28話 臨死体験、パーティ、風呂問答

空は暗く、枯れ果てひび割れた大地。クレーターの底に僕は座り、エクスちゃんにやられた事を思い出し終えて目を開けた。


普通ならこんな場所に来たら驚いたり困惑する筈だ……でも。この場所はどうにも違う。


——何処となく、安堵感を覚えるのは何故だろうか?


右手にはいつの間にか黒い種が握りしめられているが水源がない以上、種は芽吹かないだろう。


「この場所は一体……。」


「魔力が生まれる『泉』だ。知らねえのか?厳密に言うなら…あー確か『盆陣』って言ったっけか…」


男の声が聞こえた方向を見ても、誰もいなかった。


「凡人…エクスちゃんも確かそんな事を…」


「ヒヒヒ…違え違え。お盆の『盆』と陣地の『陣』で『盆陣』だ。にしても懐かしい奴の名前が出やがったな。元気でやってんのか?」


「その。元気過ぎて…僕、殺されましたよ。」


ケケケと大笑いする声が聞こえた。


「お前、人間だろ?なのに、エクスに殺されてんのか…ブフゥ!!ケケ、ケケケケ!!!」


「…笑うなよっ!?僕だって突然すぎて、何が何だか…ていうか誰だよ。姿を現してもいいんじゃないか?」


「ヒヒ…面白えなお前さん。だが生憎、今のオレには実体がねえ…幽霊みたいなもんだ。」


わざわざスロゥの為に、魔力を取りに来たんだが…と男は呟く。


「え…スロゥちゃん?何かあったのか??」


「お前には関係ねえ話だぜ?…だが、流石に困ったな…泉が空っぽとか予想外だぜ。というか初めてだ。」


「…僕から魔力を取れれば、何とかなるんじゃないか?」


「馬鹿か。見る限りお前の魔力はゼロだぜ?何処にそんな力が…」


そんな問答をしていると、空から大粒の雨が降り始め、割れた地面を潤していくどころかどんどん水位が上がっていく。


「いや…待って、このままだと溺れるんだけど!?僕はカナヅチだから…泳げなっ…あっぷ、助けてえ!!!」


「ラッキー。その魔力…頂くぜ?」


僕が溺死する寸前で突如、水が消えて受け身も取れずに腰をうった。


「おい、お前さん生きてるか?」


「…ゲホッ、ゲホッ…危うく死にかけたが…」


「文句つけれんなら元気だな……いいぜ。ちょっと気になるから、お前をチィと奪ってやるよ」


「何を」



———ブツッ



「…したんだ?」


「お前、本当に色んな奴と会ってんな。だが残念ながら最後の1人…プライには絶対会えねえだろうからコンプリートは無理だがな。ケケ、ケケケッ!!」


「…?……??」


「用も済んだし帰るわ。じゃあな盆陣……人間の形に進化した…泉を律する魔力の器。」


それ以降、男の声が聞こえなくなり僕はため息をついてふと上を見上げると…空は明るくなっていてそこには…


——クレーター…否。魔力の器に覆い被さるくらいに巨大な灰色の潤んだ瞳が僕を見下ろしていた。


……



腹部の辺りから肌寒さを感じて、飛び起きるように目を覚ました。


「…だいじょうぶかー?」


「はぁ!?…こ、ここは…」


森の中、僕は起き上がるとカオスちゃんがニコニコしながら何かに座っていた。


「元の場所に戻ってきたのか…っ、エクスちゃんは…」


「はんせいさせてるんだー。」


「…?反省って…っ!?」


月明かりで可愛らしいカオスちゃんの姿が鮮明に映り、僕は恐怖を覚えた。


「……う。」


ボロボロになって仰向けに倒れたエクスちゃんの上にカオスちゃんが座っているのに気がついたからだ。


「よるにおかしをたべようってやくそくしてたのに、エクスがおかしくなっててね、たたこうとしたきたから…」


そう言いながら、倒れたエクスちゃんの髪を優しく撫でて遊んでいる。


「そ、そうなんだ。とりあえず…お菓子を食べに戻ろうか。僕、ちょっとお腹空いちゃってさ。エクスちゃんやグラ様と皆んなで…ね?」


「うんっ!」


倒れたエクスちゃんを何とか肩に背負わせていると、少し俯いたカオスちゃんが僕の手を握ってきた。


「エクス…だいじょうぶかなー?」

「あのさ。カオスちゃんは僕に何かしたの?」


起きた時からずっと腹部が大きく破れて、傷一つない肌が露出している事が、つい気になって声をかけていた。


「うー?よくわかんない!」

「そっか。ならいいや。」


わざわざ地雷原に踏み込もうとするとろくな事にならないという前例を知っていた僕は、そこで別の話題に切り替え、楽しくカオスちゃんと会話をしながら飽食亭へ戻った。


……



帰ってきた後すぐにリビングにて、お菓子パーティが開催された。


「わーい♪♪どーなつだ!!」


「皆さん本当に申し訳ありませんでした。夢中になって料理の研鑽をしていて…鑢さんには申し訳ない事をしてしまいましたね……お腹も空いていたのに。」


「いえいえ、そんな…グラ様は悪くありませんよ。勝手にやって来たのは僕の方ですし。」


美味しそうにドーナツを頬張るカオスちゃんは置いておいて、グラ様は終始謝罪をし続け、元の態度に戻ったエクスちゃんはというと、


「…悔しいわ。やっぱり、グラの様にはいかないわね。このフルーツサンドのレシピ…後で無理やりにでも聞き出そうかしら。そして我が主様にいつか…ふふっ……ねえ何見てんのよ?」


「…何でもないです。」


聞かぬが花。知らぬが仏。僕は何も聞いていないし見てもいない。下手に反応すれば、待っているのは…死だ。


無意識に少し筋肉質になった腹部をさすっていると、グラがゆっくりと席を立った。


「僕はこの辺で失礼します。飽食亭に出す料理の仕込みをしなければいけませんから。」


「仕事熱心なのはいいけど…少しは休みなさいよ。」


「エクスちゃんの言う通り。グラ様、一日くらい休んでも罰は当たらないと思いますよ。」


僕らの言葉を聞いて、グラ様は少し恥ずかしそうに、頬をかいた。


「僕を心配してくれてありがとうございます。ですが…これだけは譲れません。」


「…そ。なら勝手になさい。」


通り過ぎようとするグラ様が僕の前で足を止めて小声で呟いた。



——明日の早朝にここに来て下さい。話したい事があります。



僕が返事をする前に、スタスタとリビングから出て行ってしまった。


「これで…2人きりね。」

「え?いや、カオスちゃんもい…」


机に突っ伏して、すうすうと眠るカオスちゃんを見て、僕は反射的に立ち上がり後ずさった。


「まさか、僕をまた殺そうと…」

「………………………………はぁ。」


エクスちゃんは呆れた表情で両手を上に上げた。


「もうそんな事しないわよ。あの時はあんたがあの『盆陣』だった事に驚いて…気が動転してただけよ。第一、こうしてお菓子を食べてる以上、やり合わないって事くらい容易に察せるでしょ?」


「動転というか、口調も性格すらも変わってましたよね?…というか、あの時…僕はエクスちゃん殺された気がしたんですが…」


「……カオスを部屋に戻してくるわ。あんたは部屋で待ってなさい。」


僕の目を見ずに、眠るカオスちゃんを抱えて、どこかに行ってしまった。この場合、激怒して殺された咎を責めるのが正解な気もするが…


(超越者でも罪悪感とか芽生えるんだなぁ。)


と、今の僕はとても関心していた。


『死んだぁ?ハハハ!!!うぬの自業自得じゃな。というか、その程度でくたばる凡人に問題があるの……そうじゃ!直々にワシがうぬを鍛えてやろう。日頃の憂さ晴らしにもなって、一石二鳥…いや、一石千鳥じゃ!!!!』


とかエンリなら言いそうだからか、エクスちゃんのその対応がとても優しく思えた。


(…そうだ。)


暇つぶし感覚で僕は、ポケットから冒険者カードを取り出した。なんか学校の成績表みたいだから、今までその内容を見ようともしなかったけど。


「……おぇっぷ?」


つい変な声を出してしまったが、これは仕方がないと思う。あの男に散々才能がないと言われた分、これは……予想外だった。


「……。」


僕は再度、椅子に座って何度も目をこすりながら詳細を確認していると、エクスちゃんが帰って来た。


「あっ…エクスちゃん見てよこれ!!」


「……ふぅん。そう…じゃあ行きましょ?」


「は、反応が薄い…ってどこに行くので?」


唐突に右手で僕の手を握られて、僕はエクスちゃんをよく観察してみると、ほんのりと赤く頬を染まっていた。


「あっ、あんたが掃除してくれた…その…部屋によ。」


……



別にドキドキしている訳ではないと先に宣言しておこう。エクスちゃんもそれはそれは可愛らしい少女ではあるが、僕のストライクゾーン…熟女で未亡人からは外れている。


「…服、脱ぎなさいよ。」


「……。」


エンリ(偽)といい、僕にもついに幼稚園以来のモテ期が来てしまったらしい。やれやれ…モテる男は辛いものだ。


「ねえ早く入りなさいよ。お湯が冷めちゃうわよ?」


「ん〜あの…エクスちゃんは入らないの?」


「はぁ…防水機能が壊れてるからお湯に入ったらショートしちゃうわよ。それに大きさ的に1人用じゃない。普通に考えたら分かるわよね?」


「…さいですか。」


僕は現実逃避をやめてお湯がはられた磨かれて白くなった容器…否、浴槽に入った。


「はぁ〜〜〜〜久々のお風呂は…いいなぁ。」


「嬉しいのは分かるけど、こっちに水をかけないように気をつけなさいよ。」


「分かってますよ〜…はぁ……」


まさかここに来てまたお風呂に入れる日が来るなんて…そんなふわふわとした感慨に浸っていると、エクスは申し訳なさそうに口を開いた。


「あの時…あんたを襲った事は、」


「別に気にしてませんよ。それに…もう終わった事じゃないですか。」


「あんた…意外に達観してるのね。」


「達観も何も…エンリと一緒だと、多少は許容しないと僕の身が持ちませんから。胃がキリキリしたり、頭がしょっ中痛くなるんですよ?」


「…そ。」


三角座りで、浴槽に繋がれている体から出た配線を右手で弄りながらエクスちゃんは小さく笑った。


(こう見ると、エクスちゃんって…人間じゃないんだよなぁ…)


「こう見ると、エクスちゃんって…人間じゃないんだよなぁ…」


ジッと僕を見つめてくるエクスちゃんの様子からまた何かやらかしたのだと悟って、どう謝罪しようかと思考を巡らせていると…


「どんなに人間に似せようとも、果たす目的の為に造られた以上、兵器はただの…兵器だから。そこはマキナ姉様も…エンリだって変わらない。」


「え、エクスちゃん…エンリが兵器って…それに…」


マキナ…?姉様と言ってる以上、エクスちゃんの姉…でも、機械に姉妹とか…それにその言い方だと、エンリも…


「エンリの事…知りたい?」


「……!!!」


(ああ知りたいよ。でも…僕がそこに土足で踏み込んしまってもいいのだろうか?)


……数時間後。のぼせかけながら、僕は無言で答えを待っていたエクスちゃんの目をしっかりと見て言った。


「教えてくれ…エクスちゃん。」


「…いいわ。教えてあげる。」



——エンリの正体を。ついでに、あんたの事についても…ね。


















































































































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