第40話 災禍に対抗するは

 天頼とグランザハークが対峙する。

 刹那、冒険者達の視線が交錯する。


 俺は、打刀を鞘に納めながら刀身に魔力を籠め直す。

 天頼は、次の術式の発動準備に入る。


 グランザハークが一帯に膨大な量の瘴気を放出する。

 それに伴って近くにいた掃討部隊の面々は、即座にこちらに撤退して来た。


「円佳、SA! 悪かったね、二人だけに防衛を任せてしまって!」


「いや、殆ど伊達さんの手柄です。俺はちょっと持ち場を離れてしまったので……」


「気にしないでいいよ。おかげで天頼ちゃんをこっちに移動させることができたんだから」


「天頼四葉か……見どころのある冒険者だとは思ってたけど、まさかこれほどの逸材だったとはね。今回の活躍次第では、もしかしたらSランクに昇級もあり得ない話じゃないよ」


 ……確かにな。

 既にベヒーモスをほぼ単騎で撃破した実績もあるし、この戦いの結果によっては、そういった話が舞い込んできても何もおかしくはない。


「まあ、それは今は置いとくとして……これからどうする?」


 満澤さんが掃討部隊の一人である大盾を持った男性冒険者に声をかける。

 恐らく、この人が掃討部隊を仕切っていると思われる。


「そうだな……ここは、方針を大きく変えるべきだろうな。まずは……グランザハークの相手は、天頼四葉に任せよう。互いに大規模かつ威力のある攻撃手段を有している。そこに我々が下手に介入しようとすれば、戦闘の余波で巻き添えを喰らう可能性が高い」


「……そうだね。マップ兵器同士の戦いに歩兵が参加したところでどうしようもないからね。それでアンタらはどうするつもりだい?」


「機動力のある者で二人一組、もしくは三人一組でチームを組ませて遊撃隊に回す。残った面々は、伊達が作り上げたこのバリケードを防衛に移行する。逆にそちらはどうするつもりなんだ?」


 リーダーらしき男が満澤さんに訊ねた瞬間だ。


 グランザハークの魔力ブレスと天頼の術式が激突する。

 莫大な火炎が放たれ、大岩の槍が雨霰となって襲いかかる。


 その光景を苦々しい表情で見据えながら満澤さんは、


「本当は天頼四葉の援護に入りたいところだけど……ここで防衛組の援護に回るとするよ。あれじゃあアタシらの攻撃が届くが微妙だし、これ以上、円佳に負担をかけさせるわけにもいかないからね」


「そうしてくれると助かるよ。さっきからずっと術式の展開しっぱなしでちょっとキツくなってきたから」


 笑って言う伊達さんだが、かなりの疲労が窺える。


 グランザハークの魔力ブレスを真っ向から防いだだけじゃなく、他のモンスターからの攻撃も一手に受け続けてきたんだ。

 こうなるのも至極当然ではある。


「SAもそれでいいかい?」


「……いえ、俺は天頼の援護に入ります」


 俺は、頭を振って答える。


「俺のスキルならどんな状況であっても敵が地に足をつけている限りは、攻撃をピンポイントで届かせることができます。威力は大した事ないかもしれないっすけど、気を逸らしたり、一瞬の隙を作るくらいなら可能だと思います」


 例え有効打にならなくとも、遠くからちょっかいを出してグランザハークの気を散らすことができれば、その分だけ天頼に有利が生まれる。

 それに満澤さんと頓宮さんが後方支援に復帰してくれるなら、俺が抜けても防衛ラインはどうにか維持できるだろう。


 何より——、


「何より、俺はあいつのバディです。一人だけ重荷を背負わせたまま戦わせるにはいかない。我儘言ってるのは分かってます。だけど……それでも、天頼の援護に入らせてください」


「……分かったよ。アンタの好きにしな。その代わり——絶対に死ぬんじゃないよ」


「あざっす!」


 礼を言ってからすぐに駆け出し、再びこの場を離れる。


 ここで遠隔斬撃を飛ばして、反撃に魔力ブレスをぶっ放されようものなら、他の人らに迷惑がかかるからな。

 モンスターがうじゃうじゃいる中に突っ込むのは嫌だけど、まあそこはどうにかするしかないか。


 なんて考えていると、


「私も行動を共にしよう」


 掃討部隊のリーダーらしき男が俺の後ろを追走してきた。


「あなたは……!?」


阿南あなみという者だ。冒険者組合に直属していて、東仙と共に派遣されて来た」


「冒険者組合直属の……って、こっち来ていいんですか!?」


 俺としては大助かりだけど、あんた指揮役じゃなかったか。


「問題ない。満澤に部隊の方針は伝えておいたし、私の他にも冒険者組合から派遣された者もいる。二人に任せておけば大丈夫だろう。それよりも君の護衛が重要だと判断した。君がグランザハークの相手をしている間、周りのモンスターは私が対処しよう」


「あざます……っ!!」


 阿南さんの戦い方がどんなものかは全く知らんが、大盾を持っていることからして恐らくは防御系のスキルを持ってると思われる。

 そうじゃなくても、意識の大半をグランザハークに割けるようにしてくれるだけでも本当にありがたい。


「じゃあ、すみませんが防御はお願いします!」


「ああ、任せてくれ」


 ある程度メイン部隊から離れたところで俺は、打刀を鞘から引き抜き、グランザハークの眼球に狙いを定めて遠隔斬撃を放つことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る