魔物とウイルスが蔓延る歪んだ世界で闘う君を生かしたい

コーフィー

第一部 歪んだ世界

「ねぇねぇお兄ちゃん、なんでお母ちゃんは寝てばっかりなの?友達のお母さんはみんなのご飯を作ったり、洗濯物とか干してるよ?」


昼休憩、いつものように基地でご飯を食べていると、梨子りこちゃんがこてんと首を傾げて聞いてきた。


梨子ちゃんは俺の手が空いているときよく遊んであげている子だ。普通なら母親や父親が遊んであげるのだろうが、そうじゃない理由はさっき梨子ちゃんが言った通りだ。


「うーん、倫子りんこさんは疲れやすいからな。ちょっと動いたら眠くなっちまうんだよ。」


俺は頬を掻きながら、困ったように答える。


本当のことは言えない。たとえ言ったとしても、まだ10にもならない梨子ちゃんには分からないだろうし、ちと残酷だろう。それに当の倫子さんにも固く口止めされている。


「でもでも、お母ちゃん寝てばっかりずるいよー。前は梨子が学校行くとき起きなかったら怒ってたくせにー」


梨子ちゃんは頬を膨らませて不満をもらす。そんな様子をみて、可愛らしさを感じると共にふと思う。


これからこの子は今の世界の状況が分かるようになって、今の自身の母の状態が分かるようになってどう思うんだろう?さっきの自分の発言を後悔してしまわないだろうか?


想像して胸がキリリと痛むのを感じた。


それを表情に出しては駄目だと己に言い聞かせ、無理やり笑顔を作る。


「まぁまぁ。倫子さんは働きものだから、今まで溜まっちまってた疲れが一気に現れたんだよ。」


「でもでも~…なんだよー」


俺のへたくそな擁護じゃ梨子ちゃんは納得出来ないらしい。それもそうだ。いくら疲れが溜まっていたとしても、もう何ヵ月も寝てばっかりの生活をしているのは誰にでもわかる異常だ。


それに俺が遊んであげてるとしても、さすがに母親には敵わない。梨子ちゃんも母と遊びたいだろう。他の子と同じように。


だがそれでもそんな現状に怒り散らさないのは、幼いながらにこれまでと今との違いを、を感じ取っているからだろう。


ふと窓の外を見る。ちらちらと雪が降っていた。


(…か…)


――――そう、ずっとなんだよな。


ある日、世界は変わった。人々は自分たちこそが世界の主導権を握っていると確信していた約半年前。突如世界に現れた化け物たちにその根底は覆された。


世界に現れた化け物たちは瞬く間に、全てを破壊していった。最初はそれに抗おうと軍隊が動き、反撃をした。


だがしかし、全て無駄だった。やつらの皮膚はこの世のものとは思えないほど丈夫で普通の攻撃、それこそ素手での打撃は勿論、ミサイルまでもが効かない始末だった。


そして、政府が機能を停止し、人々が困惑、絶望し憔悴していくなか、それに拍車をかけるようにsが人々を襲った。sウイルスは人々の身体を蝕み、着々と死へと近づかせていった。


くだんの倫子さんもそのSウイルスにかかって寝たきりだ。日に日に痩せ細っていく倫子さんを見るに、おそらくもう長くはないのだろう。


――――――そんな世紀末の中


今までsウイルスによって死を待つだけのものたちの中に特別な力を扱うものが出て来始めた。


不思議なことにsウイルスの感染による病状は見られなくなり、逆に怪力だったり、手から炎を出したりという異能を使うようになった。


さらにその力は今まで軍の総力がてんで聞かなかった化け物たちに有効だったのだ。


それからの世界では、その力が特別強いものまたはそれを扱うことがうまい、つまり指導力があるものがリーダーとなり集団を築いて生きていくようになった。


―――そう、今はそんな世界なんだ。


改めて振り返り、心に影ができるのを感じる。


何故、何故、何故?


何度そう考えたことか。また、何度この変化に理由を求めては駄目だということを理解させられたことか。きっとそんな結論に至ったのは俺だけじゃなく、おそらく世界中の人間もだ。皆謎だらけなのだ。


いや、ある意味新しい世界の一面を知って、鼻から人間は世界の主導権なんて大層なもんを握ってなんかいないということが分かった分だけ前より謎は解けているのかもしれない。


(それがたとえ悪夢のようで、人間には酷く都合の悪い真実だっとしても…な。)


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