第13話☆陽菜の特訓
最近の練習では時間の一部を使って咲来にキックを教えてもらっている。
といっても、どちらかというとキックを防御する側の練習の方が多い。
咲来コーチの指導は容赦なかった。咲来がローキックを打って、私がそれに対処する。ただそれを繰り返すだけなんだけど。
「前田さん頭下がってる。ガードの時は足だけすっと上げるの。もう一回いくよ」
咲来の蹴りに合わせて足をすっと上げる。でもローキックだからって姿勢が下がったらだめ。
ローキックをフェイントにしたハイキックを狙われないよう、姿勢も腕のガードも下げず、足だけをすっと上げる。
これがなかなか難しい。でもこれが基本動作だからって咲来に言われてちょっとへこんだ。
私はかなりの攻撃型レスラーだって中学の頃に言われた。
相手の技を受けながらでも突っ込んでいって、受けた以上のダメージを渾身の一撃で相手に与えて勝ってきた。
防御して反撃というより、相手の技を受けて、次は私の番よ!ってテンションを上げていくんだ。相手の技がすごければすごいほどこっちも燃える。
「痛ぁ!ちょ、ちょっとタイム!」
咲来の強烈なローが太もも横の痛いところに入って思わず声が出る。
この時ばかりは咲来の白く細い脚が鉄の棒に思える。
周りから見たら折れないか心配なくらい華奢なのに、今折れそうなのは私の脚の方だ。
「だいぶタイミングも合ってきたね。スウェーも上手く使えてるし、やっぱり前田さんすごいよ」
スウェーは狙われた前足を後ろ足によせて相手の蹴りを交わす動きだ。ハイキックの時は上半身を反らしてかわす。
「え、そうかなぁ。中学の時も教えてもらったはずなんだけど、あの頃は攻撃ばっかだったから。でもこんな蹴り毎回食らってたらもたないし、これは防御も大事だわ」
中学生で重い打撃を持った人はほとんどいなかった。でも高校生になって体も大人になって、力も強くなる。
だから全部受けっぱなしじゃいけない。咲来みたいな蹴りができる選手とだってこれから戦うことになるんだ。
「でもだいぶ感覚掴めてきた。あとは試合でも使えるように体に覚え込ませないと。これで坂本美音にも早くリベンジしたいな」
あの膝蹴りはもう食らわないぞ。
でも坂本美音だけじゃない。あの都大会ではベスト4に1年生が3人も入っていたんだ。
1年生3人が南関東大会に進んでる。私が勝てなかった坂本美音も2回戦で敗れた。でも彼女より強い選手がまだまだいることにわくわくする。
特に紫苑女子大附属の高山美優の強さは圧倒的だった。試合を見ただけだったけど、カリスマレスラーって感じ。
優勝は紫苑女子大附属の3年生エースだったけど、決勝の高山美優との試合は壮絶だった。
会場にいた全員が目を離すことができず固唾をのんで見守っているような試合。早く彼女とも戦ってみたい。
咲来とのこの特訓もそれに繋がる重要な一歩だ。
「あ、そうだ。7月に連盟の交流試合があるんだ。多分それが咲来の初試合になると思う」
「連盟の試合?」
「そ。関東高校女子プロレス連盟、だっけ。みたいなのがあって、そこが主催するの。いろんな学校が集まる練習試合みたいなのだよ」
「私、いきなり出て大丈夫かな?」
試合の頃には咲来は入部2か月くらいになる。
普通の1年生なら受け身が様になってもいないかもしれないけど、武道経験者なのでそこは問題ない。
「初めて半年未満の人は、その人たち同士で試合が組まれるはずだから。受け身が難しい技とかは禁止になってると思う」
私にとってもそうだけど貴重な試合経験を積む場になる。高校生のレベル感を知るためにもしっかり準備して臨まなくちゃ。
「よしっ!咲来コーチ!もう一回お願いします!」
「コーチはやめてよ」
咲来がふふっと笑う。
誰かと一緒って、いいなって思った。
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