 それと、私の代わりに従魔を出します」


「リーナは召喚士なのか?」


 それなら頷ける。

 彼の目には、彼女は冒険者としてはあまりにも華奢すぎるように見えていた。


「ええ、サブですけどね」


 この世界では、複数の職種を持つのはかなり珍しい。

 アンナリーナの公式な職種は【薬師】と【召喚士】だが、その他に【魔導師】や【賢者】なども兼ねている。


「そうか、そちらが従魔を出してくれるなら助かる。よろしく頼むわ」


「はい、わかりました」

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