お星さまと少女
お星さまがキレイな夜。たくさんの流れ星がキラキラとふりそそいでいます。
ボクが原っぱで空を見上げていると、木のカゲから、ガサゴソ。音がします。
よーくみてみると、ボクと同い年くらいの女の子がいるじゃありませんか。
白いワンピースをきたかわいらしい女の子はキラキラと音を立てて、ボクのところにかけよってきました。
「はじめまして。わたしはながれ星。あなたのねがいをかなえてあげる」
ボクはおどろいて目をみはります。
「ながれ星? キミはお星さまなの?」
「うん。わたしはお星さま。あなたのねがいをかなえることが、わたしのお仕事なの」
ボクは知っていました。おじいちゃんのお家のあるこのあたりには、天使の伝説があるのです。星が落ちてくるほどうつくしい夜、天使が舞いおりて、人間のねがいかなえてくれる、という伝説です。
つまり、この女の子は伝説の天使、ということになるのでしょうか。
「それはタダでかなえてくれるの? それとも、お金がかかる?」
ボクはしっかり者です。ママから「知らない人にやさしい言葉をかけられても、すぐに信じてはダメよ。わるい人もいるのだからね」と言われています。
もしかしたら、この女の子は天使のフリをしたわるい子かもしれません。だから、たしかめてみたのです。
「かからないよ。あなたにはわるいことが起こることはないわ」
「あなたには? つまり、キミにはわるいことが起こるというの?」
女の子は、うーん、とうなり、考えはじめました。
「わるいことかはわからないけれど、お星さまはヒトのねがいをかなえると、消えてしまうの。だから、わたしも消えてしまうの」
「それは、すごくかなしいことだね。じゃあボクは、キミがヒトのねがいをかなえても消えないようにねがうよ。そうすれば、キミは消えなくてすむでしょう?」
女の子は小さく首をふります。ゆれるかみから、キラキラと光がこぼれました。
「それはできないの。お金もちになる、とか、スポーツが上手にできるようになる、とか、そういうあなた自身をかえるおねがいしかわたしはかなえられない。かんたんに言うと、あなたにかんけいのあることしかかなえられないのよ」
ボクはウデをくんで考えます。
「キミは消えたらどうなるの?」
「またあたらしい星として生まれかわるわ。そして、時がきたら、またヒトのねがいをかなえるの」
「生まれかわったら、またキミに会える?」
「どうかしら? 生まれかわるとき、わたしはすべてを忘れるわ。あなたのことも、そして、わたしのことも」
「それは、すごくさみしいね」
ボクのムネの中にかなしみがこみあげます。お星さまはこんなにキレイなのに、運命というのはなんてつめたいのだろう、と泣きたくなりました。
「さぁ、ねがいごとを言って」
女の子はそんなボクの思いをよそに、ほがらかにほほえみます。
ボクは青く光る星空を見上げ、大きくいきをすいます。そして、ムネをはり、ねがいごとをするのでした。
*
星が落っこちてきそうなほど、うつくしい夜の日。色とりどりの星たちがまたたいています。
「こんばんは」
原っぱの真ん中で夜空を見上げるひとりの女の子にボクははなしかけます。
「こんばんは」
女の子はやさしいえがおで、ボクにほほえみかけました。そして、ボクの顔をじっと見つめて、
「……あら? どこかで会ったことがあるかしら?」
と、ふしぎそうに首をかしげました。
「うん。会ったことあるよ」
「……ごめんなさい。わたし、ぜんぜんおぼえてなくて…。でも、なんだかなつかしいようなそんな気がするのよね」
ボクは首を横にふりました。
「だいじょうぶ。それで、いいんだ」
ボクが女の子に伝えると、女の子は「よかった」と言い、ホッとしたような安心した顔をします。そのえがおがとてもかわいくて、ボクのムネはポカポカしました。
ボクと女の子はならんで、星のキレイな空をながめます。
「……あのね、じつはね、わたし、お星さまなの。あなたのねがいをかなえにきたのよ」
女の子はさみしそうな声で、つぶやきました。うつむく女の子の目には、いっぱいのきらめきがたまっています。
「……うん。わかってる」
ボクがそうこたえると、女の子は顔を上げます。どうして知ってるの?と、問いたい顔をしているのです。
だけど、ボクは女の子が口をひらく前に、ことばをつづけました。
「……ボクのねがいはきまってるんだ」
ボクは女の子の手をにぎると、女の子のキラキラとかがやくヒトミを見つめました。あまりにうつくしくて、ボクのからだのすべてがすいこまれてしまいそうです。
「それは、なぁに?」
それは、とてもやさしくあまい声でした。ボクはいつまでもきいていたいと思いました。
だから、ボクはこんどもまた、前と同じおねがいをお星さまするのです。
「またキミに出会えますように」
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