たいむれーす。~勇者アルの6時間~

さんまぐ

第1話 これまでの話。

最低最悪、災害級なんて目じゃない魔物の討伐。


魔物は骨から皮までなんでも使い道がある。

人の縄張りに入って来た魔物だけを殺す。

親の世代、爺ちゃん婆ちゃんの世代からそうして生きてきた。

俺もそうなると思っていた。


それなのに俺の生まれた頃から魔物の動きが変わった。

すぐに魔王が生まれたと噂になり、魔王が進軍してきたという話が聞こえてきた。

最初は皆眉唾で、そんな話を信じようなんて思わなかったが、すぐに信じる事になる。


魔王軍の四天王が現れると、そいつらは肌の色や目の色なんかは違っていたが、人語を放ち人類への明らかな敵意、害意をむけてきた。

話し合いは通じなかった。愛があればなんて言っていた聖人から殺された。

そうやってようやく皆の目が覚めた。

ここから始まる戦いは単純な狩猟生活ではなく種族間の殲滅戦になった。


問題は人間側の優位は数だけで、なんとか弱そうな魔物に群がって倒し、その魔物の素材で武器なんかを作ってやっと対等の戦いができる、人類からしたら劣勢を強いられる戦い。


そんな時、都合のいい話だが、男神様が現れると三振りの聖剣を授けてくれて、「魔王を倒して元の世界に戻せ」と言ってくれた。


神様は人類の質問より先に「こんなのは過ぎた力だから、授けたくなかったんだよ。元々用意だけしてたんだ。魔王はまあ…あれだ。色々あって生まれたんだから気にすんな」と言う意訳と共に、世界に術知識と禁術書まで授けてくれて、人類は武器以外の戦う力を得た。


だがまあ、神様はそこまで心優しいわけでも、ご都合主義者でもなかった。

聖剣は授けてくれたが、聖剣の担い手は用意しなかったので、国民は皆聖剣に触れて担い手に相応しいか確かめる事になった。


三振りの聖剣「アロガン」、「ソリタリ」、「マリグニ」。


俺はそのうち聖剣ソリタリに選ばれた。

驚いたことに聖剣には意志があり、担い手や一部の人間たちとは会話が成立した。


「まあ、お前で手を打ってやろう。アロガンやマリグニに負けるな?我が名は聖剣ソリタリだ」


聖剣に選ばれた俺は、そのままを国王に伝えて晴れて聖剣の勇者になった訳だが、ここでも神様は優しくないしご都合主義者ではない。


ソリタリを持ったから、ソリタリに選ばれたから、今日から勇者になったから私は最強です。

なんてなかった。


それどころかソリタリは俺に過酷な負荷を与えてきた。扱えるようになるまで365日、24時間コレでもかと負荷送りをやってくる。

弱体化なんて話じゃない。3歳の子供にも負ける10歳が居るか?

まあここに居たが…。

しかも他の聖剣もタチが悪い。


アロガンは鍛える気もなく、担い手に「お前が合わせろ」と強要する。

マリグニは「せいぜい頑張りな」と言って、担い手の苦手な訓練ばかりを強要した。


もうこの剣達は人類を勝たせる気なんて毛頭もないのではないかと、同じ剣に選ばれた勇者達で文句を言い合ったりもした。


だがまあ魔物は遠慮なしに攻めてくる。

一日も早く強くなれと鍛えられる。

そうこうしていれば嫌でも強くなる。


10年も経つ頃には、聖剣を手足のように振るえるようになり、反攻作戦が練られるようになった。


だが反攻作戦は魔王側も同じだった。

勇者達が聖剣を振るえるようになると、各地に勇者チームが赴いて魔物を倒して人の住む場所を奪還する。


明らかに魔王軍の攻勢は弱まり、人類側の反撃が始まった。


ここで人間側は勇者3チームのうち、2チームを魔王の領土に送り込んで魔王を倒す事にし、1チームを防衛に充てる事にした。


そうすると、今度は魔王もこの機会に人間の殲滅作戦に出てしまう。

泥試合だが最後の戦いだった。


ソリタリの勇者である。俺ことアルは、魔王の領土を目指すアロガンの勇者エルと、マリグニの勇者セントに挨拶をしながら、「やはり俺が行く事にして、セントが残ればどうだろうか?」と提案をしたが、セントは「僕は確かにマリグニの訓練で多対一に慣れさせられたし、防衛の訓練もさせられたけど、侵攻は君向きじゃないよアル」と返してから、ありがとうと微笑む。


そこにエルが「魔王相手にはアルが向いているが、それこそ短期決戦型のアルを、無傷で魔王の元に送り届けるためには、俺のチームとお前のチームを使い潰す事になる。しかも帰りの事もあるから、アルは拠点防衛が向いているよ」と口を挟む。


そう。

俺に足りないものがある。

10年の修行でも手に入らずに、ソリタリからも嘆かれたのは圧倒的な術量。


ポテンシャルだけなら、ソリタリから相当と言われたし、ごく一部の天才にしか放てないと言われた、大魔術をどれも放つ事が出来るが、総量不足でどれも一度しか放てない。


それならまだ風属性しか操れないが、セントの方が大魔術を連発する事が出来るので長期戦に向いているし、エルは大魔術を放てても数発だが、水と火の魔術が使える。


参戦できない事をソリタリにボヤくと、「歪なお前が悪い。威力と総量が比例していない。マリグニの担い手レベルの大魔術で済ませれば、お前も数発は余裕で放てるのに威力の制御が狂っている」と返されてしまう。


とにかく俺は超短期決戦型らしい。


渋々エルとセントと2人を助けてくれて、こんな死地まで赴いてくれる仲間達を見送ると、ひと月して国境の観測班からとんでもない報告が来た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る