第414話 174『忍び寄る手』
陽が暮れてからの到着から、宿をとり、夕食ののち部屋に入る。
そしてようやく一服したアンナリーナは慎重に探査を始めた。
「!!」
思わず、といった様子で身を引いたアンナリーナは傍のテオドールを見上げる。そして念話で話しかけた。
『熊さん、当たりみたい』
『どうした? リーナ』
テオドールは訝しげだ。
『この村、普通じゃない。
宿の中にも私たちを監視している目があるし、敵意を持ってる人たちがいる……村人全部じゃないけど』
『どうする?バルトリ殿のところに行って話すか?』
アンナリーナは考えた。
『今夜は下手に動かない方がいいね。
皆の部屋は結界で囲むよ』
まんじりとした、胃が痛む夜が始まった。
翌朝、いささか顔色の悪いアンナリーナが階下の食堂に行くと、もう皆が揃っていて朝食を食べていた。
「おはようございます」
この村から出るまでは、皆に気取られるわけにはいかない。
アンナリーナは笑顔を浮かべて席に着いた。
口にする朝食もほとんど味が感じられない。自分たちだけならこれほどの圧力を受けないのだが、他人の、それも護衛対象を守らないといけないプレッシャーが半端ではない。
「では、食事が済んだら出発しましょうか。私は馬車を回して来ます」
ダマスクの足元にはもう荷物が置かれている。
アンナリーナは震えそうになる足を叱咤して、再び階段を上がった。
『ここで何か仕掛けてくる様子はないけど、わからないね。
しばらくは注意した方がいいかも』
念話で遣り取りしたふたりは頷き合い、アンナリーナは常時【危機察知】【悪意察知】をオンにした。
そこにナビの声が割り込んでくる。
『主人様、この村の奥に、公表されていない裏街道があるようです。
昨夜から何度か動きがあったのですが、先程は複数人数が動いたようです』
『その、昨夜からの動きはモニターしてる?』
『はい、すべてマップに提示出来ます』
次から次へと持ち上がる問題に眩暈がして来そうだ。
そして無事出発し、馬車が村を出てひとまずホッとしているとまた、トラブルが持ち上がった。
順調に走っていると思われた馬車が、急にガタガタと揺れ、街道に止まる。
何事かと飛び出していった冒険者たちとテオドールに続いて、アンナリーナも降りていくと、ダマスクが怒りのあまり顔を真っ赤にしている。
「誰かが車輪に細工しやがった!
それもご丁寧に、すぐには壊れないように。もう少し速度を上げたらバラバラになるところだったぜ!」
すぐに予備の車輪と交換しようとするダマスクにアンナリーナは言う。
「待って!
……もう、こんな事になるなんて!!
皆んな、これから見ることには一切突っ込みなしで!」
アンナリーナのインベントリから馬車が現れる。
同時にテオドールの指示によって乗り合い馬車から馬が外された。
瞬時に乗り合い馬車がアンナリーナのインベントリに収納され、代わりにアンナリーナの馬車にエピオルスたちが繋がれる。
「さあ、皆んな中に入って」
そうこうするうちに、念話で呼び出されたセトとイジが馬車から降りて来た。
彼らが御者台に収まり、馬たちを並走出来るように繋ぐと、馬車が動き出す。
エピオルスは馬たちの走れる限界近くの速度で走り、結界で囲われ、風魔法で補助された馬車はあっという間にスピードに乗り、この地域から離れるために疾走した。
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