第25話 町だ!

 異空間収納カバンは小さい物でも30kgほど入るとのことだが、それでも屋敷が立つお金で取引されるという。


 異空間収納を付与する魔法は非常に難しく、試みるも成功例はなかった。

 そのため容量の大きい異空間収納が付与されたカバンは国宝レベルの価値があると言われていると説明してくれた。

 ダンジョンで得た記録しかないそうだ。


「へえ、そうなんだ。このカバン実はすごいんだな。どれくらい入るかわからないが、制限がないか、かなりの量が入ると思うぞ」


 俺はカバンを見直し、その価値に気分が良くなる。


「でも、タケル様、そのカバンは絶対に人に知られないようにしてください。それはとても貴重なものなので、欲しがる人がたくさんいると思います。もし、盗まれたり奪われたりしたら、大変なことになりますよ。それは国宝級ですよ」


 エリスはそのカバンの価値による危険性を知っていて忠告してくれた。

 異空間収納のカバンは、所有者や所有者から許可された者以外には開けられないようになっているが、それでも強引に開けようとする者がいるかもしれない。


 また、そのカバンの存在が知れ渡れば、王や貴族などの権力者が狙ってくる可能性もあると。


「そうか、ありがとう、エリス。気をつけるよ」


 俺はエリスに感謝した。このカバンは俺がこれから快適に生きる為の相棒になることが分かった。 


 これらの話しだけでも役に立つが、取り敢えず首輪からエリスが奴隷だと分かるので、無事な背嚢を見つけて軽いものを詰め込み、カモフラージュで荷物を運んでいるふりをすることにした。

 主人が荷物を背負っているのに奴隷が何も背負っていないのは変なのだ。

 だから、俺の背嚢より大きいのを背負わせたのだ。

 また、警告を聞き入れ、俺もこの世界の普通の背嚢を背負い、その中に異空間収納のリュックを入れておいた。


 何とか必要なものを回収し、最後に墓標に手を合わせてから出発した。





 町への道すがら、一匹の魔物も姿を現さなかった。


「こんなに静かで魔物の気配が全くないなんて、何かの前触れでしょうか?」


 普段ならばこうも静かな道中はあり得ないらしい。エリスは首をかしげながら不思議そうに周囲を見回していて、その声には疑念が滲んでいる。


 俺はエリスの懸念を軽く一笑に付して、楽観的に返答する。


「大丈夫だ。たまにはこういう日もあるさ」


 そして半日ほど歩くと、ついに目的地である町の壁が視界に飛び込んできた時、俺の喜びは隠し切れず少年のようにはしゃぐ姿を見せる。


「見ろよエリス、あれが俺たちの目指す町だよな?壁がすごいんだな!これが噂の始まりの町か!」


 妙にテンションが高く、歓喜に満ちた声を上げてしまった。


 エリスは俺の子供じみた興奮を見て、微笑みながらも軽くたしなめる。


「タケル様、目立ち過ぎです。もう少し落ち着いてください。ほら、他の人達から見られていますよ」


 しかし嗜める彼女の声にも、わずかながらの笑みが含まれている。


 そうして俺たち二人は高い壁に囲まれた町に到着する。町の門は開かれており、中からは人々の喧騒や馬車の音が聞こえてくるが、あれ?なんか門壊れていない?近くで見ると壁には亀裂とかあり、足場が組まれて補修している人?がいるな。

 でも、ようやく人里に来たんだなと思い、あまり気にせず俺とエリスは互いに安堵の笑顔を交わす。俺たちは長い旅路の末、ようやく文明の地に辿り着いたのだ。

 ってあのダンジョンから三日か。


「ようやくだ。この町でどう動くか・・・次の一手を考えないと。」


 町の様子を眺めながらぼそりと呟いていた。


 俺は元々は現代の日本に住んでいたはずだが、ある日突然、異世界に転移してしまった。

 しかし、俺はこの世界のことをほとんど知らないし、自分がどこにいるのかも分からない。俺はただ、この世界で楽しく過ごしたいだけだ。


「私にできることがあれば何でもします。タケル様に恩返しがしたいですから。」


 エリスは俺の隣に立ち、真剣な表情で言う。エリスはこの世界の住人で、元々は商隊の奴隷として働いていた。しかし、商隊が盗賊に襲われた際、俺に助けられたのもあり俺に従うことを誓った。エリスはこの世界の常識や歴史に詳しく、俺にとっては貴重な情報源だ。また、エリスは魔法の才能があり、俺の戦闘をサポートする予定だ。多分・・・・というか何の確証もない願望だ。


 俺はエリスの忠誠心と強さに敬意を表し、彼女をパートナー、つまり対等の仲間として見ることを決意する。俺はエリスの肩に手を置き、優しく言う。


「ありがとう、エリス。君の力が必要だ。でも忘れるな、俺たちはもう主と奴隷じゃない。パートナーなんだ」


「・・・パートナー・・・」


 エリスの目が輝き、新たな認識に満ち溢れている。彼女は俺に救われたことで、自分の人生に希望を見出し、俺に尽くすことで自分の価値を証明したいと思っているようだ。


 本当は性的な奉仕をするのが若い女奴隷の役目と言うも、火傷から気持ち悪いから無理だと言い、他の方面で有能なところを見せなければ生きながらえる事ができなかったから商会主の弟のサポートをして過ごしてきた。しかし、俺は彼女を単なる奴隷としてではなく、自分と同格のパートナーとして扱いたい。それは彼女にとって、想像もできないほどの幸せだろうが、それでも首輪がある事実は隠せない。


 俺は彼女の顔に戻りつつある生きる希望を見逃さない。彼女が微笑む姿に心を打たれ、釣られて俺も微笑む。


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