第23話 後始末
俺は荒れ果てた戦いの跡を眺めながら、一筋の哀愁を感じた。足元には倒れた馬車や無残に倒れた遺体が散乱していて、その死に様は見る者の心を痛める悲惨さだった。
その中で、唯一の生き残りである女性が俺の隣に立っていた。彼女の目には過去の恐怖が色濃く残っていたが、目立った外傷はなく火傷の痕は古いものだった。大丈夫そうなので俺は彼女に声をかけた。
「君は大丈夫そうだね。でも、ここら辺の死体と荷物を片付けないと。手伝ってくれるか?」
火傷のある女性は傷跡にも負けず、俺の隣で堂々と立っていた。俺たちは破壊を免れた物資を集め、戦い、いや襲撃で散った者の遺品や残骸の処理を始めた。犠牲者たちへの最後の敬意として、黙々と作業を続ける俺たちの間には、言葉を超えた絆が静かに芽生え始めていた。
戦いの後、彼女の服がまりにも粗末過ぎたので、壊れた馬車の中にあったローブを掛けてやった。彼女は日頃の癖からフードを深く被ったりと顔を隠すようにしていたのもあり、後惨状を片付けるのに集中していて俺は彼女の顔をジロジロ見ていなかった。
一段落付くと既に夕日が差し込み、馬車の荷台に何とか2人が寝られるようにした頃には月明かりが光源となっていた。
彼女は俺がやりたがらないと思いこんだ盗賊の体を探ったり金品を回収するのを先にしていた。そして矢も丁寧に回収しており、戻るなり俺を上目遣いで見ていた。
「ご主人様は凄いですね。死んだ盗賊たちのうち、矢で死んだ者は各々一本の矢のみ刺さっていましたが、全て急所を射抜いています」
感嘆の声をあげた彼女の言葉に俺はほんの一瞬、回収した自分が射た矢を振り返った。
「大したことはないよ。それより俺は…記憶をなくして名前がわからないんだ。君の名は?」と俺が尋ねたとき、彼女は目を真っ直ぐに見つめながら答えた。
「ご主人様が新しい名前を…」
彼女の言葉を遮るように、俺は優しく微笑み、彼女の名前について聞いた。
「参考までに親から名付けられた名前は?」
「はい。エリスと呼ばれていました」
「じゃあエリスとするのは良いのか?禁止なら別のをつけなきゃだけど、可能ならエリスが良いな」
「ご主人様がそうおっしゃるなら、私はエリスと名乗らせて頂きます」
「じゃあエリスでいい。よろしくな」
心なしか照れている感じがするが、先ほどから彼女が集めていたカードを差し出され、それを手に取ると俺はエリスに問いかけた。
「これ、何のためのカードだ?」
エリスは俺に向かって詳しく説明した。
「ライブラリーカードは人々のステータスや職業を記録したものです。所有者が念じると、手のひらに現れます。そして、人が死ぬとカードは体外に出てしまうんです。これらのカードは犯罪者の場合、懸賞金の対象となる貴重な情報源にもなりますよ」
俺は自分のカードを確認し、「タケル」と記されているのを見て、一瞬の安堵を覚えた。
俺たちが見つけた遺体の中には犯されて汚された女性もいた。俺は一歩遅かったことを悔やみ、「助けられなくて悪かったな」と心の中で謝罪した。俺は女性に尊厳をもたらすため、荷物から見つけた服を着せ、静かに埋葬した。
馬車は車軸が折れ横倒しになっており引き馬もいなかった。俺たちは荷物を整理して夕暮れに備えて、落とし穴を発見してそこに遺体を安置した。エリスは寒さをしのぐための準備を始めた。
夕暮れ時、俺たちは馬車に荷物を積み、冷え切った夜の寒さに備えた。馬車の中は狭く、冬の風が隙間から容赦なく吹き込んできた。俺はエリスを優しく抱きしめる。
「寒いだろう。大丈夫か?」
エリスは俺の温もりに安堵したようだ。
「はい、タケル様…あなたがそうしてくれるおかげで、温かいです」
はにかみながら答えたが、本来の姿で見たい!
荷物の中にあった食料を夕食とし、暗がりの中で食べており、結局彼女の顔を詳しく見る事ができなかった。
これは言い訳だ。
あまりの凄惨な顔を直視することができなかったんだ。
まともに見たら涙が出そうで・・・
俺たちは夜を共に過ごし、お互いの体温で暖を取り合っていた。
最初はエリスに背中から抱きつかせたが、その時胸の感触は確かにある程度の膨らみを感じたが、初めて感じる?胸の感触は素直に喜べなかった。
寝る姿勢がしっくりこないで色々な態勢を試している時に、意図せずエリスの胸に触れ、火傷のざらついた感触を覚えていた。
最後はエリスを抱え込むように抱きしめることで、二人で温もりを共有して安らかに眠った。
もちろん火傷の事を抜きにして無粋なことは一切していないさ。一応紳士だからな!
精神的な疲れから、俺たち2人は早々に眠りに落ちた。
俺はエリスの若さと、その体が負っている傷に涙した。エリスもまた、こんなにも大事にされるとは思っておらず、久し振りに感じる人の温もりに感動していた。
「ああ、人の肌ってこんなに温かなんだ」
涙混じりに呟いていたのが聞こえたから分かったんだ。
今は考えるのを止そう。疲れから、ろくな感情を持たなさそうだからな。
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その夜、彼らは互いを信じ、支え合いながら戦乱のこの世を生き延びる力を得た。そして、タケルは知ることとなる・・・どんなに世界が荒れ狂っても、彼らの絆は確かなものであると。
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