第14話 助けた男子、助けられた女子

 あの後俺とおっさんと女の子は、次の駅で降りて駅員さんに表向きは俺への痴漢行為として突き出した。

 その少し前の電車から降りる寸前で、その子の友人二人が駆け寄って来て女の子に土下座をする勢いで謝り倒していた。そして俺のやった事を知るとギャルっぽい子の方は涙を流しながらお礼を言ってくれた。


 最初駅員さんは事情が事情だけに困惑していたが、俺のスマホの中の映像を見て俺の考えを察してくれたのか、すぐに警察へ連絡してくれて數十分後におっさんはパトカーで連行されて行った。


 そして婦警さんにあの子達が事情を軽く聞かれている時に、俺の元へ警官のおじさんと駅員さんが来て『助け方が優しいな少年!』と褒められ、俺は解放された。


 …でもまぁあんなにおっさんだけじゃなく、周囲にまで怖がってる子を矢面に立たせるのは…出来ないよな。……例え俺がおっさんに痴漢された奴というレッテルを貼られたとしてもこうするのが当たり前だと思う。


 だからこそ俺が褒められる理由はないのだが…大の大人に褒められるなんていつぶりだろう…


 そう少し昔を思い出していると、同じく解放されたさっきの女の子がおずおずと俺に声をかけて来た。


「あ…あの…さっきはウチを助けてくれて…ありがとうございました……」


「え?あぁ!さっきの…全然気にしなくて大丈夫ですよ。ああするのは人として当たり前のことですし。それに実の所、ああいう輩を放っておくと俺の気分が悪くなるからっていうのが理由ですから…アハハ」


 俺はそう少し嘘を混ぜて、その子から少し距離を取ってそう返す。…あんな事があったんだ。お礼を言う為に来てくれたとはいえ、俺はあんまり近寄らないほうがいいよな。


 するとその子は俺の考えていることが分かったのか、少し驚いた顔をしながら俺に言葉を続ける


「……本当に優しいんですね…でも理由がどうであれ、ウチが助けられたのは事実ですから…何かお礼を…」


「いらないですよ、あぁいうことは男としては当たり前のことですから。…って!時間が!すみません急ぐので俺はこの辺で!」


「…え?!ちょ、ちょっと!」


 そう言って俺は駅を後にし、ダッシュでショッピングモールに向かうことにした。


(早く買って帰んねぇとタイムセールに間に合わなくなっちまう!!!)


 …急いだ理由は学生らしからぬ理由だけどな。



【桃月side】


「行っちゃった…」


 ウチは痴漢から助けてくれた男の子が去って行くのを見て、そう小さく呟く。

 あんなに急がなきゃいけないのに、優しいからこそ自分に関係ない事でも困っていたら見過ごせないなんて…まるでウチの夢に出て来たみたい…。


 そんな事を助けてくれた男の子の背中を見ながら思っていると、ウチの後ろからドーン!と誰かがぶつかってきた。


「あーちゃんんんん!!!ごべんねぇぇぇ!怖かったよね、次会ったらあいつの潰すからぁぁぁ!」


 そう号泣しながら親友の美夜ちゃんがウチの背中にピッタリとくっついて来た。


「う、うん…大丈夫だよ美夜ちゃん…怖かったけど……助けて貰えたからもう何ともないよ」


「でも〜でもぉぉ〜〜!あーしが横にいたらぁ〜!!!」


「ほら落ち着きなさい美夜。潰すのは賛成だけど、茜よりあなたが泣いてどうするの…でもごめんね?茜…私たちが近くにいなかったから…」


 そう泣いている美夜ちゃんを宥めるように後ろから来たのは、もう一人の親友の香織ちゃん。さっきも混乱しているウチに変わって、あのおじさんとお巡りさんとで話し合いをしてたみたいだけど……怒ってるって事は…


「あのハゲオヤジ、反省の色が見えなかったから示談は決裂したわ。余罪もあったみたいだし、暫くは塀の中でしょうね」


 …うんやっぱり、香織ちゃんも激おこみたい…新しい土地に引っ越して来てからも二人はウチのことを過保護レベルで守ってくれてる。…嬉しい反面ちょっと申し訳ないなとは思ってるんだけど、二人は「私たち(あーしら)がやりたくてやってるんだから気にしなくても良い」と言ってくれる。


「にしてもあーちゃん…いくら助けてもらった人とはいえ、よく初対面の男の人に一人で会いに行けたね?まぁあの人優しいのは分かってたから安心だとは思ってたけどね」


「そうね、何故だか私も彼なら安心出来たわね…不思議、同じ高校の生徒とはいえ見た事もない生徒で初対面の筈なのにね」


「う、うん…なんでか分かんないんだけど…ウチの体が勝手に動いたっていうか…実は高校の最寄駅からあの人の事見てたんだよね…」


「えっ?!あのあーちゃんに…気になる男子が?!」


「ち、違うよ!?ただ目に止まったっていうか…気にはなったけど!好きとかじゃないから!!」


「…そうよね、茜にはもう将来を誓い合いたいと思うほどの人がいるものね」


「か、香織ちゃん!?ち、違うから!そんな人まだ居ないよ!?………けど、そんな人がいたとしてもウチら付き合ってもないのに…結婚して子どもがいるなんて…ウチら高校生なのにまだ早い……って…あ………〜〜っ!?」


 ウチはそう必死に弁明したけど…必死すぎて墓穴を掘ってる事に気づかなかった…


「…あーちゃんあーしらそこまで言ってなくね?」


「あら素敵な事じゃない?まだ好きな人を見つけられてないのに、好きになったとしたらその彼をずっと一筋に想ってるってことでしょう?」


「それもそうだね。いや〜想像の存在とはいえ、あーちゃんの大きな愛の力は偉大ですなぁ〜!羨ましい〜!」


「も、もう!からかわないでよ!!!先行くからね!」


 そう二人に言って、ウチはホームを先に歩き始めた。そのすぐ後に後ろから二人が「ごめんごめん」と笑いながら駆け寄ってくる。


 まだこっちに引っ越して来て少ししか経っていないから、この辺りにどんな人がいるかやどんな物があるかなんて分かんないけど……きっと大丈夫だよね。


(それにしても……あの人の名前聞きそびれちゃったなぁ…それに人見知りはあったとはいえ、なんであんなに安心してお話しできたんだろう?)


 普段なら絶対初対面の男の人に一人で話しかけに言ったり、お礼をしたいなんて言った事もないのに…


 そうウチは自分の行動が変だな?と思いながら、不思議と恐怖が消え去った心と共に二人と一緒に駅を出た。

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