二つの人形
第136話 暇な二人
クロエが寝てる。
いつもしっかりしているあのクロエが、体を丸めて。
こんな事はじめてで落ち着かない。全身がそわそわして体を揺すってないとなんだか変になりそう。
「クロエさんがこうなるのは偶にあるんですか?」
リリエルの質問にあたしはんーん、と否定して返す。
「こんなの初めてだよ……やっぱり疲れちゃったのかな?あの街ひどかったもんね」
「後は寝ずに作業していたりするから……とかですか?クロエさん本人は人形だから大丈夫って言ってましたけど、やっぱり無理していたんじゃ……」
「もうっ!クロエったらもう!一緒に寝る、って言
ってもこっそり抜け出して一人で何かしてるんだもん。絶対それだよ!」
クロエは必要な事、とかこういうのを作りたいから、とか色々と言い訳して逃げてるけどもうゆるさない!
つぎに起きたらおはなししなきゃ!
「とりあえず今は寝かせておきましょうリンさん」
「ん、そだね。じゃあ……どうしよう?」
いっつもクロエと一緒にいるからクロエがいない時に何をすればいいな分かんないや。
離れて行動する時もクロエからこうして欲しい、ああして欲しいってお願いされるから今みたいに完全にあたしの意思で動くなんて……初めてかも?
クロエと会う前のあたしは何してたっけ……生きるのに必死だったから暇な時間みたいなの無かったし分かんないや。
「……」
リリエルもそれは同じなのか止まっている。
クロエの寝ているベッドにあたしも座って足をぷらぷら。
二人ともクロエを中心に何かする、ってなってるから二人だけだと止まっちゃう。
「リリエルってあたし達に会う前は何してたの?」
「え?何って……どういうことです?」
「えっと、だからこんな感じで暇な時とかあったんじゃないの?そういう時とかってさ」
「あぁ……そういう事ですか。うぅん……」
リリエルがあたしよりも長い腕で頬杖ついて考えてる。
ちょっと時間があって……リリエルは首を横に振った。
「すみません……よく考えたら暇な時なんて無かったです。いつも逃げたり食べ物探してたりですから」
「あぁー……あたしと似たようなものかあ」
ちょっとそんな気はしてたけどそっかあー。
クロエが言ってた
でもそうなるとどうしよう?
クロエから貰ったものの中から暇を潰せそうなもの……。
「あ、ねぇリリエル。クロエが作ってくれた人形。あれでダンジョンで遊ばない?」
あのおかしな街のせいですっかり忘れていたけどあたし達にはクロエから貰った人形があるんだった。
たしかげーむ?の再現とか高性能な
クロエの言う事は時々ぜんっぜん分かんないけど、色々と遊びとか知識を教えてくれてるんだっていうのは分かる。
これもその一つなんだと思う。
「あぁ……そう言えばソレがありました。リリエル結構これ好きなのに忘れていたなんて」
玄関口近く、L字のソファーに座っていたリリエルが隣に来てあたしと同じようにげーむの画面を起動する。
長方形で両端にボタンとかが色々ついた薄い鉄板に映像が映る。
あたしの人形だ。けっこう長いこと放っておいたけどそのままでダンジョンにあるみたいで、あたしの人形の瞳から見た景色が映像として映っている。
「武器とかも無事だねー……リリエルの人形はどーお?」
人形の視点を動かしてリリエルの人形を見る。
ピンクでふわふわの、クロエが着たらきっと似合うだろうなっていう可愛いドレスを着ている人形が私のとおんなじようにダンジョンにいた。
おっきかったり小さかったりする黒いリボンもいいよね、アクセント?とかでいいんだっけ、これ。
「ん……問題ないです。リリエルのも無事です。えっと……どうします?いつも通り一階で狩ります?」
リリエルの人形がたっくさん弾を撃てる銃を点検している。
あたしのはハンマーとかマグカップとか、近接武器しか持ってないから服についた汚れとかを軽く叩いて落とすだけ。
「んー……人形なんだし無茶してもいいと思わない?」
「というと?」
「三階!行ってみない?あたしとクロエの時も二階のじめっとした所までしか行ってないしさ、気になるんだよね!」
ギルドの人間とか、依頼とかで邪魔ばっかりで結局二階から先の階層に行けてないしちょっと気になってたんだよね。
あたしはリリエルの返事が待てなくって自分の人形をとりあえず二階に向けて歩かせる。
ちょっと後ろを見ればリリエルが操作してるとは思えないくらいリラックスしながらダンジョンを歩いている人形がいる。
リリエルってば戦うのが怖いって言ってたけど、画面越しなら自分が関係ないから気にせずにうごけるのかな?
「二階をリリエルはそもそも知らないんですが」
「え?そうだっけ、えっとねぇ〜」
リリエルに二階層がどんな所か説明してあげる。
そこはとっても水浸しで、とってもじめじめしててやな所で、そして気持ち悪いトンボが飛んでる所だって事。
「それでね、ずっと足が水に浸かってるから動き辛いしそこにトンボが飛んできて幼虫を上から降らしてくるの!」
「う……クロエさんなら最悪ね。って言いそうな場所ですね」
「ほんとほんと!」
思い出すなあ、ちょっとゆだんしちゃって松明手放してクロエに叱られたっけ。
どんな状況でも油断したら取り返しのつかないことになるんだよって怒られて、その日は罰で一緒に寝てくれなかった。
悪いのはあたしだって分かってるんだけどさ。
後はなんかあの階層であったっけ?
「あ、あとでっかいカニがいたよ!」
「でっかい?この馬車よりもですか」
「んー……同じくらい?」
ハサミが左右でついてる本数が違っててクロエが物凄く違和感、って言ってた。
なんか、生物としての基本設計から外れている?とかなんとか言ってた。
なんだっけ、「生き物ってどっちかに極端に偏った形状だったり、奇数個の四肢とかを持たないじゃない。だから三本腕とかああいうのって……ね?」だっけ。
何となくクロエが言いたい事は分かるけど、でも気味が悪いとかはあんまり思わなかったなあ。
ただ攻撃される回数が増えるしそもそもハサミが硬いからうざい、とか思ってた。
「それは大きいですね。……そう言えばどこかの街でカニは美味しい、と聞きましたが味はどうでした?」
「え……食べてないから知らない。てかあれ食べるの?」
クロエの言うとおりやっぱりリリエルって食いしん坊だ。
二言目で味は?って出るのはちょっと……。
あたしの視線に気付いたリリエルが恥ずかしそうに否定するけど、もう遅い。
クロエと同じようにあたしもリリエルの事お腹がいつも空いてる子って認識になってる。
「違いますからね?リリエルはちょっと思い出したから聞いただけで決してお腹が空いてる訳では」
「あーもうわかったよー。ほらそれよりあたし達の人形が魔物と遭遇してるっぽいからそっち集中してー」
画面の向こう、ダンジョンではあたし達の人形が戦っていた。
画面から音も届くけど、なんだか現実感が無くてあたしが操っているのに他人事みたいに感じる。
もしかして痛みも、そこにいるって感覚も無いからかな?
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