第308話 68『王宮への招き』
アンナリーナは、近づいてきた年末から春までの長期休暇に備えて、毎日忙しくしていた。
学業も順調で、この度の【魅了】看破のご褒美に、国内最高水準の禁書庫への閲覧を許可された。
これはユングクヴィストが司る【塔】の魔術師でも上位のものにしか許可されない、ある意味危険な書物が納められている。
アンナリーナはここで、時間が許す限り写本をし幸せを感じていた。
段々と寒さが厳しくなってきた頃、チーム・アンナリーナはデラガルサダンジョン攻略の為の準備を着々と進めていた。
そんななか、ユングクヴィストから急な呼び出しがあり、嫌な予感に辟易しながらも仕度をし、学院の正面玄関に向かう。
すると、もう馬車が待っており、アンナリーナは有無を言わせずに押し込められた。
「ユングクヴィスト様……」
「此度は突然の登城命令。
そなたには迷惑をかけるが、付き合ってもらいたいのじゃ」
何となくそのような予感がしたので、盛装の上にアラクネ絹の薬師のローブを着用してきた。
「おそらく今日は、王の御前に上がることになるだろうの。
これは先日の件が決着したのかの」
「まあ! ざまぁですか?やったぁ!!」
どうやらその場に参加出来るようだと、アンナリーナはワクワクしている。
そんなふたりを乗せて、馬車は進む。
その場は、一見お茶会の会場を模して設えられていた。
王宮の、通称 “ 中奥 ”と言われる場所で、そこは普段は王のプライベート空間である。
そこの一室をサロンとし、茶会の準備が調えられていて、もうエレメント公爵以下サバベント侯爵や伯爵たちも顔を揃えている。
「おまたせしてしまい、申し訳ございませんでした」
カーテシーをし、頭を下げる。
本来なら平民のアンナリーナが公爵よりも後に入室するなどあり得ないのだが、エレメント公爵はニコニコと笑んで着席を勧めた。
「いや、こちらこそ突然呼びつけて済まない。
何しろ急に決まったのでな」
心なしか疲れているように見える公爵は、力無く笑った。
「陛下のお成りです」
従僕の先ぶれに、皆が直立して王を迎える。
アンナリーナはカーテシーで迎えたのだが、王が口を開く前に姦しい声が聞こえてきた。
「ライオネル様?
今日のお茶会は厳しい方ばかりですのね……まあ!先日の薬師ではないですか。早速献上に来たのですね」
王の後ろから現れた若作りの寵姫が、つかつかとアンナリーナの元に歩み寄り、手を差し出した。
「早く出しなさい」
「……?」
先日の舞踏会での、彼女と王の遣り取りを知らないアンナリーナは困惑しきりである。
「首飾りよ!まさか持ってきてないの?」
怒鳴りちらさんばかりの勢いにアンナリーナは目を瞠る。
そんなカテレインの様子は見ていて異常だ。
「カテレイン、無礼である!
錬金薬師は最低でも伯爵相当。
そなたがどうこう出来る存在ではない!」
厳しい表情で叱る王は、あの舞踏会の夜から様子がおかしい。
今日は久々の茶会の誘いに胸躍らせて来てみたが、何やら避けられているようにも思える。
「どうしたの、ライオネル……
何かあなた、おかしいわ」
縋りつくように腕に絡みついてきたカテレインの手を振りほどき、皆に着席を勧めると、自身も座った王は大公を見、公爵を見てそしてアンナリーナを見た。
「ライオネル、私がお茶を淹れますわ」
性懲りも無く、王にまとわりつくカテレインに、王はすでに侮蔑を隠しきれなくなっていた。
「おまえが淹れた茶なぞ、不味くて飲めんわ! もうこれ以上恥を晒すな、そこで大人しくしていろ!」
カテレインは、まるで雷に打たれたかのように硬直した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます