第318話 78『残念なおツム』
とりあえず詳しい話は明朝にと言い残し、アンナリーナはセトを連れて出ていこうとしていた。
その際、決してこのテントから出ないようにと言われ、不承不承頷く。
もう足があるのだ。自由に歩き回って何が悪いのかと、ムッとしたのが表情に出たようだ。
「これからのあんたは、このテントを囲む結界から自由に出られる訳、そんな時魔獣に襲われたらどうなると思う?
あまり賢くないお頭でもわかるでしょ?」
馬鹿にしたように鼻を鳴らし、アンナリーナは今度こそテントの入り口の布の向こうに消えた。
アントンは怒りに燃えたが今の自分の立場を思い、必死に堪える。
「くそぉ、リーナの癖に馬鹿にしやがって!」
彼は “ 従属 ”したことを忘れているようだ。
アントンが目覚めると、枕元のテーブルに服が用意されていた。
それは彼が今まで着たことのあるどんなものよりも上質なもので、その肌触りと付与されている防御の数値の高さに思わず震えた。
下着をつけシャツを着、ズボンを履く。
ブーツを履いて立ち上がると、洗面器と水差しに気づいて、顔を洗う。
そうして……初めて入り口の布をかき分け、外に出た。
「あら、おはよう。
ちょうど起こしに行こうと思っていたのよ」
まず飛び込んできたのはアンナリーナの顔で、次いで認識したのは今自分がいるテントを囲む、ダンジョンの森だった。
「ここは……」
「言ったでしょう?ここは12階層だって。さあ、さっさと食べてしまって。それから下に行くわよ」
シンプルな机と椅子、そしてダンジョンの中ではいささか常識を外れた、まるで貴族や富裕層が食べるような食事。
セトに睨まれて席に着いたアントンはガツガツと、脇目も振らずに朝食を平らげていった。
「相変わらず、下品な奴ね。
少し躾が必要かしら」
『どちらが躾が必要なんだ。おまえこそ躾直してやる』とアントンが睨みつけてくるが、アンナリーナは平然としている。
「じゃあ、行きましょうか」
まだ咀嚼しているアントンを追い立て、テントと机と椅子を続けてインベントリにしまったアンナリーナをアントンは呆然と見ている。
「もうこれ以上の遅れは我慢できないの。ついてこれないなら、置いてくわよ」
地面から10センチほど浮いたアンナリーナがいきなり動き始めた。
それと同時にセトが走り始め、一瞬遅れたアントンが必死で追いかけ始める。
「今回は出てくる魔獣は無視して、一気に降ります」
向かってくる魔獣を結界で跳ね飛ばしながら、一行は一気に15階層まで降りきった。
不可視の付与が与えられているのだろう。結界を通り抜けると今日一番の常識外れな光景を見た。
15階層はアンデッドが蠢く階層だった。
階層を隔てる階段から一歩足を踏み出すと、まず現れたのはスケルトンだった。
思わずちびりそうになったアントンを尻目に、アンナリーナたちは平然と足を運び、今いる “ 野営地 ”に到着したのだ。
そこには大型の箱馬車が置かれ、その周りにはまるで外で食事をするかのように大きめのテーブルに椅子が配置され、日よけのタープまで張ってある。
「これが……野営地?」
「そうよ。グズグズしないでこっちに来て」
馬車の乗り口に足をかけ、アントンを呼ぶアンナリーナの顔が心なしが強張っているように見える。
そして彼女は馬車の中に消えた。
慌てて追いかけたアントンは、後ろをまるで逃さないとばかりに塞ぐセトにも気づいていない。
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