美少女幼馴染と付き合った

 僕の足元に落下して突き刺さったコーヒーカップの欠片は青葉が取り除いて、足を消毒して血を拭き取って包帯をすぐに巻いてくれた。こういうところですぐに青葉を頼りにしてしまうが、助けてくれる青葉には感謝するばかりだ。


 コーヒーカップが突き刺さった右足の親指の付け根あたりがじくじくと痛むが、青葉に謝るのが先だ。


「本当に申し訳ない! どんな理由であれ、青葉に手を出さないなんて偉そうなことを言っておきながら手を出すだなんて!」

「大丈夫だよ、わたしから望んだことだから。でも、責任取ってわたしと付き合ってね」


 僕は青葉と付き合うことに異論は全くなく、逆に少し嬉しいくらいだが、僕が心配なのは青葉の気持ちの方だった。


「僕は責任を取る心積もりだけど、本当に僕でいいの?」

「もちろん。ずっと昔、何年も前からわたしは春樹のことが好きだったんだよ。あんまり自分を卑下すると、わたしが怒るよ」


 また、怒らせてしまった。父さんを亡くしてから、うちの家計も僕の心も不安定になっていた。そんな僕だったから、何気ない言葉で人を怒らせてしまうことが時折あった。そんなときに、いつも僕を助けて、庇ってくれたのは青葉だった。


 だから僕は、青葉に感謝している。でも、そんな青葉に迷惑をかけてしまう自分が許せない。


「ありがとう。そこでもう一つ頼みごとを追加してしまって申し訳ないけど、学校に休むって電話をかけてくれない? 僕はちょっと頭を整理する時間が欲しいのと、足が痛くて電話しに行けない」

「わたしも休む。今日くらいは、春樹の傍にいたい」

「でも青葉……」

「……駄目かな」


 青葉は不安げに言った。


 僕はこれまで青葉にさんざん迷惑をかけてきたというのに、そのうえ青葉の行動まで制限するということか。そんなこと、僕には出来なかった。


「僕も、今日は青葉と過ごしたい」

「うん! それじゃあ、電話かけてくるね」


 もしかしたら僕と一緒にいられるからかもしれない、青葉は嬉しそうに電話機の方へ歩いて行った。僕はそんな青葉の姿を椅子に座って眺める。


「あ、はい。二人とも。え? 家が近いだけですよお。はい、隣です。毎朝起こしてるんですよ。はーい」


 青葉の声だけが聞こえてくる。その内容からして、なぜ僕の欠席まで報告できたのか尋ねられたのだろう。


「ねえ、春樹」

「なに?」


 電話を終えた青葉が僕に話しかけた。


「これから、やらない?」


 僕が子供のころから見慣れた青葉の純粋な笑顔は引っ込んで、青葉の顔には妖艶な微笑みが浮かんだ。


 制服に着替えてきつくなった胸元のリボンはそのままに、ボタンを上から二つ外し、服を手前に持ち上げて谷間を見せつける。僕は後ろめたい気持ちになって、目を逸らした。


 でも僕はどうしてか抵抗する気にはなれず、椅子から立ち上がり、歩いて自分の部屋のベッドに入って腰掛け、カーテンを閉めた。


「春樹……」


 近くに聞こえる息遣いが、妖艶な印象を強める。僕は、理性を保つことが出来なかった。

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