n周目
第108話 n周目の始まり
王国歴358年、10月1日火曜日。僕はもう何回目か数えるのも放棄するほど、この朝を迎えた。「よし、頑張ろう」なんて思えたのは、何周目までだろうか。とりあえず、身支度を済ませよう。
今日は入学式の後、スライムを
あれから何人もの
「
彼女は3年間、ずっと鼻息を荒くして、物陰から彼らをつぶさに観察し、山のようなクロッキーを残した。いや、そんなルートないから。そして日本語でおk。
もうさ、毎回思うんだけど。普通ゲームって、攻略サイトあるよね?みんな、クリアしたかったら見ようよ?いや、ゲームはどのようにプレイしようともプレイヤーの自由なんだけどさ。つくづく、最初のヴィヴィちゃんが一番マトモだったと、今更ながらに頭を抱える。
愚痴を言っていても仕方ない。僕は折れそうな心に鞭を打って、新入生の胸にリボンを付けていた。
そんな僕を毎回支えてくれるのは、彼だ。
「アレクシ、なんだか元気ないね。忙しいの?」
毎週土曜の夜。リュカ様は相変わらず、僕を窓辺で待っていてくれる。彼をダンジョンに連れ出すたび、楽しそうにはしゃいでくれる姿が、僕の唯一の癒やしだ。そしてもう一つの心の支えは、3周目で錬金術を教えてくれた、クララックのウルリカ。あれからもう、どれくらい経つのだろう。
僕の歪んだ愛想笑いに、リュカ様が本気で心配してくれている。僕、もう結構限界かも知れない。
「———リュカ様。明日、古い友人に会いに行くんですが、ご一緒されますか?」
思わず、そんな言葉がポロリと口をついて出た。
リュカ様を連れ出すのは、予想外に簡単だった。彼は「今日は1日部屋に引き篭もるから、絶対に入って来ないで」と家人に言い渡し、使用人たちも素直に従った。そもそも、週末は大体そんな感じなのだそうだ。どこへ行くのも何をするのも、使用人が黙って付いて来るだけ。それなら、部屋で一人好きな本を読んでいる方が、気楽でいいらしい。
翌朝、僕は改めて彼を迎えに行った。彼は用意してあった軽食を持って待っていた。そして僕らは、クララックの森まで飛んだ。
自分でも未練がましいと思う。ループが終わるまでは辛抱だと思いながら、僕はもうずいぶん前に座標登録を済ませていた。煉瓦造りの小ぶりな一軒家。彼女の工房の、ほんの目の前。
一見、人が住んでいるのかどうかも分からないような、地味な佇まい。しかし、見る者が見れば分かる。何重にも認識阻害や防犯の結界が張られていて、ここは各国の王宮を
「———誰ぞえ」
慎重にノッカーを鳴らすと、中から怪訝な
「いきなりお訪ねして恐縮です。こちらに、高名な錬金術師がおわすと聞いて参りました」
しばらく沈黙が流れる。だけど僕は、今自分たちに何が起こっているのか知っている。精霊が僕らを取り囲み、入念なボディチェックが行われている。
「———よし。入るがええ」
木の扉がギイ…と開き、僕らは中へ誘われた。
「ヒッ…」
僕の背後から、小さな悲鳴が上がる。その気持ちはよく分かる。彼女の工房は、常に腐海の底にあった。かつて慣れ親しんだ僕でも、しばらく見ないと飲み込まれそうになる。いや、飲まれていてはいけない。
「オルドリシュカ・オブロフスカー師。お初にお目にかかります。私はアレクシと申します。こちらはリュカ・ラクール様、ラクール魔導伯のご子息でいらっしゃいます」
「リュ、リュカ・ラクール、です…」
いつも礼儀正しいリュカ様の声が震えている。
「ふむ。
「
僕は、以前ウルリカが欲しがっていた素材を、いくつか並べ…いやまずテーブルを発掘し、物をどけ、その上に並べた。
「おお、これは!…と言いたいところじゃが…」
彼女は一瞬素材に目を取られ、しかしその後冷静さを取り戻した。それもそのはずだ。僕の上着は火鼠+Max、リュカ様には状態異常軽減のリング。そして首には、ルフの護符などのドッグタグがじゃらじゃらしている。
「申し訳ありませんが、少しお話を聞いていただけますか」
本当は、一目姿を見て帰ることも考えた。だけど、せっかくの機会だ。僕は、自分が置かれている状況を、二人に聞いてもらった。
「なるほどのう。それで、お主はこの工房のことを知っておったと」
目の前には、お茶と焼き菓子。リュカ様とおやつにしようと、多めに買っておいたものだ。今度はケーキを焼いて来よう。
彼女は僕の装備をまじまじと観察していた。素材に素材を限界まで付与し、それをまた対象物に限界まで付与する、濃縮Max付与。それから、闇の聖句を編み込んだ紐で連ねたドッグタグ。ホーミングの付いた爆炎に、連射付きのレールガン。「リアとオーダと会うたというのも、間違いなかろうの」手紙をよく読まずに里から慌てて飛び出して来るなど、いかにも彼女ららしいということだ。
「して、儂を訪ねたのは」
「もう、万策尽きまして。僕は僕なりに、アーカートで精一杯、物語の結末を良い形で迎える手伝いをしてきたつもりなんですが、何回やっても上手く行かなくて」
僕は、ただ彼女以上に博識な人物を知らないという
「ふむ、確かに。人間族では荷が重いじゃろう。儂は専門外じゃが、里の者ならば、誰か力になれるやも知れん」
「里ですか…?!」
僕は思わず、腰を浮かせた。
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