第2話☆格技室
鈍った体を元に戻さなきゃ。身体もちょっと固くなったかも。あーあと筋トレもしないと。
ちょっとでも体力作りできるようにって片道40分の自転車通学してるけど、それだけだと試合もたないよな。
受け身の感触は?うん、いい感じ。畳だもんね。
リングの床は固いからもっとしっかり叩かないと。
格技室は校舎の一番端っこにあった。
蔦が絡まっているあたりが歴史を感じさせるけど、ただ管理されてないだけとも言える。でも中は思ったより広く、柔道部がいても端の方で練習できそうなくらいだ。畳全部片づけてリング置きたいけど、そんな設備はない。
練習初日は勿論1人だった。念入りにストレッチをしてから受け身を何度も繰り返す。受け身は基本中の基本だけど家ではできない。なので柔道場が使える時は受け身とか、ここでしかできない動きをしっかりやっておく。
昨日は顧問の堀田先生に会った。
3月に大学を卒業してこの春から教師になったらしい。
大学出てすぐなら23歳?ってことは8歳上か。そのあたりの人たちはみんな年上って感じがするから、新任と言われればそう見えるし、30歳と言われても正直わからない。
堀田先生は妙に大人っぽい雰囲気でクールな先生だった。そして顧問とは言えど、もちろんプロレス経験者ではない。珍しいわねとやっぱりクールに言っただけで格別驚きもせず挨拶はすんなり終わった。
あとはサンドバッグ相手にキックとエルボーの練習。昔は空手部もあったらしく、そのまま残っているみたいだ。
ばしばしキックしていく。この手ごたえが懐かしい。サンドバッグ蹴るのは手ごたえあって好きだけど試合ではあんまり使わないんだよね。
畳を何枚か動かせばシューズを履いて練習するスペースもできそう。畳の柔らかさに慣れてしまうのもよくないし。素足だとまた動く感覚が全然違う。
今週は部活の勧誘があった。新入生が体育館に集められ、各部の先輩たちが部の紹介をする。朝日丘高校は運動部と文化部がほぼ半々だった。
運動部で活気があったのはサッカー部と陸上部、テニス部で、文化部だと軽音部はかなり周りの生徒も興味を持っていた。バンドやってる先輩は男女ともに三割増しでカッコよく見える。
そんな中、私は作って間もない女子プロレス部の紹介をした。入学したばかりの1年生が部活紹介すること自体前例がないそうだけど、ほんとうに部員が欲しい。切実に。
部員が増えたら技の練習や試合形式の練習、技の受け身の練習だってできる。
ざわつきと失笑。
新入生の前に立って私が得たリアクションはそれだけだった。わかってはいたつもりだけど、やっぱり現実はかなり厳しい。
ボクシングみたいに誰もが知ってる強そうな格闘技でもなく、八百長だとか言われたりもする。
危なそうとか、がっしりした太い体になるとか、とにかく女子にはマイナスになるイメージを強く持たれているって感じた。
最近では女子プロレス部がある中学高校もあるけど、やっぱり私立が多い。まだまだマイナースポーツの代表格だ。いっそマイナースポーツNo.1としてPRした方がマイナーでなくなるかもしれない。
サンドバックを蹴っているうちにだいぶ息が弾んできた。もう4月は運動すると汗をかく季節だ。
とにかく、部活紹介で存在の周知はできたんだ。あとは個別に入ってくれそうな人に声をかけていくしかない。武道経験者とか格闘技に興味のある人はまだハードル低いかな?
今日の練習はここまでにしよう。
汗を拭きながら移動させた畳を元に戻していると、開け放った格技室の入口から風が吹き込んでくる。
夕日が落ちて外はもう暗くなりかけていた。
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