第25話
王都の城にて、三人の少年少女が王の前にひざまずいていた。長きにわたる旅を終えて、成果を報告するためだ。彼らは報告を終えて、王の代わりに話を聞いていた執政の言葉を待っていた。
「して、本当に魔王を倒したというのか」
執政の問いに、答えたのはセルマだった。
「それが、私達が魔界に着いたとき、魔王はいませんでした」
「なんだと? 貴様ら、まさか誉高き神王陛下を誑かすつもりか!」
「本当の話です」変わって、アーレントが答える。「魔王はどこにもいなかったのです」
「貴様ら、それでよくも、我らが神王陛下の御前に立とうなどと思ったものだ」
「ならば、報酬は結構です」
我慢できなくなったレンカが、顔を上げる。
「なんだと貴様。控えていろ!」
「あたしらは大切な仲間を失ったっていうのに、よくもまあ」
「この……辺境育ちの無礼な――」
「もう良い」執政の言葉を遮るように、神王ジークヴァルドの静寂ながら地を震わす声が止める。たまらず執政は口を閉ざして、一礼する。「此度については、実に大儀であった。勇者の件に関しても、哀悼の意を捧げる」
三人は神王の言葉に、深く一礼する。
「有難きお言葉です、神王陛下」
セルマが告げる。
「約束の報酬についてだが」
神王は執政の方へと向く。
「し、しかし陛下。この者らが本当に魔王を倒したのか――」
「執政、私の命令に従えないと申すか」
短い言葉ながら、神王の語気にはただならぬ殺気が込められていた。
「も、申し訳ありません! 只今用意させます!」
執政はすぐさま背を伸ばして、配下の兵士たちに声をかける。兵士たちは慌ただしい様子で場内を駆け巡り、大きな木箱を数個持ってくる。
「約束通り、報酬を渡す」
神王の言葉にあやかり、兵士が木箱を開ける。中には大量の金銀財宝が押し込められていた。
「……恐縮ですが、この額はあまりにも多すぎるのでは?」
つい疑問に思ったアーレントが、神王へ疑問を投げかける。
「それ以上の働きを、貴様らはやってくれた。足りないのであれば、持ってこさせよう」
「いえ、お心遣い大変感謝します」
アーレントが一礼する。
「さて、この者らを出口まで案内してやれ」
神王が執政に投げかけると、執政は直ぐに頷き、三人を連れて王の間を去っていく。人が出払った王の間で、傍にいた宮廷魔術師が神王へ耳打ちをする。
「良いのですか、あの者らを見逃して」
「そうだ」
「しかしあの者らが、陛下に刃をむけたとしたら――」
「貴様にはそう見えたか」神王は一度宮廷魔術師を睨むと、再び正面を向く。「私には、あの者らは悲嘆に明け暮れ、それどころではないと見えたが」
「し、しかしあの者らが逆上して、陛下に危害を加えないとは――」
「ヴァルタルよ。何故そこまで固執する」
「それはもちろん、陛下の御身に何かあれば――」
「まさか――」神王の鋭い眼差しが、王宮魔術師を捕らえる。「この私を誑かそうとしていまいな」
神王の溢れん殺意に、宮廷魔術師は全身が凍るほどの寒気をおぼえた。
「な、まさか! 私はこの命、全て神王陛下に授けると誓った身! 誑かすなどとおこがましい考えなど持ち合わせるはずもありません!」
それは王宮魔術師の、誠心誠意の本音で合った。
「ならば構わぬ」だというのに、まるで興味がないというように、神王は顔をそむける。「それより、私は例の話に興味がある」
王宮魔術師も、自分の告白にさしたる興味を残さず変わる話についてく。
「その話でしたら、すでに準備は万端です」
宮廷魔術師は青ざめた表情から一転、万遍の笑みを浮かべる。
「そうか」神王は立ち上がり、玉座を降りていく。傍らへ、宮廷魔術も共に歩き始めた。「これで、私の役目は全て終わった」
「ですが残念です。この国を治めるのに、陛下ほどのお方は居られないというのに」
二人は会話を続けながらも、王の間を出て行く。やがて誰もいなくなった玉座の扉が閉じ、窓から差し込む光だけが残された。
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