# ⅩⅠⅤ white night
寮に、とてつもなく重いダンボールが2、3個届いた
ちょうど外出中だった俺の代わりに受け取りをしてくれた同じ寮の後輩、玲とつきみは「物凄く重かったし、あれなに!」と少し不機嫌そうに知らせてくれた
後でお礼をしなくては…
なぜ3月14日の前日に、こんな大量の荷物が届いたの方と言うと__
もちろん、業者に頼んで数百個注文したバレンタインのお返しが届いたからだ
俺はダンボールから個包装にされたそれらを一つ一つ救い出し、机一杯に広げた
それでもまだダンボールには大量に残っている
「よし、ひと仕事するか!」
カラフルな油性ペンを手に取り、手際よく透明な袋の上に落書きをしていく
仕上げに持ち手へリボンを結ぶ
一つ一つ愛をこめて手作りしている…これで事実になった!
表には可愛い顔を描いて、裏には「ありがとう」などと一言を添えていく
周りから見れば薄情なお返しに見えるかもしれないが、これは規模が違うのだ
軽口をたたくくらいだったら手伝えと引っ張り出してやる
しかし、女の子たちはチョコ1つに何十時間もかけているのに対し、俺のホワイトデーはロリポップキャンディー(個包装)に10秒で描いたような落書きと、蝶々結びされたリボンだとか…
ホワイトデーは「3倍返し」の鉄則を破ってしまうことは申し訳ないとは思っている
30個ほど描き終えて、次のロリポップをダンボールからまとめて取り出す
…これだけの尺を使ったのにも関わらずまだ30個しか完成していないという事実に、もはや驚くことも出来なかった
「今日は寝れないかも…」
✧ ✧ ✧
3月14日__
今日という日のために昨日は徹夜でお菓子と向き合ってきた
紙袋に詰めきれられず、ダンボールを台車に乗せて学校へ運ぶということになったけど、これはもはやただの「イケメン配達員」ではないか?
そんなことを考えながら寮を出ると、バレンタインにチョコをくれた女の子を数人見かけた
学校に着く前に少し配るのもありかもしれない
俺が手を振ると、女の子達はすぐこちらに気づき、振り返ってくれた
「おはよ。はい、これはバレンタインのお返し。」
優しく言葉をかけ、甘い笑顔を添えてロリポップを手渡す
「えっ…お、覚えててくれたんですか…?」
「うん、当然だよ。チョコもすごく美味しかった。本当にありがとう!」
「はわ…」
女の子に無事お返しを渡し終えると、奥のほうに行列ができていた
整列する人まで現れている
「1列に並んでくださーい!割り込み禁止でーす!」
「最後尾はこちらでーす!!」
おかげで一瞬にして、ここは「アイドルの握手会」と化した
「1人1分まででーす」「割り込まないでくださーい」
「はぁ…。大変なことになったかも…」
俺はため息をつきながらも、いつの間にか用意された席に座り、
✧ ✧ ✧
「わ〜!やっと終わった〜!!」
ようやくあの長蛇の列をさばき、教室へ到着した俺は、机に突っ伏した
「柊雨くん、おつかれだね〜」
そんな俺を見つけた第一発見者は、瑠奈だった
「世界が憎い……俺がイケメンすぎるあまりに……」
「あはは、柊雨くんが変なこと言ってる」
「お!!は!!!よーーーーーっっ!!!!どーん!!」
勢いよく扉を蹴り飛ばして入ってきたのは、いつでも元気が有り余っている少女、優香里だ
「頼むから今だけは俺の身体と耳をいたわってくれ……」
ふわふわの猫耳をぺたんと伏せ、優香里を見つめる
「あれ、優香里の持ってるのはバレンタインのお返し用?」
「いや、違うよ!これはお返しで貰ったほう!!」
優香里はふんっと得意げに、パンパンに膨れた紙袋を見せびらかしてきた
「わぁ、モテモテだね」
俺は死んだ目で、適当に感心しておいた
「柊雨くん、屍になっちゃった……」
「し……死んでる!?」
その時、放心状態の俺を囲む二人を横目に、紫髪の少女が教室へ入ってきた
少女は状況を把握しようと、しばらく3人を交互に見た後、不思議そうに問いかける。
「……これは一体?」
少女の声を聞いた瞬間、俺の耳がぴんと立ち、顔が上がった
「くじら!」
くじらの姿を認識した途端、俺は瞬く間に立ち上がり、光の速さで抱きついた
「毎月14日はくじらがいないと耐えられない〜!」
「……柊雨くん?!ちょっと、お触りはNGです!」
「えっ……くじらに拒絶された……!?」
理解が追いつかず、小さく呟きながら思考する
「……だって、くじらは俺の顔好きなんじゃ……」
「セクハラですか!? わたしは純白の少女なんです!!!」
「柊雨くん……いくら顔がいいからって犯罪には手を染めちゃダメだよ〜」
「僕ならいつでも抱きついていいよ!!!うぇるかむとぅーふりーはぐ!!!」
両手を広げる優香里を無視し、俺は背を伸ばした
「さて…まだ残ってるし、配ってくるよ」
俺は紙袋の中を覗き込みながら、のそのそと廊下へ向かった
✧ ✧ ✧
廊下を歩きながら、すれ違う人にロリポップを渡していく
「あっ、柊雨くん!」
「ひなの!ちょうどよかった。はい、お返し」
「わぁ、ありがとう! え、これ柊雨くんが描いたの? 可愛い!」
「ふふ、でしょ?」
「うん!もう、めちゃくちゃ大事にする〜!」
「いや、…食べてね?」
そんなやりとりを繰り返しながら、ロリポップの数はどんどん減っていった
「…ふぅ、もう全員渡せたかな…?」
ロリポップを配り終える頃には、すっかり外が暗くなっていた
窓の外を見ると、瑠璃色の空にぽつぽつと星が瞬き始めている
長かったホワイトデーの配達業務も、ようやく完了
あとは荷物を片付けて、寮に帰るだけ
教室に戻りながら、手元に残った最後の1本を見つめる
たまたま余ったし、どうしようかなと考えながらポケットに入れた
教室のドアをそっと開けると、誰もいないと思っていたはずの室内に、ぽつんと人影があった
俺の席で、伏せるようにして静かに寝ているのは——くじらだった
「……え?」
思わず声を漏らしながら近づくと、規則正しい寝息が聞こえてくる
寝てる……
こんな風に無防備なくじらを見るのは、なんだか珍しい気がする
普段はニコニコと微笑んでいる彼女が、今は机に頬を預けて、静かに眠っている
月明かりが窓から差し込んで、彼女の紫の髪を優しく照らしていた
静かに眺めていたら、伏せていた少女が、ゆっくりとまばたきをして目を開けた。
「……柊雨くん?」
「あ、おはよ」
寝起きでまだ意識がぼんやりとしているのか、しばらく何も言わずに瞬きを繰り返す
そして、かすれた声でぽつりと呟いた
「……いま……なんじ……?」
言葉を紡ぐのが難しいのか、一つひとつを確かめるように、間をあけながら口にする
目元に手をやりながら、まだ夢の中にいるようにぼんやりと視線を彷徨わせていた
そして窓の外を見て、自分の状況を理解したのか、小さくため息をついた
「……寝すぎてしまった」
「俺の席で?」
そう言って、わざとらしく首を傾けながら、口元にいたずらっぽい笑みを浮かべる
「……寝心地がよさそうだったから」
「え、それだけ?」
「まぁ…はい」
そう言って、くじらは小さくあくびをした
「……もう配り終わったの?」
「なんとかね〜。すごく時間はかかったけど…」
そう言って、俺はポケットから最後のロリポップを取り出す
「……欲しい?」
くじらは一瞬、ロリポップを見つめ、それからすぐに目をそらした
「わたしが貰う理由は…ないです」
少女の目が、ちらりとロリポップに戻るのを俺は見逃さなかった
「……俺があげたいって言ったら、受け取ってくれる?」
優しく微笑んで差し出すと、くじらは少し迷ったあと、そっと手を伸ばした
「……貰っておきます、一応」
指先がほんの少し震えているのを見て、俺は小さく笑う
「はい、どうぞ」
俺はロリポップをそっとくじらの手に乗せた
そのとき、また外の星がきらんと瞬いた
2人はふと、同時に窓の外を見た
「今日は、星がよく見えますね」
「……綺麗だね」
教室の中で、静かに流れる時間
外はもう黒く染まって、星がきらきらと輝いていた
ホワイトデーの夜は、思ったよりも静かで、穏やかだった
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます