第29話 翼君、仲間特典でも優しいね

6月27日、日曜日。


午後。


翼、加奈の誕生日を祝おうとした。


そこで邪魔入った。


アヤノと愉快な仲間たちが、加奈の誕生日祝うって、現れた。


どうみても、翼のあとつけてたな。


計画的犯行だ。


「ハッピーバースデー、加奈ちゃん」

「いえーい」


静かで、いい景色が見える8階喫茶店は断念。


地下のパイデリエに場所変更。周りの客に迷惑だもんな。


翼が優しくして、自分に気があると勘違いさせた女、アヤノ入れて4人も来てる。


これな、アヤノも考えて、人選してる。


連れてきた3人、亜梨沙達、要するにな、翼の幼馴染みの誰かと繋がりがある。


自分のジカの繋がりより、翼が無下にできない相手。


私のギル友な監視員によると、加奈はにこにこ笑ってる。


私は愛想笑いと思ってた。だけど監視員は否定した。


慈愛に満ちた、というか優しい目で邪魔者たちも見てるそうだ。


翼がトイレに立った。


当然のごとく、アヤノ達のターゲットは加奈だ。


邪魔しても動じない態度に、アヤノがイラついてんな。


加奈、優しく笑ってるみてえだ。


「ふふ、みんなエネルギッシュよね」


「・・加奈ちゃん、余裕ね」


「これは本音よ・・。冗談抜きに、飛び込んでいける勇気がうらやましい」


加奈のトーンが変わった。


「か、加奈ちゃん」



「私。1回、勘違いしてるの。それから、怖くて踏み込めない」


突然のカミングアウトかよ。


「好きな男の子に何も言えなかった。ただ臆病なだけ」


やっぱ、中学時代になんかあったな。


ちょうど、加奈の中学時代を知ってる男から、長文メールも入ってる。


きっと、そこに答えがあるんだろうな。


情報提供者? 寺崎マキの婚約者だよ。

私と同じく、忍法「盗聴の術」が使える。


社会の闇に潜む、同好のカルマ持ちだ。


ギルティのくせに、カッコ良く言うな? ごもっともだ。


「翼君には感謝してる。いつも誘ってくれるし、亜梨沙ちゃんとも仲良くなれた」


さすがのアヤノも黙ってる。茶々を入れるほど馬鹿じゃねえな。


「お陰で、丸メガネを外す勇気、もらえた」


あ、次の言葉はあれだ。やっぱ、さっきのサッカー男子の言葉、突き刺さってた。


「すごく優しくしてくれるから・・。人数合わせで呼ばれただけなのに・・」


アヤノ、なんも言えねえ。



「勘違い、しそうになったんだよね」


加奈、みんな頑張ってねって言って、金置いて席立った。



ちょうど翼、トイレから帰ってきた。


「加奈ちゃん、どうしたの」


加奈、翼にな、ちょっと距離を取りたいって言った。


驚く翼。やつに加奈が笑ったんだ。



「私、また勘違いしたみたい。ごめんね・・翼君」



そう言って、店を出ちまった。


今の私達?


健太の部屋に、健太、亜梨沙、亮子といるぞ。


翼からの報告待ち。


いい知らせだと、思ってたよ。


だから、知らねえふりしようかと思った。

けど、ちっと状況が良くねえ。


知り合いからメール来たと言って、現状教えとく。


それと加奈の中学のときの話も、あとでしよう。


ここにいる3人なら、変なことに使わねえだろう。


まず、現状だけ言っとくか。


「なあ、3人とも聞いてくれ。今、他校の知り合いから、翼を見たって報告あった・・」


端的に、翼&加奈の間に邪魔が入ったこと。


加奈が、翼と距離を置きたいって言って、ある言葉を残して帰ったこと。


そのふたつ、伝えた。


あと、サッカー部男子の憶測話、加奈が気にしてるかもってな。


そんとき、亜梨沙が気まずそうだったな。


ま、しゃーないか。


「そのサッカー部マネの子たち、ひどい」


「翼、加奈を追いかけてないの?」


「まあ、翼の性格だ。ファミレスで金を女4人に払わせて、食い逃げもできんだろ」


「それもそうか・・」



健太の方、見た。


「えっ?」


私、亜梨沙、亮子で同時に声だした。


健太、立ち上がって、初めて見せる表情してる。


なんだろ、これ。


「健太?」


怒ってる。



初めて見た。健太の怒り。


理由は分かる。親友・翼と、仲間の加奈。2人が大事な時間、邪魔された。


そんでもな、健太ってこういうとき、怒らず冷静に対策立ててた。


亜梨沙と亮子は、少し嬉しそうだな。


新たな感情の芽生え。


形はどうでも、特に亜梨沙からすりゃ、進歩だ。


「健太・・。健太、怒ってるの」


「え?あっ、ダメだ」


「なんで、だめなの?」


「翼のために、何か考えないと。変な感情が混じったら、判断を間違う」


「相変わらず優しいな。けどさ、健太」


「なに亮子」


「ダチのために怒るのも、普通なんだよ。無理やり鎮めんな」


健太、何か言おうとしたけど、あいつのスマホにメール入った。


「あ、翼だ。あと1時間後、4時くらい来るって」


みんなで待つことにした。


健太怒った。


けどそれ、ダチのため。


それ考えっと、やっぱ優しいって思った。


あの顔・・


もっと見てたい。そうも思った。


私、変化していっても、健太好きなんだな。


マゾの魂にも火が着いた。


う~ん。ちっと濡れたかも。


それは、さておき。


「おい。中川加奈が、翼が自分のこと、なんとも思ってねえって言うだろ」


「うん、頑ななくらいに否定するよね。ねえ亜梨沙」


「だね。それで翼は、誰にでも優しいだけって、何度も言ってる・・」


「これが、原因じゃねえかって、教えてくれたやつがいた」


情報提供者の名前は明かさず、いや明かせん。


加奈と中学の同級生、隆司との間に起こった出来事を話した。




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