おやすみ前の宝石箱

佐倉 るる

どうしてくん


「ねぇ、どうして?」


 これが、最近のボクの口癖だ。

 「どうして?」と聞くと、お母さんもお父さんもさまざまな表情をしながら、答えてくれる。

 ボクはそれが楽しくて、今日もお母さんとお父さんに質問を投げかける。



 朝、ボクはキラキラと輝く空を見上げながら、幼稚園に送ってくれるお父さんに聞いた。


「ねぇ、どうして、空は青いの?」


 すると、お父さんは、微笑みながら、


「遠く遠くにある海を映しているから、青いんだよ」


 と、言った。


「じゃあ、どうして、海は青いの?」


 と、聞くと、お父さんは、


「空の青色を映してるから青いんだよ」


 と、言った。


 ボクの頭の中はごちゃごちゃになった。


「二つとも青いの?じゃあ、どっちが先に青かったの?」


 すると、お父さんは声を出して笑いながら、


「あはは、確かにな。どっちが先に青かったんだろうな。よし、今度、お父さんがきちんと調べてボクの質問に答えるよ」


 と、言った。


 ボクは、なんだか心がぽかぽかした。



 ボクは、お母さんの困っている顔も好きだ。お母さんとクッキーを食べているときに、お母さんに聞いた。


「ねぇ、どうして、お菓子は美味しいの?」


「甘いからかな?」


「どうして、甘いものは美味しいの?」


「お母さんも、ボクも、甘いものが好きだからだよ」


「なんで、ボクとお母さんは、甘いものが好きなの?」


「えっと…、んー、なんでだろう?」


 お母さんは、首を傾げて、困ったように優しく微笑んだ。ボクの心は、じんわりと温かくなった。



 お母さんとお父さんは、「どうして?」と聞くと、褒めてくれる時がある。夕食後、お母さんとお父さんと歯を磨いているとき、ボクは聞いた。


「ねぇ、どうして、鏡に映ると反対になるの?」


 お母さんとお父さんは、鏡越しに、びっくりした顔をしたあと、お父さんが、ボクの頭を優しく撫でた。


「そんなこと、よく気がついたなぁ。お父さん、当たり前になってて気づかなかったよ」


「そうね、お母さんも、今まで考えたことなかったわ。ボクくんはすごいのね。反対になる理由、お父さんもお母さんもわからないから、歯磨きが終わったら、一緒に調べてみよっか」


 お母さんがにっこりと笑う。褒められて嬉しくて、ボクの心は、なんだか、むずむずっとした。



 夜、お母さんとお父さんと、三人でお布団で寝ているとき、ボクは聞いた。


「ねぇ、どうしてお父さんとお母さんは結婚したの?」


「ずっと一緒にいたいからだよ」


「どうして、お母さんとお父さんは、ずっと一緒にいたいの?」


「それはね、お母さんはお父さんを、お父さんはお母さんを、愛しているからだよ」


「愛してるってなぁに?」


「相手のことをすごくすごく大切に思う気持ちのことだよ」


 お母さんとお父さんはそう言うと、ボクのそばにきて、ボクのことをぎゅっと抱きしめた。


「ボクのことも愛してるよ」


 ボクは二人の胸の中で、静かに目を閉じた。心の奥がぎゅっとした。



「どうして?」「なんで?」「どうして?」「なんで?」


 ボクが「どうして?」と聞くたびに、お母さんとお父さんの表情がコロコロと変わる。


 ボクに笑いかけるお父さんも、困った顔で微笑むお母さんも、二人のびっくりした顔も、優しい顔で見つめてくれるお母さんもお父さんも大好きだ。


「よくそんなことに気づいたね」


 と、二人が喜んでくれるのも大好きだ。


 もっと、ボクに、たくさんのことを、教えてほしい。もっと、ボクと、一緒に過ごしてほしい。

 だから、明日もボクは、たくさんの質問をする。



「ねぇ、どうして?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る