第23話 めでたい、めでたくない?
健太、女を妊娠させた疑惑も晴れた。
けどよ、健太の母ちゃん。要するに私の将来の義母だな。
歌子母ちゃんが妊娠してた。
え、将来の義母ってとこ間違ってる?
厳しいな、亜梨沙。
今、健太んちにいたら、歌子母ちゃんのお相手が来た。
有馬次郎って人が良さそうな、ぽっちゃりオッサンだな。
172センチ。歌子は158センチ。
私達? 帰らねえよ。
面白れえからじゃねえ。
健太、心配なんだ。
「改めて言います。健太君、お母さんとの結婚を認めて下さい」
「はい、有馬さん。あの・・生まれてくる子供のために、早く籍を入れた方がいいですよ」
健太、すげえ事務的だ。
なんというか、ドライ。
祝福ムードじゃねえな。
決まってたことは、幾つかある。
借家住まいの有馬氏が、ここに引っ越す。
姓は健太も有馬を名乗る。
木曽健太から、有馬健太にジョブチェンジだ。
「有馬亜梨沙、アリマアリサか・・。音が被るけど、しょうがないか・・」
まだ、正式に付き合ってるねえくせに、なに言ってやがる。
さっきまで、けんたあ~って、泣いてただろ。
どん底から戻ってきて、気が緩んでやがる。
式はせず、内々で食事会。
私も、嫁候補として出席希望だな。
睨むな亜梨沙。妄想、お互い様だろ。
健太が、有馬次郎、歌子母ちゃんに対し、普段の健太じゃねえな。
優しいことは、優しい。
その優しさは、やかて産まれてくる弟か妹、そこを見据えてのもん。
歌子と次郎が、その親。だから優しくしてる。
意識してな。
恐らく、今の2人に、いい感情持ってない。
歌子母ちゃん、有馬との結婚の時期、健太に相談して約束もしてた。
予定は健太の高校卒業と同時。
私、色々と忍法「盗聴の術」で仕入れてる。
今回は、1年9ヶ月のフライング。
健太って、亜梨沙、亮子のために優しさ倍増させた。
そして2人を守るため、性的、恋愛的なもん含め、自分を律した。
だから、決まりごとを遵守し過ぎる。
ぶっちゃけ、人間が固てえとこある。
今回みてえなケース、納得できないタイプだ。
それに「性」絡みと母ちゃん。これにも嫌な思いに繋がる。
歌子母ちゃん、健太に対して前科みたいなもんある。
またも小4の話だがな。健太がひどい目あったの、この母親にも原因ある。
不倫した元父が一番悪い。けど、母ちゃん、その後しばらく、自分のことばっか。
傷心の健太、学校では最低の日々。
親の離婚ネタに馬鹿3人、笑ってるだけのクラスメイトに傷つけられた。
安らぎになるはずの家も暗い。
母ちゃん仕事増やして帰ってこねえ。帰ってくるとイライラ。
味方のはずの母ちゃんに何も言えず、学校の状況悪化。最後は事件寸前の事故が起こった。
健太、本当は父親、馬鹿3人の次、母ちゃんが嫌になってた。
小4んときは、分かんなかった。
けどな、健太を好きになってから思い返してみたんだ。
「僕、幸せだよ。亜梨沙、亮子、翼がいてくれるもん」
あの事故後、辛いとき、これしか言ってねえ・・
健太には、3人だけが心の支えだった。
好きになったから、気付いた。そしたら涙出てきた。
歌子母ちゃん、健太の小4の事故のとき、青い顔して病院駆けつけた。
すると健太言った。「あれ、お母さん、仕事でしょ」
母ちゃん、健太を放っておいて、泣かれる、怒られる、色々と覚悟してた。
結果はそれ以下。無関心。
亜梨沙、翼、亮子が病院来ると、痛い体を起こして喜ぶ。
母親と2人の病室。ただ時間が過ぎる。
退院後。母ちゃん家の時間を増やした。
けど健太、なに食いたい、なにして欲しい、一切言わなくなった。
幼馴染みの家の晩飯、お呼ばれするときも、連絡もない。
悪気すらねえ。
あんなに甘えてた息子の変化。
解るわな。
期間は2ヶ月弱でも、健太が本当に辛い時期に、母親の自分は逃げてた。
息子の心、自分から離れてた。
健太、元からあった、依存体質の要素10倍増。
外にだけ向いてた。
亜梨沙、翼、亮子だけが視界に入ってた。
母親の自分には、寝食を提供するから、感謝してくれる。
ただ、そんだけの関係。
健太に謝り倒した。
歌子母ちゃん、必死になって健太の心を取り戻した。
幸い、数ヶ月で元に戻った。
けど母ちゃん、今でも当時を後悔。なにより健太優先で頑張ってきた。
健太も、それに応えてるし、感謝もしてる。
前は父の不倫、今回は母のデキ婚、形は違う。
けどこれ、健太からすりゃ、ある意味同じ。
一度、自分に災いをもたらした「性にまつわる反則」
それが再び、自分ちに持ち込まれた。
だから、異様に警戒してる。
亜梨沙の努力で少しだけ、心境は変わってる。そんでもまだ、健太から嫌悪感を感じる。
亜梨沙、こう言ってた。
健太、自分の顔を嬉しそうに見てくれる。
だけど、「そういう目」で見た自分に気付いた瞬間、反省して気配を隠す。
騎士健太、亜梨沙姫。守り、守られる型から脱却できてない。
そんでも亜梨沙が根気よく、禁じ手使ってでも、1年かけて健太の心を開いてる最中だった。
このタイミング、歌子母ちゃんの妊娠は2人には毒。
また健太の心の中の「性」への忌諱感を強くしちまう。
横の亜梨沙・・。能天気な表情が一転して真面目だ。
亮子も健太の、大人2人に向ける笑顔の中のこわばり。これに気付いた。
そうだ、私、亜梨沙、亮子には分かる。
おめえらも、健太のこと、当たり前に解るよな。
やっぱ、いい仲間だ。
寺崎マキ、おめえも分かっちまうか・・
「健太君・・」って、うるっとしてくれるんだな。
ここは健太の悲しみ感じっから、茶化せねえ。
ただ、おめえは女として強敵なんだ。これ以上、健太に感情を向けねえでくれ。
そんなこんなで、健太が自分を律してる。
だから、私達も大人になって、健太の新しい家族を祝福した。
幸いに有馬次郎も温厚そうだ。
高2の健太と絡む機会もそうない。それに子供も生まれる。
余計な衝突も少ねえだろう。
新しい「有馬家」は落ち着くと思う。
問題は亜梨沙と健太。
亜梨沙が、健太と本物の彼氏彼女になろうとして、頑張ってきた。
数か月で3歩進んだけど、2歩後退か・・
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