第3話 なんでこうなった?

 謎の美少女に体育館までの道順を教えて貰った俺は、体育館前に居た勇次と合流する。


「おっ!やっと来たか綾人!どこ行ってたんだよ〜携帯もでねえしよ〜」


「すまんすまん、携帯充電切れててな。あの後人混みに流されて、気がついたら知らない場所だったんだよ」


「ったく、しょうがねえ奴だな…まぁ間に合ってよかった。それより、そろそろ行こうぜ」


 そう言って俺たちは入学式に出る為に体育館へと入る事にした。


 俺たちは高校合格時に送られて来ていた書類に記載されているクラスのエリアに集まる事にした。…にしても人の数が凄い、何かアイドルのライブでも始まるのかと思うほど、体育館の中には人が集まっている。


「にしてもまさかクラスまで一緒とはな〜これも綾人のおかげって奴だな」


「俺は勉強しか教えてねーよ。クラスは運だ運」


「まあそうだがよ、でも嬉しいぜ」


「にしても、あの大馬鹿勇次がねぇ…不正でもしたか?」


「失礼過ぎるだろそれ?!」


 席は自由席だったので、俺と勇次は一年の席に隣り合って座る。俺だって親しくない人と話すのは壊滅的だからな。勇次がいれば心強い。

 …とそんなことを話していると、式が始まる様だ。なので俺たちは口を閉じて、話を聞く事にした。


 式は良くも悪くも普通に進み、新入生代表の挨拶が回って来た。…俺は入試では次席だったらしく、ギリギリ挨拶は避けられたが、成績の面で負けたのは少し悔しかったりする。


(やっぱり一番にはなれない…か…俺らしいけど。)


 昔から一番には全く縁が無く、良くて二番止まりの銀メダリストの俺は、今回の入試に全力で挑み結果を出そうとしたのだが…結果は次席。いつも通りの銀メダルだったらしい。


 そんなことを考えていると、新入生代表の子が壇上に上がり挨拶を始める。


(あれ?あの子…さっき道を教えてくれた…)


 そこには女神の様に美しく、磨き抜かれた黒曜石を思わせる黒い髪を靡かせながら、洗練された佇まいでお辞儀をして壇上に立つあの子の姿があった。


(へぇ…あの子が首席だったのか…なんか納得した)


 美人で優しくてスタイルも性格も良く、頭も俺よりも良いときた。…神様は残酷だな。


「柔らかく暖かな風と共に桜が舞い散る今日、私たちは……」


 そう壇上から鈴を転がした様な、美しくも引き込まれる様な凜とした声と共に、彼女は答辞を読み始める。ただの答辞だというのに、体育館にいるもの全てが彼女から目が話せなくなってしまう。


「……初心しょしんの心を忘れぬ様三年間共に高め合い、精進する事をここに誓います。令和◯年 四月七日 新入生代表、美白璃奈」


 ぺこりと彼女…美白さんがお辞儀をして答辞を終えると、体育館中からはち切れんばかりの拍手が巻き起こる。…凄いな、あながちアイドルのライブ会場っていう例えは間違っていなかったみたいだ。


「……っ!?」


 ん?今美白さんと目が合った瞬間、少し赤くなっている顔を背けられた様な…?


『流石は加尾吉かおよし先輩!新入生の子も見ただけで照れさせるとは!』

『ふふっ…当然だろう?』

『流石だな!加尾吉!』


 …違った、後ろにいるイケメンの先輩を見て照れたんだな。俺の自意識過剰すぎて恥ずかしい。

 よく考えれば俺の顔を見て照れる要素が全く無いじゃないか。なにを考えてるんだ俺は…


 そんなことがあり、横で「すげー可愛い子だったな!綾人?!」と興奮している勇次ばかは放っておく事にした。

 そして式が終わり、俺たちは順番に体育館を出て各々の教室に向かって歩いていく事になった。



 教室に着いた俺たちは、黒板に貼ってある座席表をチラッと見て席に座る。と言っても最初は名簿順だから、勇次とは離れてしまうのだが。


「ここが俺の席か…真ん中だけど一番後ろで良かった…」


 そう言いながら席に座ると、クラス中が座席表の前で『キャーキャー』と大盛り上がっていた。…一体どうしたんだ?


 そう思い勇次の方を見ると、あいつは既に近くの子達と楽しそうに談笑していた。


(あのコミュ力モンスターめ……その力分けろ!)


 そんな事を思いながら、この空気になれなかった俺は先生が来るまで机で寝る事にした。

 …数分後、俺の近くに誰かが近寄って来た気配がした瞬間に、教室のドアが開き先生と思しき声が聞こえた。


「よーし!お前ら!席に着け〜!今日からお前らの担任をする事になった、元木大輔もときだいすけだ!一年間よろしく!」


 と、明らかに体育教師といった風貌で、ジャージを着た強面の先生が挨拶をする。…何故かあの怖い顔にも見覚えがある気がするんだが……気のせいだよな?


 そんな事で身震いをさせながら先生の話を聞いていると、左隣から机をコンコンと叩かれたので、俺は左を向いた瞬間に一瞬で息が詰まった。


「こ、こんにちは…草n…辻凪君、せ、席お隣だね…これからよろしくね?」


 そう少し照れた様に微笑みながら、俺の横には絵画の様に美しい、絶世の美人の美白さんが座っていた。

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