第45話 最終手段を使うアレクシス嬢
「う、うう……! か、だが……っ」
カルメンは意識があった。身体に激痛が走り、治癒魔法を使わなければ動ける状態ではない。
「おーっほっほっほ! 我ながら天才的な力加減ですわ! 意識を残したまま無力化! 並みの淑女にできることではありませんわー! さらにここで油断しないのが淑女の中の淑女ですわ!」
アレクシスは高笑いを飛ばしながらある一品を取り出した。
「なん、だ、それは……」
「備えあれば患いなし。魔封じの腕輪ですわ。これであなたは自分の身体を魔法で回復できなくなります。もうしばらく痛いの我慢してくださいまし。あ、でも後でちゃんと返してくださいね? 私とカルロス様の結婚記念品ですので」
そう言ってアレクシスはカルメンの右腕にはめた。
「おーっほっほ! これで幽閉魔法のリンクも切れるはずですわ! さあてこんな壁、すぐに突き破ってアルフォンス様の元へ向かいますわよ!」
フラメンコシューズを履き直しカルメンを小脇に抱え光る壁をぶん殴った。
ゴン!
光る壁は力強く拳を跳ね返した。
「いったあああああああ!? なんで、なんでですの!? なんでまだ幽閉魔法が発動したままですの!?」
「アレクシス・バトレ……見事だ……拙の
カルメンは喋る。全身激痛が走っているはずなのに魔法が使えないはずなのに言葉がやけに流暢になっていた。
「しかし運は……拙を味方したようだ!!」
左手にはあるはずのない拳銃を握っていた。ゼロ距離で脇腹に六発ぶち込む。
「っっっああああ!!!???」
アレクシスは脇腹に呼吸が途切れるほどの痛みが走りながらにカルメンを投げ飛ばして距離を取った。
「肋骨はっ……いってえっっですわっぁぁ」
玄関の扉へと向かうが千鳥足になっていた。折れた肋骨の痛みのせいだ。
「な、なぜ、魔封じの腕輪が効きませんの……!? まじで不良品ですの!!??」
治癒魔法をかけながらとにかく距離を取る。
「アレクシス……貴様は肝心な点を見落としていた。どうして拙はいつも左手で現影魔法を使っていたと思う?」
形勢逆転。カルメンは魔封じの腕輪をはめながら現影魔法を使い、拳銃を装填する。
「左手……しか使えない……じゃあ右腕は、まさか……」
「そう、そのまさかだ。拙の右腕は義手だ。貴様ほどの聡明な者でも気づかないのも無理はない。これは宮廷魔術師エリック・ベルンシュタイン様特製の義手だ。本物の腕と見分けがつかない。最も拙の現影魔法はあくまで自分の影。義手は対象外だ」
「うっそーですわ!? じゃあすぐに腕輪返してくれませんこと!? 私とカルロス様の結婚記念品でしてよ!?」
「墓に一緒に埋めてやる」
義手でも射的の腕は落ちない。六発撃ち込み、うち二発を腰に的中させる。
「あああっっっ!!!??」
「ちっ……まだ身体のダメージが残っていて、狙いが正確ではなかったか……ドレスの上に撃ってしまった……」
アレクシスは急いで治癒魔法を施しているが回復が追い付かない。
「思ったように回復できない……もしや、これは……」
「ようやく気付いたか。何度も言っているがここは拙の
「アウェーにも……程がありますわよ……」
アレクシスは最初に入ってきた扉にたどり着いた。この扉は中庭から最も近い。
試しに押したり引いたりしたがびくともしない。
「開くとでも思ったか、アレクシス」
「あきませんわね、扉というのは……まるで人の心ですわ」
「今際でも戯言を続けるか」
「ねえ、カルメン……ここで手打ちにしません? 私はこれ以上あなたを傷つけたくないの」
「その強がりも今日この時までだと思うと寂しく……ならないな、これっぽちも」
カルメンはライフル銃を拾い、銃口をはだけた胸に押し付けた。装填も確認した。
「これで、絶対に、外れない!」
「私は忠告しましたわよ。あなたが……強い心を持っていただけることをお祈りしますわ」
「戯言は、死んでからしろ!!!!」
感情に任せて、ライフル銃を二発ぶち込んだ。
弾丸二発は扉の光る壁に大きな風穴を作った。
そして目の前にいたはずのアレクシスが姿を消していた。
「アレクシスが……いなくなった!!!?? 幻炎!!?? いやそんなわけがない、確かに目を凝らして──」
「……言いましたわよね、私」
アレクシスはカルメンの耳元に囁く。
「その仮面を剥いでアルフォンス様に会わせると」
アレクシスはカルメンの髪の毛を掴み、顔から床にたたきつけた。
「がっっぁ!!?」
彼女は攻撃の手を緩めない。
「今ですわ、アルフォンス様! ヒビが入っているうちにありったけの魔力を流し込んでください!」
「アルフォンス様だと!?」
幽閉魔法は内側からの衝撃には強固な分、外側からの干渉には脆弱だった。
光る壁のヒビが穴を中心に広がっていく。
パリィン!
そして維持できずに砕け散る。
同時に扉は開かれる。
「カルメン! アレクシス! 君たちは一体何をやってるんだ! 僕はずっと見てたよ! 魔法の単眼鏡で!」
アルフォンスが息を切らして中に入ってくる。
「君たちが今までやっていたのは喧嘩じゃなく決闘じゃないか!! 確かに僕は君たちが本気で戦ったらどっちが勝つかは気になっていたよ!! でも、でも、本当に本気で戦ったら、殺し合いになっちゃうじゃないか!!」
そして彼は肝心なことに気づく。
「カルメン……君、仮面が……」
カルメンは初めてアルフォンスの前に素顔を晒した。
「み、見ないでください……アルフォンス様……拙の、拙の顔を……」
乙女のような恥じらいはほんの一瞬だった。
「……アレクシス・バトレ……貴様は、貴様は拙の心を、侮辱したなあアあああああああああああ」
怒りの矛先は側にいた女に向いた。
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