第46話 マルチフェイスカラーパレットを作りましょう

 天才発明家のロミにマルチフェイスカラーパレットの機械製作を依頼してから10日ほど経過した。


 陽葵ひまりはいつも通り、レジスターの前の椅子に座りながら店番をしていると、大荷物を背負ったロミが店にやって来た。


「ヒマリさん! 完成しましたよ!」

「わぁー! 待ってました!」


 ロミはタッタッタと軽い足取りで陽葵の前までやって来ると、背負っていた機械をお披露目した。


「ここに金皿を置いて、上からプレスすれば粉体がぎゅっと圧縮されて固まりますよ」

「おおっ……いつぞや工場で見た機械とそっくりだ!」


 この機械があれば、アイシャドウやチークも作れるはずだ。さっそく試作品を作りたくてウズウズしていると、ティナが溜息をつきながら言った。


「その様子だと、試作品のことで頭がいっぱいなんだろう」

「あ、バレた?」

「アトリエに籠っても構わないぞ」

「いいの?」

「ああ、店番は私とリリーで何とかする。結婚式の日程も迫ってきているんだから、そっちを優先してやれ」

「ありがとー! ティナちゃん」


 ティナにお許しを貰ったところで、陽葵はロミと共にアトリエに向かった。


~*~*~


「よーし、さっそく試作品を作っていこう」

「わくわくっ」


 ロミからキラキラとした眼差しを向けられながら、陽葵は試作品づくりを開始した。


 マルチフェイスカラーパレットには、アイシャドウ、チーク、ハイライトの3種類のメイク用品を加える予定だ。


 どれも別々の用途の化粧品だけど、基本的には色の付いた粉体を混ぜ合わせて固めれば完成する。発色させるための粉体は、口紅を作った時と同様にカラーサンドを使用する。カラーサンドの色を使い分ければ、アイシャドウもチークもハイライトも作れるはずだ。


 陽葵は瓶に入ったカラーサンドを取り出した。


「まずは瞼に色を付けるアイシャドウから作っていこう」


 アイシャドウはベージュと淡いラベンダーカラーの2色を作る。先にラベンダーカラーから作ることにした。


 赤、青、白のカラーサンドを器に入れて、混ぜ合わせていく。


「瞼の上でふわっと発色するように淡いカラーにしたいなぁ」


 本物のラベンダーよりも淡い色に調整していく。そのほうがルナの白い肌には馴染むはずだ。


 少量ずつ白を足していくと、透明感溢れる淡いラベンダーカラーが完成した。


「わぁー、可愛い色ですね!」

「でしょでしょ?」


 ロミからも可愛いとお墨付きを頂いたところで、色の調合は完了。その後、ビーカーにホホバオイルとあらかじめティナに純度を高めてもらったエタノールを入れて混ぜ合わせた。


 よく混ざったところで、粉の中に少量ずつ液を加えていく。粉っぽさがなくなるまで加えていったところで、金皿の上に粉を乗せていった。


「ここでロミちゃんの開発したプレス機の出番だよ」

「はい! 準備は出来てますよ!」


 機械の上に金皿をセット。上から平らな板で圧をかけて粉をプレスする構造になっている。


「いいですか? 圧をかけていきますよー」

「お願いしますっ」

「はい、バシュン!」


 ロミがスイッチを押すと、金皿の上に垂直に板が降りてくる。均等に圧をかけたことで、金皿の中の粉はギュッと圧縮された。


「おおー! いい感じ!」

「これで完成ですか?」

「エタノールを飛ばすために1日から2日くらい乾燥させておけば完成だよ」


 実際にはあとでティナに時間を進めてもらうことになるが、いったんはアトリエの隅に置いておいた。


「よーし、1個目は上手くいったから、どんどん作っていこう!」

「おー!」


 チークとハイライトも同様の手順で完成する。以降はロミと分担をしながら色を調合し、プレス機で固めていった。


 4色作り終えたところで、ひと段落する。あとは乾燥するのを待つだけだ。


「乾燥したらパレットにセットしていくんだけど、パレットも一緒に作ってくれたんだよね?」

「はい! こっちもいい感じにできましたよ」


 ロミは鞄の中から手のひらサイズのパレットを取り出した。


「聖女様のイメージに合わせてシルバーで作ってみました。蓋の表面にはラベンダーの彫刻を施しているんですよ!」

「ひゃああああ! 可愛すぎる!」


 あまりの可愛さに陽葵は叫んでしまった。光沢のあるシルバーのパレットの蓋には、繊細なラベンダー模様があしらわれている。そのままでも十分可愛いけど、パカっと開けた時にラベンダーカラーをはじめとした色が加わったらさらに可愛くなるに違いない。いまから完成が待ち遠しくなった。


 陽葵が興奮気味に叫んだものだから、アトリエにティナが飛んできた。


「おい、何の騒ぎだ?」


 トラブルが起きたと勘違いをしているのか、ティナは深刻そうな顔をしている。そんなティナに陽葵はへらっと笑いながらお願いをした。


「あ、ティナちゃん、ちょうどいいところに! この金皿に入った粉を乾燥させたいから時間を2日ほど進めてくれないかな?」

「はあ? 時間を進める」

「うん、お願い」

「分かったよ。パラドゥンドロン」


 魔法をかけると、金皿に入った粉は乾燥してすっかり固まっていた。


「ありがとー! ティナちゃん」

「それはいいけど、何の騒ぎだったんだ?」

「パレットがあまりに可愛かったから叫んじゃっただけだよ」


 正直に明かすと、ティナは「なんだ……」と呆れながら店に戻っていった。


 それから各色の金皿をパレットに詰めていく。パレットの窪みにぴたっと金皿が収まって固定できた。


「よし、完成!」

「想像していた以上に可愛いです!」

「本当だね。これは商品化したら絶対に売れる!」

「ですね! 私絶対買いますもん!」


 完成したマルチフェイスカラーパレットを前にして、陽葵とロミは手を取り合って喜んだ。


 今回はルナのイメージに合わせて色を選んだが、商品化する時には別のカラーバリエーションで展開してもいい。色の組み合わせを考えるだけでワクワクしてきた。


「マルチフェイスカラーパレットも完成したことだし、あとはリハーサルメイクで実際に試してみればOKだね」

「そういえば、口紅はどうするんですの? 聖女様用にカラーを調合するんですよね」

「ふふふっ。それは既にありますよ」


 陽葵は完成したルナ用の口紅を見せた。ナチュラルな印象に仕上がるピンクベージュだ。


「さすがヒマリさん!」

「えへへ。楽しみ過ぎて口紅は先に作ってたんだぁ」


 マルチフェイスカラーパレットができたことで、必要なコスメは全て揃った。これで本当にリハーサルメイクを待つだけになった。


「楽しみだなぁ。早くリハーサルメイクの日にならないかなぁ」


 美しいルナにメイクを施す様子を想像する。もとが美しいのだから、メイクを施したらもっと素敵になるに違いない。


 浮かれる陽葵だったが、リハーサルメイクの日は雲行きが怪しくなることを、このときはまだ知る由もなかった。


◇◇◇


ここまでお読みいただきありがとうございます。


「続きが気になる」「楽しそうにコスメを作る姿が微笑ましい」と思っていただけたら、★で応援いただけると嬉しいです!


次回は本番に向けたリハーサルメイクですが、聖女様の様子がおかしくて……!?


作品URL

https://kakuyomu.jp/works/16817330668383101409

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