第30話

交流試合の翌日、練習は休みにした。試合は体力も使うし気も張っているから、思った以上に疲れている。激しいスポーツでは身体のメンテナンスは大切だ。

自分の部屋のベッドで横になって何時間たったかな。身体は休まってるけど気持ちが落ち着かなかった。


高山美優。その強さは想像以上だった。

ひとつひとつの技が重かった。他の選手では軽い一発が重く身体に残るような技だった。

試合運びも上手い。全ては最後のあのサソリ固めに持っていくための流れだったように感じる。

軽い技(高山美優の場合それも軽くないけど)で着実にダメージを与え、徐々に威力の高い技を出していく。サソリ固めを決める上で相手に抵抗されそうな要素を潰しておけば、最後はがっちりと極めるだけだ。


一方私はといえば、まともに出せた技は無い。どれだけ自信のあるジャーマンも決めなければ意味がないけど、その形に持ち込めなかった。それ以外の技も読まれることが多かった。こっちの技が途中で止められ相手の技は食らう。差は開いて当然だ。


「あーーもう!」


悔しい。同じ高校一年生でどうしてこうも違うのだろう。

ベッドに仰向けになったままむしゃくしゃしているとドアが開いた。


「姉ちゃんうるさい」

「ちょっと康太ノックしなさいよ」

「したよ」


聞こえなかったし。てかこっちが返事してから入ってくるもんでしょ普通。

もういい。お腹空いてきた。


「昨日の試合、勝った?」

「勝って勝って負けた」

「2勝1敗?まぁまぁじゃん」


康太はスポーツなんて興味もないのに、時々こうして近況を聞いてくれる。


「そりゃどーも。全部勝てるくらい強くなりたいよ。どうしたらいいと思う?」

「必殺技とか考えてあげようか?」

「そうね。ダサいのじゃなかったら使ってあげる」


考えが中学生らしいというか、ゲーム好きの発想というか。そんな弟と話していると自分が悩んでいるのがバカバカしく思えてくる。


「でも一発で決めようとするよりコンボでハメた方が勝ちやすいんだ」

「そんなゲームみたいに上手くいったら苦労しないよ」


とは言っても、高山美優に最後やられたのはそういうことだったのかもってふと思った。ジャイアントスイングで動きを鈍らせてからのサソリ固め。あれも康太が言うみたいなコンボなのかな。


トイレに行った帰りだったのか、特に用があったわけではなかった康太は自分の部屋に戻っていった。


「コンボかぁ…」


私もそういうの、あったらいいのかな。ジャーマンスープレックスに繋がる最強コンボ。

そこまで考えてまたバカバカしくなる。何が最強コンボだ。小学生みたい。


起き上がって一度伸びをする。最近はしっかり練習していたから3試合しても筋肉痛にはならない。


必殺技とかコンボとか考えるのもいいけど、試合での反省点を修正するのが最優先だ。

窓の外は暑そうだ。昼前で既に30度になっていて、今日の最高気温は35度を超えるらしい。


早く練習したいな。

うだるような暑さだけど、強くなるにはそれしかないのだ。

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