第24話 デート?③

「ごめん鈴華さん、お店でだいぶ時間使った上に買って貰っちゃって…」


「ううん、気にしないで。お昼は奢って貰ったし、何より今日はアタシからのお礼だからさ!それにアタシも一緒のやつ買ったし、教えてくれたらチャラにしてあげる♪」


 俺の目的の店から出た後、俺たちはお昼ご飯を食べる為にフードコートに来ていた。今は食べ終わりニコニコしている鈴華さんと二人で話しているのだが、やはり人が多い所では視線が矢の様に突き刺さり、居心地は良くなかった。


 しかし最初にあった緊張はなりを潜め、今はだいぶリラックスして話せている気がする。これも鈴華さんの人柄のお陰なんだろうな。

 これが陽キャの力か…と思っていると、カフェラテを飲み終えた鈴華さんが話しかけて来る。


「ねぇアヤト?さっき買ったミニモンの新作なんだけどさ、アタシあんまりやった事無いからさ……そ、その…連絡先交換…しない?…ほ、ほら!あった方がすぐに聞けるし!連絡も取りやすいでしょ?」


 そう言いながらおずおずとスマホを取り出し、顔の前で止めて聞いてくる鈴華さん………この人はどれだけ可愛さの引き出しを持っているんだろうか…

 鈴華さんに特別な感情がなく、単なる友達としての行動だと分かっていても胸を押さえたくなる程の破壊力があった。


「わ、分かった…でも本当にいいの?連絡先交換なんて…」


「やった〜!ありがとねアヤト!もちろん!寧ろアタシが知りたいのよ?………これで良しっと…さっ!アヤト次行きましょ♪」


 そう今にも踊り出しそうな程とても綺麗な笑顔で喜んでいる鈴華さん。…こんな笑顔をポンポンと見せられたら調子が狂ってしまいそうになるな…


 俺は先に歩いていく鈴華さんを見てそう思った。


「それで?次は何を見るの?」


「えっと…そうだ!鈴華さんにも手伝って欲しい事があって…誕生日プレゼントのアドバイスなんだけど…頼めるかな?」


「もっちろん♪任せて!で?誰にあげるの?」


「そ、それは…と、友達かな?」


 美白さんの事は友達と呼んでも良い…んだよな?美白さんから言ってくれたから間違いは無いと思うんだけど…

 そう俺が悩んでいると、なぜか先ほどよりも鋭くなった目で鈴華さんが俺を睨んでいた。


「…ホントに友達?」


「も、勿論」


「…女の子でしょ?」


「な、なんで分かったの!?……はい」


「…ふ〜ん?そ、分かったわ、アタシがアドバイスしてあげる。感謝しなさいよ?」


 そう言って前から段々詰め寄って来ていた鈴華さんは、俺の前からそっと離れ俺の横を歩きながら不機嫌そうにそっぽを向いていた。何故か浮気を疑われた旦那さんの気分になったけど…気の所為だよな?



「取り敢えずアヤトから聞いた感じの仲だと、最初はこれくらいのプレゼントがいいと思うわ。あんまり高いものとか、反応に困るものはダメだからね」


「なるほど…」


 あの後終始怖い雰囲気を纏った鈴華さんとお店に行き、俺たちが選んだのは香りがあるハンドクリームだった。

 今でこそだいぶ時間が経ち少しマシにはなったが、とても怖い表情でお店に着くまでに美白さんとの関係を根掘り葉掘り聞かれて、まるで尋問を受けているようで…とても怖かった……


「…まぁ?そのブランドって男の子は知らないものだし?アヤト一人じゃ買えなかったでしょ?だからちゃんとその子にそれ渡すのよ?変えちゃダメだからね!それと!ちゃんと反省しなさいよ!」


「う、うん…分かったよ?」


「(…よし、これでその子にもアヤトには女の子の影があるってチラつかせられるし、無難な選択肢だからそうそう仲の進展もないはず…!それにさっき連絡先を見たら家族以外は女の子の名前はアタシだけだったし…アドバンテージはあるわ!)」


 俺は何を反省するんだと頭に?を浮かべていると、鈴華さんはまたもや小さく呟いていた。

 聞き返そうかとも思ったが、なんとなくしないほうがいい気がしたので聞き流しながら前を見ると、何やらよくない事が起きている様だった。


「オラどけ!ジジイとガキ!モタモタしてんじゃねーよ!」


「ぐあっ!うぅ…」


「お、お爺ちゃん!うわぁ!!」


「はっモタモタしてっからだ!邪魔なんだよ!」


 ドンッと前をゆっくりと歩いていたお爺さんと小学生くらいの子が、少しイライラしたガラの悪い男に蹴られ、二人とも転んでしまった。

 特にお爺さんは腰から崩れ落ち、腰に何かあれば大変なことになっているだろう。


 しかし老人や子どもが倒されたというのに、周囲の人は顔色を伺うだけで助けようとはしない。


「ごめん鈴華さん!ちょっと行くね!」


「…え?アヤト!?…分かった!任せて!」


 そう俺は鈴華さんに一言断ってお爺さんの元へと急ぐ。


「大丈夫ですか!?」


「イタタ…おぉすまないね、若い学生さん…なんとか無事な様じゃわい」


 幸い怪我は無さそうなお爺さんを立たせてあげて、次は少年をと振り返ると


「大丈夫?僕?立てる?」


「う、うん…ありがとう……お姉ちゃん…」


「よしよし♪泣かないしお礼も言えるなんてイイコだね!偉い偉い♪」


 そこには慈愛のこもった笑顔を少年に向け、聖母の様な雰囲気で少年の横に立っている鈴華さんが居た。…まさかあの一瞬で状況を理解して助けてあげれるなんて…凄いな。


 …それに助けられた少年から鈴華さんに向けて、とても熱い視線が送られている気がするが…そうだよな少年からしてみれば自分を助けてくれた、女神と言っても過言では無い容姿をした年上の女性が助けてくれたんだし…堕ちちゃうよな…


 その後少年の手を引いてこちらへやって来た鈴華さんと合流し、改めてお爺さんと少年からお礼を言われて立ち去ろうとすると、鈴華さんが少年に呼び止められていた。


「お、お姉さん!あ、あの…!もし僕がおっきくなった時にもう一度会えたら…僕と結婚してください!!!」


 …わぉ、中々大胆な告白…というより求婚か。あれくらいの少年だと、そういうことを恥ずかしげも無く言えるんだな…凄い勇気だ。


 俺が一人少年の言葉に感動していると、また子どもに向ける優しい笑顔をした鈴華さんは言葉を返す。


「そっか…君の気持ちはとても嬉しいけど…ごめんね?お姉ちゃんにはもう…って人がいるんだ。…でも君はカッコいいからね!アタシ以外にいい人がいて、きっといつか出逢えるよ!アタシもそんな人に出逢えたからね!」


 よしよしと涙を流す少年の頭を撫でてから鈴華さんはおじいさんに会釈をし、俺たちはWAONを後にした。



「いや〜まさか子どもに求婚されるなんて思ってなかったな〜…ちょっと悪いことした気分かも」


「いやいや、あしらったりせずにちゃんと少年の気持ちに向き合ってあげたんだから十分立派だよ鈴華さんは」


 あの後時間もいい感じだったので、俺たちは自分たちの街へ帰って来た。時刻は午後17時半を迎えていて、帰り道を鈴華さんと一緒に歩いていた。


「そうかな…っていうか立派って言うならアヤトの方が立派じゃん…あぁやって目の前で困った人がいると迷わずに助けられるしさ……そういうところはちっとも変わってないんだね…」


 そう俺に褒め言葉をかけてくれる鈴華さん。俺としては特別なことはしていないが…この人が言うとお世辞じゃ無いんだと思えてとても心地がいい。


「はぁ〜…ホントはあの事でちょっとお説教しようかとも思ったけど!…優しいアヤトに免じて今日は許してあげる!でも次は無いんだからね?覚悟しなさいよ!」


「?わ、分かったよ…気をつけるね」


「…絶対わかってないでしょ…はぁ〜…まあ良いわ!今は気分がいいしね。っと…もう家の近くか…アヤトと話してると一瞬だったね!」


 そう言われて辺りを見ると、この前流華ちゃんと一緒に送り届けた辺りまで帰って来ていた。


「じゃあアヤト?今日は本当にありがとね!楽しかった!また学校でね!」


「あぁ、また。俺も……楽しかったよ。…気をつけて」


 そう俺に屈託のない笑顔を向けながら帰って行く鈴華さん。


 …本当にこの人はいい笑顔をする。感情表現1つでこんなにも俺の心を洗ってくれる笑顔が出来る人はなかなかいない。そんな笑顔を見たら俺も………俺…も……


『ほんとあんたってどうしようもない役立たずよね〜』


『あんた生まれてこない方が良かったんじゃないの?』


『彰人様も瑞樹様もこんなのと兄弟なんて…私だったら耐えられな〜い…ねぇみんな?あはははは!』


 ドクン…ドクン……俺の心臓の音がとても大きく聞こえる。


 ………そうだ…俺は……俺は…………


 そう俺は貼り付けたような笑顔で鈴華さんに笑いかけ、平静を装いながら帰って行く鈴華さんを見送る。


 …鈴華さんの求める俺の演技をしながら。

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