復活・再臨
21話【序曲】或る男と4人の理解者
走っている内に雰囲気が変わり、ふと辺りを見渡す。
(…着いたか。)
——魔王領。ここまで来れば魔王城は目と鼻の先だ。
「来るがよかろう。この際、出し惜しみはなしじゃな。」
——
元々、レヌに宿らせていた力を行使する。
後…一回。
体から猫耳や尻尾が生えて力が巡り、身体能力が格段に上昇する。遠方の砦から無数の矢がこちらへ放たれるのを見て、軽く攻撃を弾いているとふと喪失感が体中を巡った。
(タイント?まさか…)
「おらぁ!!喰らえぇ!!!」
「…チッ。」
エンリの背後に忍び込んでいた小人のナイフを右手の爪を伸ばして防ぎ、考える暇もなく…戦闘が始まった。
……
…
「サビ様…あのお方が魔王領に侵入しました。」
カーマの声で、ゆっくりと目を開ける。
「…例の転生者はいないのか。」
「ええ…何故か単騎で来ています。こんなに早く来る事は予想外です。例の兵器はこちらも総力を挙げてはいますが…後数時間はかかるかと。」
「ご苦労だカーマ。ミンとギャレトは…配置についているな?」
「…はい。私も完成次第…援護に行きます。」
「そうか…なら………む?」
サビは言葉を切って、下を向いた。
「今日…タイントとは連絡を取ったか?」
「い、いえ…昨日から私も開発にかかりきりで…」
反射的に玉座から立ち上がって、カーマの細い体を抱いて右手一つで天井を破壊しながら、上空へと跳躍した。
「…な…なぁぁぁぁぁあ!?!?」
「下を見よ。」
突然抱えられてジタバタするカーマの動きが魔王城を見る事で止まった。
「…う、嘘。」
絶句するのも無理もない。なにせ魔王城を含めた魔王領全域が
——氷漬けになっていたのだから。
……
…
「…おい。小人…」
「……う、うわぁ!?」
ミンが硬いベットから飛び起きると、さっきまで戦っていた少女が腕を組んで立っていた。
…ピョコピョコ
「安心せい…今は殺さぬ。それよりも厄介な奴が復活したからのう…今は休戦じゃ。」
「ほ、本当かよ。ここは…メロン要塞かな。」
「…ワシに聞くなよ、小人。踏み潰すぞ…」
「ひぃぃ。身長差とかそこまで変わらないのにぃ!!」
「……………………………………………あ?」
今は味方かもしれないけど、いつか後ろから刺される気がする。そんな絶大な不安を抱えていたが、扉が開き…入って来た人物を見て、心の底から安心した。
「はっ、サビ様ぁ!!!…それにカーマも。」
「無事だったか…ミン。」
「私が無事な事に対して、反応が薄いのではありませんか?」
「…そんな事ないよ!!…あれ…ギャレトは?」
カーマが顔を伏せた。
「…え、何その反応…あ。え……嘘だよね?」
「ギャレト翁は…ううっ。」
「っ、サビ様!!!無事なんですよね!?」
サビ様の方を見ると、少女と睨み合っていた。
「…憎いのう。もしこの場で魔眼が使えれば即座に息の根を止められるのじゃが…チッ。運のいい奴じゃな。」
「こちらこそだ。もしもアレが復活してなければ、全盛期でもない…不完全なエンリなんてすぐにでも瞬殺できるぜ。」
「ほほう。またもやワシの名を呼ぶか。構わんぞ…ここで雌雄を決しても。」
「あはは。そうかい……殺るか?何もかも全部かなぐり捨てて。」
「望む所じゃ!!!徹底的に叩きつけて、何故そうなったのか…吐かせてやる。」
空気がピリつき始めて、両者は臨戦体勢に入り始める。
「あわわわ…では何とかして下さい。私はこれから、例の兵器の回収に行きますので。」
「はぁ!?おいっ!!!逃げんなよ…一緒に止めるぞぉ…」
「い、嫌です……死にたくないので。」
「アンタそれでも四天王か!?」
「裏方かつ命大事にが私のモットーです(キリッ)ミンが1人で行ってください。」
「…ええい、面倒くさいなぁ!!!」
そうして揉めていると、扉が開いた。
「…ほほほ。氷山の中から探し物とは、老骨には些か堪えますなぁ。寒くて腰が痛いのなんの…おや、これは…?皆様お揃いで。とても仲が良い様子…見ていて微笑ましいですなぁ。儂も混ざってもよいですかな?」
……
…
各々が椅子に座り、机の上に置かれた地図を眺める。
「…外の状況としては以上ですな。」
「……そんな。魔物連合が全滅なんて…もう生き残りが…私達しか……いないのですか?実はいるんですよね!!地下壕もいくつかありましたよね!?そこに…」
「カーマ。仮に地下壕に避難した生存者がいたとしても上には分厚い氷があるんだ…遅かれ早かれ、中の酸素がなくなって……っ。クソ。」
「ハ…実に下らんのう。」
「…っ、おい…何だって?」
少女の言葉にイラついて、つい反応してしまう。それを気にする事もなく俺の方を向いて言い放った。
「ふん。下らんと言ったまでじゃ…いつから魔物は…うぬら魔族は仲間を重視するなどと…そんな呑気な思考回路に変わったのじゃ?」
「…っう。でも…でも!!」
「小人…強ければよいのじゃよ。魔族も魔物も仲間意識は不要…弱者は虐げられ淘汰される。それが摂理じゃ……分かりやすいじゃろう?」
少女に睨まれて、俺は心臓を鷲掴みにされたような感覚がした。
「あぐ……っ。」
「本当に弱くなったのう…少し殺気を放っただけじゃったが。ガッカリじゃ…こうなったら一度、教育し直した方が…ひゃん!?」
いつの間にか、少女の後ろにいたサビ様がその猫耳を撫でていた。
「な、なにを…んっ……するのじゃぁ!!!!!」
頬を赤らめながら、サビ様を爪で抉ろうと行動する。そのお陰で視線がそれて息も絶え絶えになりながら、深呼吸をする。その傍らで、壁が抉れる轟音が聞こえた。
「いくらエンリがイラついていても、我は配下が虐げられる姿を見たくなかったのでな。それはそうと…柔らかくて触り心地がいい。もっと触ってもいいか?」
「ふん。次やったら今度は確実に血祭り決定じゃぞ……チッ………こんな状況でなければ…」
そう言いながら少女は猫耳を引っ込めて、不貞腐れた様に机に突っ伏した。
「…おや?尻尾が残っておりますなぁ。昔飼っていた三毛猫を思い出しますわい。この流れならば…いざ、モフモフタイムで…ぐおぁぁぁぁぁぁぁあ!?!?!?」
「ぎ、ギャレト翁ーーーーーー!!!!!」
密かに忍びよっていたギャレトは、少女の音速を超える荒ぶる尻尾に跳ね飛ばされて、顔面から壁にめり込んだ。
……
…
「…何か考えがある者はいるか?」
………。
配下の3人は黙って思考を巡らせているようだった、そうして沈黙が続いていると、未だに突っ伏しているエンリが呟くように言った。
「どんなに対策した所で無駄じゃよ。相手は…神じゃからの。」
「ほほ。随分と大きく出ましたなぁ。それが本当なら…万が一にも勝つ事は出来ませんなぁ」
「か、神!?……って、何だよ?」
「何ですって。ミン…これから勉強を始めます。覚悟しておいてください。」
「これについてはカーマと同意見だ。一度、退席する事を許す。」
「え!!サビ様まで!?あの…そんなに有名なんだな…でも俺も少しでも皆の助けに……」
「なれませんよ。論外です…では、サビ様。行って参ります。」
「…ほどほどにな。」
「心得ております。」
立ち上がったカーマに引きずられて、呆然としているミンと共に部屋から出て行った。
「さて…原初の魔王殿。そういう風な言い回しをするという事は…何か策があるのではないですかな?」
「……聡いな老骨。事実、その通りじゃよ。」
「老骨とは…ほほ。」
照れたようにギャレトは微笑んだ。
「いや…ワシは悪態をついたのじゃが。」
「儂にとっては褒め言葉ですわい。色んな事を乗り越えて…こうして、ここまで生きてこれたのですからな。」
「……エンリ。その方法は…何だ?」
エンリは真面目な表情で言った。
「…うぬらには教えぬ。」
「っ、おい……何でだ!!!教えてくれたって…」
「落ち着きなされ。こういうのは少しずつの積み重ねが大事ですぞ。」
いつもの自分に戻りそうになるのを、ギャレトは止めてくれた。どうしてもエンリを前にすると…自分を抑えられなくなる。
「…ハハ。言うではないか。その老骨に免じて此度の事は水に流してやる。」
「ほほ。これは有り難いですな。では、儂達はこれから…何をすればよいのか……教えてもらいましょうかの。」
「……よかろう。後で、あの小人や魔女にも共有せよ。一々説明するのは面倒じゃ。」
「心得ましたぞ。」
「…分かった。話せよ…エンリ。」
エンリは話した。それは余りにも…我…僕には受け入れ難いもので…それでも必死に堪えて、僕とギャレトは部屋を出て、2人がいる部屋へ向かい、そこで話を打ち明けた。
「…やはり駄目だ。これは…作戦と呼ぶのには余りにも…。」
「「………。」」
2人は顔を見合わせて、こう言った。
「サビ様の為なら、私は…何処までもお供しますよ。」
「俺…嬉しかったんだ。劣等種族だろ…小人って。そんな俺を四天王の1人にしてくれた。だから俺は従う。その恩は絶対に返したいんだ。」
「……怖くは、ないのか?」
「はい。ですが、皆と…一緒ですから。」
「癪だけどさ、アイツじゃないと…勝てないんだろ?…怖いとかは置いておいて。」
「死ぬんだぞ……確実に。」
わなわなと震える僕の肩にギャレトが手を置いた。
「そうでしょうなぁ。神を相手に果たして何処までもつか…そこが勝負所ですな。」
「…ギャレト翁。だが、お前は…」
ギャレトは肩から手を離して、2人がいる所に立った。
「世迷言を。儂達はとっくの昔に、サビ殿に忠誠を誓った身ですぞ?」
「サビ様にやれと言われたら全力を尽くすのが…四天王である私達の役割です。例えここで朽ち果てようと…貴方さえ生き残ればそれで満足です。」
「…俺もだ。いつもみたいにかましてくれよ。サビ様。」
「……それにここで儂らが諦めたら、テネホにどやされますぞ。」
「ははっ…そうだった。アイツ、生真面目だからなぁ。よく俺にいちゃもんつけてきたし。ここまで言ったんだ。カーマも…逃げるなよ?」
「…ふふ。勿論、危ないと判断した瞬間には皆様を犠牲にしてでも、サビ様を連れて……全力で逃げる所存です。」
「…おい!?勝手に犠牲にして、逃避行しようとすんじゃねえっ!?!?」
「……ほほ。お若いお若い。」
(そうか。こいつらは…とっくに。)
覚悟が決まっていないのは…僕だけだった。
真似事だとしても…今の僕は…我は
——コイツらの頂点に君臨する…『魔王』だ。
僕…我は心を切り替える。これが…最後になるだろうから。ならせめて、いつもの様にカッコつけさせてもらおうか。
「決まりだ。我の勝利の為に…死んでくれ。」
その言葉を聞いた3人はバラバラの事を口にした。
「分かりました。貴方の事は…私が守ります。」
「任せとけ。神だろうが…まだよく分かってないけど、俺達の敵じゃねえだろ。」
「ほほ。いっちょ頑張りますかな。」
だが全て共通して、我への忠誠心に溢れた…暖かい言葉だった。その後、4人は他愛のない会話で盛り上がり…最後になるであろう刹那のひと時を精一杯、楽しんだ。
………
……
場所はメロン要塞から東にある魔王城の広場…普段なら魔物達の憩いの場である場所は、今では凍りつきその面影はまるでなかった。
———かつて封印された存在にしてこの事態を引き起こした…元凶。
白装束を着た水色の長髪の少女『熱神』ミホホは氷の椅子に座り1人、歌を歌っていた。
「雪やコンコンッ♪…霰やコンコンッ♪…あれ?お客さんかな?」
薄い紫色の瞳で、歩いてくる人(?)達を観察する。
「不思議。悪魔や天使…人間でもないのね。」
小さい人はナイフを構えて、魔法使いっぽい人は長い杖を持っていて、老人は…何も持っていなかった…でも大なり小なり殺意を抱いてる。
「うん……なら、歌ってあげる。」
——あなた達の鎮魂歌を。
老人と小さい人がこちらに接近して来るを見ながら、ミホホはクスクスと笑った。
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