第27話☆三浦桜vs石井百合
試合の興奮が冷めないまま桜とアップルームへ移動した。試合を終えた私たちは何も言わず、でも当たり前のように一緒にここに来てストレッチをしている。
2人とも今日はあと1試合ある。少しでも休まないと。披露した身体が固まらないようほぐしていると昂っていた気持ちもようやく落ち着いてきた。
「楽しかった」
「え?」
「桜との試合、楽しかった」
そう伝えたかったのか、桜にとっても楽しい試合だったのかを聞きたかったのか、わからない。試合に対する向き合い方が少し違っていることを知っているから、私の気持ちを押し付けるつもりはない。でも、それでもやっぱり伝えずにはいられなかった。
桜はストレッチを続けたまま、また目線を開脚した脚の間に落とした。
「練習試合以外で陽菜と戦うの初めてだったけど、こんな感じなんだね」
「こんな感じって?」
「不思議な感じ。今回勝てるかもって、思ったんだ。でも負けちゃった。だから悔しい気持ちもすごくある。でもそれだけじゃない、何か不思議な感じ」
「えー、何それ。全然わかんないよ」
おかしくなって笑ってしまう。そう言われると確かに不思議なものなのかも。私は勝ったから嬉しい気持ちもあって、それ含めていい試合だったって思ってるのかもしれない。でも桜は負けた。それでも悔しいって気持ち以外にも何かあるとしたらそれは不思議な感じ、なのかな。
「ふふっ。そうだね。私もわからないんだもん」
桜も笑った。
「あーあ、でも勝てると思ったのになー」
「腕取られた時はやばって思ったよ。あのミドルも入ってたらやばかったかも」
「ガード空いてるって思ったんだけどねー。でも陽菜が試合終盤で関節技狙ってくるなんてね」
「咄嗟の思いつきだよ。やっぱ決めきれなかったし。もっと練習しなきゃ」
それしかない。今日の試合だって反省点はたくさんある。もっと強くなって、今日よりももっといい試合をするんだ。
「陽菜、また試合しようね」
「うん!何なら今ここでもう一戦やる!?」
「なんでよ。そういう場所じゃないし」
私たちの笑い声に混じって遠くでゴングが鳴る音がする。
桜は強かった。でも次も負けない。次は公式戦で戦えるといいな。
桜と石井百合の試合は思いのほか接戦となった。桜は私との試合でかなり消耗していたし、その前には短期決戦だったものの高山美優とも戦っている。それに加えて石井百合の目つきも少し変わったような。相変わらずラリアットを多用していた。前半こそ決まっていたものの徐々に桜がかわしたりカウンターで脇固めに入ったり上手く対応し始めたので、闇雲には仕掛けられなくなった。そこからは桜の技の応酬だったけど、石井百合も粘りを見せて簡単には倒れなかった。最後は桜のミドルキックがボディにヒットし、そのまま押さえ込んだ。
桜のセコンドについていた私もそばで見ていてハラハラする試合だった。今日はいい試合によく巡りあう。
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