第78話 貴族学園生徒会
誠に不本意ながら、生徒会に取り込まれた僕たち。しかしリュカ様にとっては、良いチャンスだと思う。土属性の第三王子のもと、土属性の地位向上に繋がる良い流れに乗れるだろう。きっと彼の今後の人生にプラスになるはずだ。
そして何より、僕としても都合がいい。なんせ、貴族学園の生徒会なんて、ゲームの香りがプンプンするじゃないか。ループの終わらせ方についてはまだ分からないけど、とりあえず、誰かと誰かをくっつけちゃえば終わるのでは?それとも、魔王か何かを倒す?ヤバい。ループの終わりが、いよいよ現実味を帯びてきた。
「せっかく春休みは、マロールに行こうって約束してたのに」
リュカ様は相変わらずプンスコしている。しかし、生徒会の任期は一年。今年の見習い期間半年を含め、あと一年半のことだ。仕事自体も大したことないし、土日にのんびりレベリングして行こう。
「長い人生、何が役に立つか分かりません。こういう作業も、お嫌いじゃないでしょう?」
何だかんだ書類を目の前にすると、ついつい手が動いてしまう僕たち。土属性は、基本的に社畜が向いているのだ。サクサク片付く書類の山に、充足感すら感じている。
「君たちは本当に優秀だな。スカウトして来た甲斐があったよ」
リシャール殿下はご機嫌だ。しかし一方で、ご機嫌じゃない者もいる。
「殿下。生徒会に部外者を二人も入れるなど、お
現生徒会長、ソレル辺境伯が次男セヴラン様、高等部二年A組。高等部二年では彼が一番身分が高く、先日の模擬戦において、風属性にもかかわらずA組代表となっていた。
「一般生徒に閲覧を許すには不適切な書類もあります。お考え直しを」
書記のティボー・タレーラン。男爵家出身ながら嫡子のため、高等部二年B組のリーダー的な存在。彼は火属性で、やはり模擬戦のB組代表だ。二人とも、僕が舐めプして
「おや。来期中等部代表のリュカ君と、その従者だよ。何も問題はないだろう?」
殿下はどこ吹く風で、にこにこしている。まあ、彼の気持ちも分かる。この生徒会、彼以外に土属性がいない。表立って彼を蔑む者はいないだろうが、その実、裏では軽視してきたのだろう。土属性は派閥的にも最弱だ。だけどそこに、高等部二年と中等部一年の主席、兼、模擬戦学年優勝者が加わったのだ。彼としても心強いのだろう。
しかも土属性は、地道な作業を厭わない。これまでなあなあで済まされてきたいい加減な書類など、僕ら3人でバリバリと検閲、確認、訂正して行く。
「殿下、ここの根拠が曖昧です。生徒会規則では、この事由では認められないはずですが」
「本当だ。リュカ君、君は一年なのに優秀だね」
「いえ、どうしてこれまでこんなことが罷り通っていたのかと」
リュカ様は、僕に嫌味な他のメンバーに対して辛辣だ。まあ、私情を抜きにしても、仕方ない面もある。リーダーシップはあるが大雑把な火属性、フットワークは軽いが退屈な作業が苦手な風属性。そして情にもろく人情に訴えられたらノーとは言えない水属性。これまで生徒会は、これらの属性で成り立って来た。しかし彼らの苦手とする地道な作業は、土属性が最も得意とするところ。この世界は、四属性が全て揃ってバランスが取れるようになっている。
彼らは彼らの得意分野で活躍してくれればいい。だけど土属性と地道な作業を軽視してきたから、現在こうしてボロが出ていることは、理解してもらいたい。
生徒会の目下の仕事は、後期の大イベントたる5月の学園祭、そして9月の卒業式とパーティーである。各所からの予算の申請が山と上がって来るが、どこからツッコんでいいのか分からないほど穴だらけだ。特に飲食業への支払い案件が沢山あるんだけど、予算と実情に大きく
何故分かるかって、そもそも僕は、2周目には「塔」に勤務していたのだから、王都の外食事情には多少馴染みがある。この内容でこの金額はない。中抜きにも程がある。生徒側がポッケナイナイしているのか、それともレストラン側がぼったくっているのか。
「卒業記念品も、価格とグレードが見合っておりません。この件は僕に預からせて下さい」
「さすが商人。任せたよ、アレクシ君」
実質僕ら3人が牛耳っている状態に、他のメンバーからの視線が痛いったらない。
せっかく生徒会に入ったっていうのに、毎日こんな有様だ。これではループの実態と解決方法の糸口が、まるで掴めない。
しかし、分かったことはいくつかある。
まず1つ目。A組の生徒は少ない。当然だ。この国は、まもなく建国360年を数える大国。列強と呼ばれる規模を誇る。しかし、全ての貴族家の子弟を集めても、そうそう毎年何百人も集まるわけはない。上位貴族なら尚更だ。多くとも10名を超えることはなく、時にはゼロの学年もある。下位貴族のB組も同様、20名いれば多い方だ。そして最も多い騎士爵などの子弟の多くは、騎士学園に通う。
豪商の子息や特待生のC組も、20名前後。特に豪商枠は入学金や学費、寄付金が馬鹿高く、また審査も厳しい。実はこの学園、かなり小規模かつ狭き門なのだ。
2つ目。悪役令嬢とか自由恋愛などは存在しない。そもそも女子生徒がほとんどいない。ここに通うのは貴族の嫡男、および将来自立を目指す次男以下の男子生徒。女子は長子として爵位を継ぐ必要のある生徒が、若干名。他の貴族女子は別に女学園があり、そちらで花嫁修行をしているらしい。そういえば、「塔」にも女学園からの入省組がいた。こっちに通うケースは、稀なのだ。
3つ目。闇属性や光属性の生徒が存在しない。どちらも千人に一人くらいのレアな存在だから仕方ないとしても、現在在籍する生徒の中には一人もいないのだ。ブリュノみたいに、属性を偽っていれば別だけど。
偽る理由も分かる。闇属性は何かと嫌厭されるからだ。そして属性を偽ることも、さして難しいことじゃない。土属性なんか特に、「どうせ土属性スキルなんて役に立たないし」という理由で、武術スキルを選ぶケースが珍しくないからだ。マロールでは、ほとんどの土属性の生徒がそうだった。ここでも同じ理由で、剣術で模擬戦に挑んだ生徒は僕の他にもいる。だけど、平民C組は身分審査が厳しく、属性を偽って潜り込むのは不可能に近いだろう。また、高位貴族の中には止むを得ない理由で偽装する必要がある方もいるかもしれないけど、今のところ僕の鑑定で引っかかる人物はいない。
何が言いたいかというと、ここで恋愛イベントを起こすのは、ほぼ不可能だということと、起こしそうな人物も見当たらないということだ。
ならば、パーティー組んで巨悪と戦う?という線なんだけど、それも微妙。それはこないだの模擬戦ではっきりした。模擬戦ならば、きっと主人公格が活躍して台頭して来ると踏んだんだけど、蓋を開けてみれば、圧倒的な戦力で他を
分からない。どこでループが起こっていて、何をどうすればループを終わらせられるのか、全く分からないのだ。
まあ、机に向かって煮詰まっていても仕方ない。こういう時こそ気分転換だ。ちょうどいい所に、ブリュノから手紙が届いていたこともある。僕は、生徒会の不正会計の調査も兼ねて、春休みに上京してきたブリュノに会いに行くことに決めた。
「アレクシの友達なら、僕も挨拶しておかないとね」
リュカ様も行く気満々なんだけど。何故なのか。
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