第368話 128『救援物資運搬団』
ゆっくりと飲むように言われたのに、ガブガブと一気飲みをした2人は自分で水差しを傾けてお代わりを注いでいた。そしてまた一気飲み。
アンナリーナは2人の状態を解析して、脱水以外に異常がないかチェックする。
その結果、多少血圧が下がっているのと血糖値も低かった。
これはおそらく空腹からきているのだろうと、アラーニェにパンがゆの用意を頼むと、改めて2人に向き合った。
「この度は本当にお世話になって……
何とお礼を申し上げたらよいか」
少し元気になった男がぺこぺこと頭を下げている。この腰の低さはどうやら商人のようだ。
「自己紹介がまだでしたね。
私はアモン・タンジールと申します。
王都で商店を経営しております」
この世界の商店と言うのは前世での総合商社にあたり、多種な品物を扱い、物によってはその場にないものも取り扱う、大抵はほかの町や他国に至るまで支店を置く大店だ。
「今回はどうしてこんな事に?」
「お嬢さんはご存知でしょうか?
今、隣国クロンバールと言う国で起きていることを」
「ええ、ドピタにいる時に薬やポーションを卸しましたから」
「何と! 薬師殿であられましたか!
これはご無礼致しました」
アモンの目の色が変わった。
わかりやすい態度だが、アンナリーナはもう慣れていた。一々気にしていたら身がもたない。
薬師……特に錬金薬師は貴重なので、取り込もうと猫なで声で接触してくるものも多い。
「我らは3日前、王都を出発しました」
「我ら?」
「クロンバールへの救援物資です。
今回は、一度国に買い上げられた品を私たちが依頼されて、彼方に運ぶ予定でした。
うちの隊商が運んでいたのは主に麦やトウモロコシなどの穀類とジャガイモや干し肉などです。
それと簡易のテントや寝袋など身を休めるもの。魔導ランプや武器なども積んでいました」
本当に初期の救援物資のようだ。
そして王都の荷には、今一番必要なポーション類が一切含まれていなかった。
「あの……薬は?」
アモンの表情が途端に曇る。
「薬師殿、今王都にはポーションを大量に生産出来る薬師はおりません。
……話を戻しますね。
今回の隊商は荷馬車10台、箱馬車3台、護衛の冒険者は騎馬20人に馬車に同乗するものが40人でした」
これはかなりの規模の大隊商だ。
さすがに国の声がかりだと感心したのだが。
「他の馬車はどうしたのです?」
アンナリーナの問いに答えるアモンの身体が震えている。
「王都を出てすぐに……今から思えばその前触れはあったのです。
滅多に街道に出てこない森狼の群れが襲ってきて。これは冒険者の皆さんが軽く処理して下さったのですが、王都に近いと言うのに、さほど強くない魔獣ですが次々と襲って来て……」
悪夢は昨日の昼過ぎ、突然複数の火炎大蜥蜴が襲ってきた。
冒険者たちがそちらにかかりきりになっていた時、他方からオークの群れが現れて襲われたのだ。
その時馬車はてんでバラバラに逃げたのだが、アモンの馬車はパニックに陥った馬たちにより、丸一日走りっぱなしだったと言う訳だ。
「それは……大変でしたね」
アンナリーナには月並みな言葉しか出てこなかった。
そしてその頭のなかでは目まぐるしく考えが渦巻いている。
「とりあえず、今夜はここで一緒に野営しましょう。
今、消化がよいパンがゆを持ってこさせるので、それを食べて少し休んで下さい」
そこに盆に乗せられたパンがゆが差し出された。
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