改変記 セーバー

怠惰水

改変記2200年

第1話 セーバーの鼓動

この世には、信じられない事が多々ある。その中でも戦争や大きく歴史が動く時には、怪奇な現象、人が奇跡と名付けた事が起きやすい。2200年、奇跡に奇跡に奇跡が重なって予言者も生物学者も予想出来ない事が起きた。

2150年頃、環境汚染による人工的な環境に適応出来る種族はほぼ居ないと思われていたが、地球は今の地獄の様な世界を良しとしなかった。新しく生まれてくる人間の中に超人的な肉体を持ち、かつ非倫理的な巨人、を紛れ来ませた。大国は恐れ、力で解決しようとした。その隙に日本は核爆弾の生産を開始、さらに2150年からは対好戦人用の兵器、コードの開発を始めた。

2170年、研究者の20年に及ぶ長い研究の末にコードが完成、好戦人の駆除を大陸の国よりも早急に終わらせ、遺伝子操作で人間の変異を停止させたが、好戦人を掃討するために敷設した軍に支配権を強奪されそうになり慌てた日本は自衛隊に核爆弾の使用を許可させた。

2177年、力に力を持って解決しようとした事が仇となり関東を除いて本州が放射能に汚染され、九州四国及び北海道が日本と孤立した。

2200年、好戦人は上手く繁殖出来ない様に遺伝子操作をされてしまった。しかし、大国には好戦人の他に大きな敵がいた。そう、再和旧日本である。五十年の間にコードを持った自衛隊が軍と共闘し、腐敗した政権を強奪していたのだ。好戦人との戦闘により科学技術の進歩が遅れていた大陸の大国にとっては核爆弾もあり、数十年も進歩している国を相手にするのは当然無謀な戦いである。そのため、日本付近に人を近づける事をタブーとして、一時保留という形で大陸の人々は再和を封印した。



「月見そば1つ」

若い女がカウンターに座る

「…メニューに目を通してくれ、そんな物は無いよ」

女が卵をテーブルに置く

「…仕方が無い」

「うッ!」

店主が卵を割ると、中からひよこらしき何かと殻にへばり付いていたのだろう血管が切れて血が出てきた。

「アンタ、無精卵を持って来いよ…」

「…食うのか?これ…」

女は頷くと、不衛生などお構い無しに蕎麦をすすり始めた。

(こんなに本能に従って生きている人間は今まで見た事が無い…!)

テーブル奥のテレビが聞き慣れた音を放った。

「こちらは再和国立放送局です。20時55分現在のニュースをお伝えします。今日昼に起きた軍と過激派組織南救東開なんきゅうとうかいが武力衝突を起こし銃撃戦にまで深刻化し、近くにいた住民の内28名が死亡、およそ90名が重軽傷を負いました。」

女が箸を止めると、皿の中には出汁一つ残っていなかった。

「会計」

「いや、面白いものを見せてもらったし、勘定は要らない」

女は浅く頭を下げてから戸を開けて出ていった。店主が少しは金を貰おうかと思った時には既にいなかったと聞く。



「…遅いなァ…」

きっと近所の人間も立ち寄らない様な廃工場に、一人のショウビという少年がいる。放射線の汚染により生きている間は入れないとされていた場所だが、放射線が出ていないという情報をリークしてやって来たのだ。

「メールを送ってから約30分、誰も気付いてない…なんて事もないだろうしな…」

ふと左をショウビが向く

「…」

「うわッ!オオツキ!」

「…おまたせ…」

「…お、おう…」

ゴウンゴウンと大きな音を鳴らしながら大きな車が続けてやって来た

「運転荒くてごめんねキキョウちゃん」

背が高く、スタイルも良い女がひょいと飛び降りた

「良いんですよキサミさん。全てケンジが暴れたのが悪いんだから」

筋肉質な女が男を羽交い締めにして降りた

「狭い!暗い!俺はこんな所もうたくさんだ!」

羽交い締めにされている男が暴れる

「はぅ…雰囲気ぶち壊してしまったようですぅ」

ボディブローをケンジにかます

「ッウ゛」

この世のものと思えない音を出してケンジはキキョウの腕の中で気を失った

「相変わらず一撃必殺だねキノちゃん」

「いやぁまあそれ程でも」

「そういえば、今日なんでここに来たんだっけ?」

「そろそろ本題に入っても良い?」

ショウビが話に割り込む

「ショウビちゃんどうしたんです?こんな廃工場に」

「ついに完成したんだよ」

「何がですか?」

「コードだよコード」

ショウビが自信ありげに話す

「やるじゃないショウビ」

「まぁ、俺ほどじゃないけどな」

「うるさいアンタは黙ってて」

「了解ですぅ」

またもやボディブローが炸裂してケンジは倒れた

「後、キノさんにはソフトウェア作るのを手伝ってもらいますから」

「はぃ…」



2150年代を代表する革命的な機械はコードで全員一致するだろう。五.五m程の巨体に上手く設計されたヒト型二足歩行ロボットだ。追加パッケージも充実して、物凄い馬力に素早い足、何と言っても万能な環境適応能力が軍やテロリストに人気を博した。



それから、ショウビとキノはコードの制作を、オオツキ達は警備をしていた。

「キノさん、主電源と関節の接続切って」

「はぃ、」

「キノさん、不具合ある?」

「無いでーす」

「じゃあ、有人実験しますか」

「賛成です〜」



そして、オオツキとキキョウが呼び込まれた。

「ケンジの奴は呼ばないの?」

「…ケンジは閉所恐怖症…多分操縦席に入ったらもう…心を開かない…」

「噛み砕いて説明すると、立ち直れない位の精神的苦痛を味わうって事だね」

「まぁ、コードの操縦者にはなれなさそうだし、始めますかな…」

「じゃあ早速キキョウさん、試運転お願いします」

ショウビがコントロール室に入る

「はーい」

キキョウが手袋を付けてコードに腕と足を接続した。

「それじゃあ、腕を回してみて」

「了解」

かなりのタイムラグの後、コードの腕が回り始めた。

「私ギブ!こんなにじゃじゃ馬な子、動かすだけで精一杯!」

「じゃあ消去法で操縦者になったオオツキ、早速試験運動を始めてもらおうか」

「………」



コードの発展は子供達の教育にも変化をもたらした。高級品とはいえ、大企業にとっては後継者に世紀の大発明を体験させるのはとても安い買い物であった。



みすぼらしいテントの中に、とても不釣り合いな格好の令嬢とボディガードが居る。

「金城お嬢様、やはりこんな古い天幕で就寝なさると、お体に毒でありましょう。特注品を用意させましょうか。」

「別に良いのですよ、ミヤモト。こちらにいたほうが得られる経験も多いでしょうし」

「後、その金城お嬢様と呼ぶのをお止め下さい。金城愛子でも構いません」



金城グループ。その名を知らぬ者は2200年の再和で知らぬ者は居ないだろう。コードの研究から遺伝子操作の研究まで、再和の現代科学を支え続けている超大企業だ。



「さて、そろそろ14時ですね。今日も定時巡回をしましょう。お願いしますよ、ミヤモトさん」

「了解しました」

ミヤモトと金城がテントから出る。

「今日は廃工場の辺りを巡回しましょう」

「廃工場!?危険ですよあそこ周辺は」

「少し離れた所なら被爆などしませんよ。大丈夫だから行きましょう」

「…了解しました。」

2人はコックピットに乗り込みパトロールを開始した。



ところ変わってショウビ達のプロトタイプコードは試験運転も終盤へ差し掛かっていた。

「何か異音とか聞こえないか?」

「…問題無し」

「よし!完成!」

ショウビが椅子から跳ね上がった。

「早速皆を呼んで来るか!」

「高熱源体多数接近!ですぅ」

「えぇ!?」



(お嬢様の勘は冴えている…)

「愛子様、廃工場でコードを確認しました。」

「え?おかしいじゃないなぜ放射能汚染地域に起動しているコードがありますの?」

「とにかく、増援を要請します」

「え、えぇ…」

『こちら第1小隊特殊課。巡回中に型式不明のコードを熱源探査機にて発見。至急増援を求める。』

『こちら再和本部。了解した。しかし、貴殿の乗っているブロッケンなら、どこぞの馬の骨なんぞ軽く潰せる性能ですが…』

『愛子様が乗っているんだ、まともに戦えるか!』

「増援がすぐに来ますから、記録の準備をお願いします、愛子様」

「…分かったわ」

一言返事をしてから愛子はカバンから平べったいカメラを取り出し、ブロッケンの専用差し込み口に差し込んだ。



「や、やべぇ外にいるのってブロッケンじゃないのか?」

「そうだぞ、ショウビよ。もっと細かく説明すると、正式名称は教育用大型コードブロッケン、身長は約6.5mで通常のコードには無い緊急ポッド付き、装甲は中の上位だが、何と言ってもあの巨体から出る凄まじい力と俊敏性で武器が拳以外無い事をも忘れさせる再和の最新機だな。」

「ケンジ、お前って冷静になったり暴れ狂ったり忙しい奴だな」

オオツキがスピーカーをコントロール室に接続した。

「………」

「いや、まだ様子を見るべきだ。相手は気づいてないだろうし。」

『そこにいるテロリストに告ぐ!今すぐに武装を解除して投降せよ!』

「バレてた…しかも女の声…」

『オオツキ、発進を許可する』

『………!』

廃工場を壊しながら発進したオオツキだったが、不運も不運、既に辺り一帯を援軍が包囲してしまっていた。

『なんだァ?このボロ臭えコードはァ!』

『待て、相手はテロリストだぞ、少しは警戒しないか!』

『うるせぇ!こんな風が吹けば崩れそうなスクラップに何が出来んだよォ!』

興奮している男が大型バタフライナイフを持って突進する。

『粗大ごみにしてやるぜ!』

『…』

オオツキは攻撃を軽く避け、反撃の準備をする。

(かなり良い反応速度だ…だが、機体が悪いだけに、奴の次の攻撃は食らうだろう。)

『遅ぇ!』

軍の現役機体と試験機の性能の差は大きすぎた。一歩歩く間に五歩歩ける程の機体性能の差はどんなパイロットであっても覆す事は出来ない。

ナイフがオオツキのコードの右手のひらを力強く貫通した。

『…ッ』

貫通した手を手前に引き戻し、左手で力強くコードの頭部を上から叩きつけた。

『うおっ?!』

背を上にして倒れ込んだコードからナイフを奪い、人間でいう首の辺りの導線をプツプツと切り始めた。

『エマージェンシーエマージェンシー、動力炉にダメージが入りました。機体が爆発する前に直ちに動力系のスイッチを切り、バッテリーを取り外して下さい。』

『なんだってんだよ!何で俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだ!』

『そうだ!まだ外には出れるじゃないか!』

スイッチを押してコックピットを開けようとしたその時、大きな拳が扉を壊して脱出不可能にさせた。

『なぁ、おい!お前等助けてくれよ!』

『熱い、熱いんだよ!』

『…………』

オオツキがコードを道路の近くに蹴り飛ばして約十数秒後に爆発して炎上を起こした。

(ッ、酷い…あそこまで良い技術を持っても何故人を喜ばせる事に使えないの…)

「ミヤモト、何故動かないのですか」

「…お…恐ろしいのです…」

ミヤモトは脂汗をかいていた。

「奴の乗っている機体は、軍人なら誰でも知っているコードプロトタイプと言う2150年製造の試験機です。しかし、実験中に暴走を起こして原子力発電所へ突っ込み研究所周辺は放射線に汚染されているのです…その中から動ける様にして、しかも現在の50年も進化した量産型コードと互角に戦える操縦技術を持っていると言う事は、放射能に耐えられる好戦人であり、絶滅した筈の奴等が集団で集まり反乱をしようとしているのです…」

「しかし、この数だったら、いくら好戦人であろうとも…」

『集中砲火準備!』

5 体のコードが大型銃を構える。

『うろたえるな!相手は1人だ!』



「やばい、耐えられる訳が無い!」

「慌てるなケンジ、奥の手を用意してある。」

オオツキのコックピットにショウビが無線で介入する。

『オオツキ、モニター上の「し1」のレバーを耐えきれなくなったら下げるんだ。良いな?「し1」だぞ!』

「…よし、俺達も裏からこっそり逃げよう」



「止めなさい、ミヤモト。相手は人間ですよ?」

愛子がミヤモトの肩を揺さぶる。

「違います、金城様。奴は間違いなく化け物です。きっとそうに決まっています。」

ミヤモトが少し躊躇する。

『撃てーッ!』

コードが発砲を開始する。

「後は他の隊員に任せて、私達は戦線から離脱しましょう。」

「…分かりました…」

ブロッケンが特殊課へ戻り始めた。

『……』

最初はカンカンと鳴っていたが、数秒するとゴン、ゴンと装甲に穴が空いてきた。オオツキは激しい震動の中でレバーを下げた。

『エクスプロージョン、エクスプロージョン』

操縦席を空高く打ち上げた後、機体が大きな爆発を起こした。



「爆発音!?」

『ブロッケン、援軍の生体反応が全て消滅した。至急状況を説明せよ。』

『再和本部、こちらブロッケン。完全に蜂の巣になると確信したため、先に金城様を連れて帰還していた。』

『…了解した。だが、貴官だけでも現場へ向かい詳しい状況を教えてくれ。』

『…了解。しかし、金城様は…』

「私は置いていっても構いません。」

「しかし…!」

「良いのですミヤモト。」

「生体反応の消滅は死を意味しているのはいくら私でも知っています。弔いに行ってあげて下さい。」

「金城様…分かりました、すぐに戻るので待っていて下さい」

ミヤモトは全速力で廃工場に向かい始めた。



「うっひゃー綺麗に吹き飛んだな、工場」

大きな岩陰から離れたショウビ達が目にしたのは何もなくなった土地と横転したキサミのモンスタートラックだった。

「うう…私のトラックがぁ…」

トラックの側に寄ると、廃工場があった辺りにハンドル式の鉄の扉を見つけた。

「あっ!オオツキ!」

岩の近くにオオツキが降りてきた。

「無事か?怪我無いか?」

「あの、変な扉があるんですけど…」

「大丈夫 …」

「あの…」

「どうしたんです?キサミさん」

「いや、変な扉を見つけたんですが…」

「…じゃあ、動きやすい夜まで待つか…」

5人は地上を後にした。



(爆発が起きたのはこの辺りか…) 

谷を下り爆発源まで移動したが、そこにはコードの焼け切れた部品しか残っていなかった。

(どういう事だ…?まぁ、帰るとするか…)

出力を上げて身体の向きを変えると、金城のカメラが容量不足で飛び出しているのが視界の隅の方に見えた。

(金城様も、立派になられた…やはり、私が過保護だったのかも知れない…)

身体の向きをスクリーンの方向に向ける際に指が熱源探査のボタンに引っかかり、そのまま押してしまった。

(いかん、探査中はカメラ移動出来ないのか…)

しかし、調査結果で地下からあり得ない低温が検出された。

(誤診か?いや、そんな事は無い…少し地盤を割って、中を見てみるか…)

ブロッケンが地面に拳を突き込み引き上げると、粉塵の中白い鉄がじっとミヤモトを睨んでいた。

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