第222話 115『森狼の襲撃』
不測の事態に備えて、馬は一度馬車から外して世話と食事を与えた後、もう一度馬車に繋いだ。
実はアンナリーナは、ここに来るまでに何度か馬たちに【治癒魔法】の回復をかけていた。
そして今もポーションと【回復】の二本立てで馬たちをケアする。
未だ雪が残り、氷点下の気温の元、今夜が正念場なのだ。
結界で馬車と馬たちを囲み、今夜は皆で馬車の中で過ごし、凌いだ。
見張りはセトとイジとテオドールの交代で乗り切り、迎えた日の出にダージェとボリスはホッとする。
昨夜から新たな積雪は認められず、この先も天気が崩れることはなさそうだ。
アンナリーナはなるべく早く、ちゃんとした場所で人馬共々、休息を取りたかった。
「ボリスさん、一番近い町まであとどの位でしょうか?」
狭い馬車の中、折りたたみ式のテーブルの上にはハムや玉子を挟んだサンドイッチに、各自の手には熱々のチキンスープが入ったカップが握られている。
「ここから一番近い村まで、大体丸一日。次の中継地までは昼過ぎに着くだろう。
町までは……あと3日だな」
ボリスが、手製と思われる地図を前に答えてくれた。
「やはり無理せずに、次の中継地で野営する方がいいですかね?
馬たちも休ませないといけないし……どう思われます? ダージェさん」
「ボリスやリーナちゃんがそう判断するならその計画で行ってくれ」
ただ問題は、その中継地での天候と現状なのだが、特に気温と残雪がネックになってくる。
森ひとつ抜けただけなのに、周りの景色が別世界のように変わったことにアンナリーナたちは驚愕する。
これまではちらほら見かけられていた白いものが一切見られず、雪が溶けたぬかるみすらない。
まだまだ気温は低い(現在マイナス0.5℃)がこのくらいなら王都と変わりない。
それからしばらく走って、予定していた中継地に着いたのは夕方近くになっていた。
その場に着いてアンナリーナは一番に結界を張った。
その顔は厳しく、ピリピリしている。
「リーナ、どうした?」
「熊さん、今夜は忙しくなりそう」
アンナリーナは箱型馬車に二重に結界を張り【隠蔽】で、その中の姿を消した。
だが、中からは外の様子が伺える為、その夜は肝を冷やすことになる。
馬は暴れないように頭巾をかぶせ、それから世話を始めた。
「そろそろ、おいでなすったようよ」
昼夜兼用の、夜としては少し早い目の食事が終わった頃、中継地に隣接する森から狼の遠吠えが聞こえてきた。
「どちらかと言えば夜行性のはずなのに、もう襲って来るなんて……よほどお腹を空かしているのね」
結界があるため、攻撃が届くことはないが、慣れないダージェやボリスにとっては恐怖だろう。
イジとセト、それにテオドールが睨みを利かせているが、眼前に飛びついてくる森狼の迫力は中々のものなのだ。
「なあ、こいつらを放っておくのか?」
テオドールは納得できないようだ。
「多分数時間後には死骸の山が出来ているだろうから放置で。
それよりも、次に来る連中の方が鬱陶しいかも」
可視出来ないはずのアンナリーナたち一行に対して、森狼たちはその気配を感じて襲って来ている。
対して、次にやって来る連中は、結界の膨大な魔力を感じて、そこに人間がいると確信して来るのだ。
「森狼に襲われて、疲弊しているところを襲って来るなんて、悪がしこいと言うか、何と言うか」
冬場で獲物が少ないだろう森狼は、おそらく馬車が走っている時から追って来ていたのだろう。
対して “ 盗賊団 ”の方は。
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