学校の近くを通ったら召喚転移に巻き込まれた元勇者のおっさん、追放されそうな美人女教師に一目惚れしたので異世界の理不尽から守り抜く!

ナガワ ヒイロ

第1話 おっさん、巻き込まれ召喚される




 燦々と輝く太陽の下。


 大地を覆い尽くすほどの黒い影が、アトランティス王国の王都に迫っていた。


 その王都を囲む巨大な壁の上に立ち、僕は一人寂しく呟く。



「やれやれ。もういい歳したおっさんなんですがね。アラサーですよ、アラサー。もう戦いに楽しみを見出せる歳じゃないってのに」



 眼前に迫り来る魔物の軍勢を見据えながら、思わず溜め息をこぼす。


 でも、まあ、仕方がない。



「一目惚れした女の子が見てるんです。カッコいいところを見せたいので、すぐに全滅しないでくださいよ?」



 殲滅を開始する。


 魔物の軍勢は100万ほどいるらしいが、大した問題ではない。


 昔の方がもっとしんどかった。



「……駄目ですねぇ。昔の方が〜とか思い始めたら本格的におっさんじゃないですか。あー、やだやだ」



 そう思ってはいても、やはり思い出してしまう。


 僕が昔、この世界に召喚されて世界滅亡を目論む邪神を討伐したことを。


 そして、その救った世界に再び来てしまったことを。














 僕には好きな時間がある。


 買い溜めしておいた煙草を切らし、最寄りのコンビニに行って帰ってくるまでの時間だ。


 先に言っておこう。


 僕ことひいらぎ伊舎那いざなは、十五年間自宅警備員として働いているアラサーのエリートニートである。


 日々怠惰な時間を過ごし、社会に貢献しようともしないゴミのような人間。


 しかし、その僕が唯一社会貢献しているのは、コンビニで煙草を買う時である。


 喫煙者は納税者だ。


 最近はどこに行っても肩身の狭い思いをする喫煙者だが、敢えて言おう。


 こちとら税金払っとんじゃい!! 文句言われる筋合いは無いね!!


 なんてことを考えているおっさんだ。


 そう、おっさん。アラサーのニートのおっさん。そんな僕だけどね、驚くこともある。



「おお、異世界より来たりし勇者たちよ!! どうか魔王を打ち倒してくれ!!」



 異世界召喚という奴だ。


 目の前には王様っぽい人が無駄に高価そうな椅子にどっかりと座ってふんぞり返っている。


 ああ、どうやら今回の・・・勇者は僕ではないらしい。



「あ、あの、勇者って、どういうことですか? それに、ここは?」


「なんかの撮影、ってわけじゃなさそうだよな」


「これあれじゃね!? ちょっと前に流行ってた異世界召喚だよー!!」


「まじ? だったらウケるわー」


「いや、何も面白くねーだろ!! いきなりビックリするわ!!」



 今回の勇者は、彼らだ。


 僕がよく煙草を買いに行くコンビニまでの道中にある高校の制服を着ている。


 さっき煙草を買い、学校の横を通って帰ろうとした時、眩しい光が校舎の一画で爆ぜた。


 あの光は、召喚の際に生じる次元間の歪み。


 その歪みを通して、地球の人間をこっちの世界に召喚するのだ。


 まあ、その歪みは常に不安定で、たまに周囲のものを巻き込んでしまう厄介な性質がある。

 その光が、学校近くの道を歩いていた僕を飲み込んだのだ。


 つまりはそう、僕は巻き込まれたってわけ。



「ちょ、なんか知らないおっさんがいる!!」


「え、何? 不審者?」


「ちょ、先生!! なんか変な人いるー!!」



 生徒の一部が僕に気付いて騒ぎ始める。


 いや、まあ、知らない人イコール不審者なら、目の前の王様っぽい人とかその護衛と思わしき騎士たちも十分不審者だと思うのだが。


 すると、生徒たちの中から若い女性が急いだ様子で飛び出してきた。



「ふ、不審者って、貴方のことですか?」



 少し怯えた様子を見せながらも、生徒たちを守るように僕の前に立ったのは、とても美しいスーツ姿の女性だった。


 格好からして、おそらくは教師だろう。


 モデルみたいに高い身長と人形の如く整った綺麗な顔立ち。

 目鼻立ちがくっきりした、黒髪ロングの美女である。


 おまけに……。


 僕は失礼を承知で、その女教師の身体を上から下まで舐め回すように見る。


 実にスタイルが抜群だった。


 グラビア雑誌でしか見たことがないような豊満な胸と細い腰、肉感的なお尻と言い、百点満点をあげたい。



「ねぇ、あのおっさん、先生のことキモい目で見てるー!!」


「俺たちの凪ちゃん先生をエロい目で見てんのか!! 許せねーな!!」


「でも気持ちは分かるぞ、おっさん!!」



 生徒たちの声が頭に入ってこない。


 なんだろう、妙にこの女教師さんから目を離せないのだ。


 心臓の鼓動が早くなる。


 不整脈か? と思ったが、僕はそこまで不健康ではないので違うだろう。


 じゃあこの心臓の高鳴りは?



「お、おい、なんかあのおっさん、凪ちゃん先生ばっか見つめて様子がおかしくないか?」


「うちらみたいな現役のピチピチの女子高生を目の前にして、凪ちゃん先生に目が行くってマ?」


「現役ピチピチって、あんた五年も留年してんだから言うほどピチピチじゃ……」


「馬鹿!! お前それは言うなって!!」


「あれじゃね? 凪ちゃん先生に一目惚れでもしたんじゃね?」



 一目惚れ。ああ、なるほど。一目惚れね。


 多分、いや十中八九、間違いなく絶対にそれだわ。断言できる。


 なるほど、これが一目惚れか。


 っと、人生で初めての出来事にビックリしてる場合じゃない。

 今はとにかく不審者という酷い誤解を解かなくては。



「あー、えっと、ですね。僕は不審者ではないですよ」


「不審者は大体皆そう言うんですよ!!」


「いや、本当にね? 疑いたくなる気持ちは分かるんですが、ガチでただの一般人です。コンビニで煙草を買った帰りに学校の横を通ったら、校舎が急に光って巻き込まれたんです」



 僕はひとまず、自分の身に起こった出来事を説明した。

 一応、近隣住民であることも話し、必死に不審者ではないと訴える。


 すると、女教師は僕の言い分を信じてくれたのか、深く頭を下げた。



「いきなり疑ってすみませんでした」


「いえいえ。まあ、こんな意味分かんない状況ですし、神経質になるのは分かりますから」


「あ、でも生徒たちには近づかないでください」



 おっと、まだガッツリ疑われてるっぽいな。



「まあ、道理ですね。僕が教師でも、見知らぬおっさんがいたら警戒しますし。皆さんからは5mくらい離れておきますね」


「えっと、そ、その、本当にすみません。でも生徒を守るのは、私の義務なので!!」



 ……ふむ。知らない怪しいおっさんを相手に引かないと思ったら、そういう理由か。


 教師として生徒たちを守るために前に立つとか、泣かせるじゃないの。


 おじさん、そういうベタな展開嫌いじゃないよ。



「コホン。そろそろ、良いだろうか?」



 こっちの話が一段落したタイミングで、王様っぽい人が声をかけてくる。


 僕は学生たちから離れたところで、王様の話を聞くことにした。


 そこから王様が語ったのは、まあ、よくある「魔王を倒してくれ!!」というもの。


 如何に魔王が悪者かを強調するように王様が言う。


 すると、凪ちゃん先生(本名が分からないのでそう呼ばせてもらう)が、王様の言い分に食ってかかった。



「そ、そんな身勝手な話がありますか!! 自分たちの世界のことは自分たちで何とかしてください!! 生徒たちを巻き込まないで!!」


「しかし、我らは困窮しておるのだ。民は終わらぬ戦争に苦しみ、今なお魔王軍によって罪のない者たちが命を落としている。どうか、我らを助けてはくれないか?」



 ……困窮してる、ね。


 見たところ王様が着ている服や座っている椅子は、そこそこ高価そうに見えるが。


 果たしてどこまで本当なのか怪しいな。



「凪ちゃん先生。俺、やりたいです!!」


「え、ちょ、神崎くん!?」



 神崎くんが凪ちゃん先生の目を真っ直ぐ見つめながら言う。



「困っている人がいるなら、俺はその人たちの助けになりたいんです」


「だ、駄目です!! 戦争なんですよ!? 危険です!!」


「でもさっき、王様が俺たちには特別な力――ユニークスキルがあるって言ってました!! 人を救う力があるなら、迷わず誰かのために使うべきだと思います!!」



 生徒たちの半数以上が神崎くんの意見に賛成なのか、方々から「そうだそうだ」という声が上がる。


 神崎くん、カリスマ性があるんだろうねぇ。


 見た感じイケメンだし、正義感もあって女子からはさぞモテモテなのだろう。


 でも異世界召喚というラノベのような非現実的な出来事を前に、些か慎重さというものを欠いてしまっている。


 これは人生の先輩として、横から口出しをした方がいいだろう。……余計なお世話かも知れないが。



「横から失礼したいんですが、良いですかね? 凪ちゃん先生」


「え、あ、はい!!」



 一応、凪ちゃん先生に一言断ってから、僕は生徒たちの前に立った。






――――――――――――――――――――――

あとがき

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