第9話 リッカ、街でルジアを発見する
「毎度ありっ!またお待ちしてますよお兄さん!外、雨降ってきたみたいなんで気をつけて帰ってくださいね!」
店主の元気な声に送り出されて店を後にする。目当ての酒も飲め、色々と欲しい酒や気になった食材も調達できたのだが、ルジアの件もあってやはりいつもの調子では楽しめなかった。もしかしたらと思いつつ、買出しの最中や店に向かうまでの間にもルジアの姿を探してはみたもののルジアを見つけることは叶わなかった。
(……ったく、皆に心配かけてどこほっつき歩いているんだよあいつ)
そう思いながら歩いていると店主の言っていた通り、店を出たころはしとしとと振る程度だった雨が勢いを増して強くなり、たまらず閉まっている店の軒下へと避難する。
「……参ったな。傘なんて持ってきてないから走って帰るか」
思わずそう呟いた時、自分と同じように雨から逃れるように二人の若者が自分と同じように避難してきた。二人が入れるように少し横にずれてやると、すぐに二人がこちらに頭を下げて軒下に入ってくる。
「いやぁ、すみませんねお兄さん。いきなりこんな風に降られるとまいっちゃいますよねぇ」
そう言って男が気さくにこちらへ話しかけてくる。どうやら彼等もどこかのお店で一杯引っ掛けてきたようで既にほろ酔いの様子だ。こういった見ず知らずの相手との些細なやり取りは嫌いじゃない。出来ればこんな雨の中ではなく、酒場のカウンターの方が良かったのだが。
「本当ですね。すぐ止んでくれると良いんですがねぇ」
その後、雨が止むのを待ちつつ彼等とたわいの無い会話を二言三言交わしていると、若者の一人がぼそりと呟いた。
「いやぁ。でもさっき見かけた銀髪の女の子、目つきは少しきつかったけど可愛かったなぁ。やっぱり駄目もとで声をかければ良かったよ」
銀髪、という言葉に思わず反応する。自分の隣の若者がそれに続く形で言う。
「なんだよお前、まだそれ言ってんのかよ。ま、確かに可愛かったけどちょっと怖そうな雰囲気だったじゃねぇか。それに、何かあてもなくふらふらしてる感じだったしよ」
若者がそこまで言ったところで、思わず彼に詰め寄る形で声をかける。
「……すみません!その子、どこで見かけましたか?詳しく教えてください!」
いきなりそう言われた若者たちが自分の剣幕に驚きつつも、ぽつぽつと答えてくれる。
「え?ついさっきだから、ここからそう離れてない向こうの路地を真っ直ぐ歩いたところだけど……」
そう言って若者の一人が路地の方を指差し答える。それと同時に自分は荷物を地面に投げ出しその方向へと走り出した。
「あっ!お兄さん!荷物!荷物忘れてるよ!」
背中に聞こえる若者の声を無視し、言われた方向へと雨の中走り出した。
「……何してんだよお前。学園の外まで飛び出しやがって。皆、心配してるんだぞ」
若者から聞いて駆け出したその先には、土砂降りの雨の中ふらふらと歩いているルジアの姿があった。
「…………」
ずぶ濡れになっているルジアからは返事は無い。ともかく、こんな状態ではまともに話を聞けないのでひとまず連れ帰ることにする。
「……ほら。とりあえず帰るぞ。お前、ずぶ濡れじゃねぇか。このままだと風邪引くぞお前」
そう言って手を取ろうとすると、ルジアがその手を跳ねのける。
「……構わないでよっ!あたしの事は放っておいて!」
叩かれた手を見つめながら、なおもルジアに声をかけた。
「そうは言われてもな。悪いがここで見つけた以上、一緒に帰ってもらわないわけにはいかねぇんだよ。皆もずっと心配しているんだからな」
そう自分が言うものの、こちらの話を聞こうとしないルジア。それどころかいきなり自分へ殴りかかってきた。
「……しつこいっ!構うなって言っているでしょ!」
ルジアのその拳を受け流し、くるりとその手を後ろに捻る。
「……痛っ!何よあんたのその反応速度……きゃっ!」
ルジアが何か言い終わるよりも先に、米俵を担ぐ様にルジアを担ぎ上げる。これ以上抵抗されないように担ぎ上げたルジアに釘を刺すように言う。
「おっと、動くなよ。この状態で動くとお前さんスカートだから後ろから色々見えちまうぞ?それが嫌だったら大人しくしてろ。あぁ、それと間違っても魔法を使おうなんて思うなよ。魔法で俺に勝てないのは百も承知だろ?それに街中で許可無く魔法なんざぶちかましたら、どうなるかは今のお前でも分かるだろう?」
そう言うと勝ち目が無い事を悟ったのか、このまま担がれた状態で暴れると下着が見えるのを理解したのか徐々にルジアは大人しくなっていった。
「よし。立場を理解してくれたようで何よりだ。まぁ心配すんなよ。この時間だし学園の連中に今から連れて行くとかはしないからさ。……お前の事情も少しは分かったからな。ひとまず、俺一人にだけ話を聞かせてくれよ」
そう自分が言うと、先程まで暴れていたルジアの動きがぴたりと止まり、小さな声で呟いた。
「……そっか、あいつから聞いたのね。あたしの事」
それだけ言うと、諦めたようにルジアの抵抗は嘘のように収まり自分に体を預けた。降ろせと言うかと思っていたがまたそのまま無言になったため、ルジアを抱えながら言う。
「あぁ。ある程度は、な。ま、今はそれよりお前を連れて戻るのが先だ。とはいえ、寮は門限があるし学園に戻ったところでこの時間じゃどうにもならないからな。悪いが、俺の部屋で詳しく話を聞かせて貰うぜ。それに、このままじゃ二人揃って風邪引いちまうからな」
そう担いだままのルジアに声をかけ、自分の住居である管理人室へと向かった。
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