第142話 35『ダンジョン探索開始』

 すぐ下の第2階層に足を踏み入れる直前の階段に腰掛けて、アンナリーナは【探索】の結果をしみじみと見つめていた。


 画面いっぱいに広がる、色鮮やかな点。

 赤、緑、青。


「主人様、この赤い点が魔獣、緑の点が採取可能な素材、青がヒト……いわゆる冒険者です」


 アンナリーナが今見入っている点が、緑のものを除いて動き回っている。


「私の前世の知識では、ダンジョンは迷宮とも呼ばれていて、魔獣を際限なく生み出す。

 そして倒された魔獣は素材を残して消えてしまう……という事だったんだけど、合ってる?」


「主人様、それはまた何と言うか。

 ダンジョンの定義は合っていますが、魔獣は倒しても消えませんし、ダンジョンの外と変わりませんよ」


 アンナリーナは喜んだ。

 倒した魔獣をインベントリに収納して持って帰ることが出来る。


「ただ、ダンジョンが他と違うところは、一定時間以上放置するとダンジョンが吸収してしまうところです。

 これは冒険者にも当てはまりまして、だからダンジョンの中では冒険者を狙う冒険者もいます」


「なるほど〜

 やっぱり、そういうのもあるのね」


「はい、なので見た目弱そうな主人様は格好の獲物に見えるでしょう」


「獲物ってね……

 うふふ、返り討ちにしてあげる」


 そう言うアンナリーナの前で点が動き出した。

 赤と青の点が接触し、赤の点の数がどんどん減っていく。


「おぉう、頑張ってるじゃん。

 あれ?どうしたのかな」


 入り乱れた赤と青の中で、青の点がひとつ点滅し始めた。


「これは、冒険者がひとり傷を負ったようですね」


 目の前で点が消える。


「死んだようですね。

 重傷は今のように点滅で表示します」


「ふ〜ん……

 しかし、第2階層で死んじゃうって、弱っわ」


「油断大敵、という事です。

 主人様、十分気をつけて【防御】と【結界】をお忘れなきよう」


「わかってまーす。じゃ、出発しようか」



 残り少なかった階段を降り、第2階層に足を踏み入れる。

 すぐに赤い点が近づいてきた。


「! ダンジョンで初めての遭遇!

 ……コウモリ?」


 ありきたりだが【ケイブバット】が十数匹襲いかかってきた。

 セトが凍らして地面に落とす。


「コウモリの皮膜は素材になるけど、これはどうなんだろう……【鑑定】」


 ケイブバット(死)

 森に住むコウモリと違って皮膜が薄い。素材としてはやや下級。

 肉は一応食べられる。



「うん、微妙だね。

 コウモリは放置、って事で」


【飛行】で、ふわりと浮き上がったアンナリーナは小型化したセトを肩に乗せ、アマルとともに飛んでいく。

 この階層にはケイブバットしか出ないのか、他の魔獣の姿は見ない。


「てか、さっきの冒険者、このコウモリに殺られちゃったの?」


「群れたら厄介ですよ。

 主人様には関係ないですけど」


 あっという間に次の階層に降りる階段に到着し【探索】で確認して進む。


「この階層も少ないけど冒険者が入ってきてるよね。

 魔獣の数は上より多い?」


 この階層の魔獣は、森狼と見た目がそっくりな【洞窟狼】が主なようだ。

 アンナリーナにとって狼はさほど興味を引く存在ではない。

 ここも出来るだけスルーして下の階層に向かう。

 これを繰り返して今は第7階層。

 ここもまだ冒険者がちらほらと見て取れる。


「今日はこの階層で野営しようか。


 魔獣の少ない場所を選んで、いつものテントを出す。

 そして強い目の【結界】を張って中に入った。

 すぐにツリーハウスと繋ぎ、イジを呼ぶ。


 この夜は初めてのダンジョン探査にテンション上がりまくりである。

 夕食は作り置きしていたポトフ風シチューとトサカ鳥の照り焼き。リンゴのサラダとバターを練りこんだロールパン。デザートはプリンだ。


 とてもダンジョン内とは思えない食事も、アンナリーナにとっては日常以外の何物でもない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る