第22話 遠隔斬撃(遠隔とは限らない)

 洞窟のダンジョン六層。


 打刀に魔力を籠め、地面を切り払う。

 瞬間、斬撃が高速で地面を這い、前方にいる石製の武器を手にした小人型のモンスター——ゴブリンの首を両断する。

 遠隔斬撃を繰り出した直後、俺はまた打刀に魔力を籠めつつ、並行して逆手で握る脇差にも魔力を流し込む。


 現時点で確認できるゴブリンは他に五体。

 他に気配は感じないが、念の為、奇襲には警戒しておくか。


 ゴブリンの群れが俺たちの存在に気づいて、一斉に襲いかかってくる。

 ……が、ゴブリンらと俺との距離はまだ三十メートル以上も離れている。

 こんだけ距離があれば、俺が一方的に攻撃可能だ。


 再び遠隔斬撃を放ち、二体目のゴブリンの首を落とす。


 これで残り四体——いや、三体か。


 左手に持っている脇差で通路の壁を切り付ける。

 すると、新たな遠隔斬撃が発生し、ゴブリンの頭蓋を削ぎ切りにしてみせた。


 うっわ、ちょいグロいな……。

 こいつも首を狙ってたんだけど、ちょい狙いが外れたか。

 グロ映像判定されてBANとか収益停止になんなきゃいいが。

 ……まあカメラに鮮明に映んなきゃ大丈夫だろ。


 切り替えて次の遠隔斬撃を放とうとするも、生き残ったゴブリン三体はもう既に眼前にまで迫っていた。

 しかも遠隔斬撃を警戒してか、間合いに入ってくる直前、ゴブリン達が同時に三方向に分かれて飛び掛かってくるという周到ぶりだった。


 ——何、お前ら、距離さえ詰めれば俺に勝てると思ってんのか?


 ……ああ正解だ、その判断は正しいよ。

 遠隔斬撃が無ければ、俺は実質スキル無しの一般冒険者だからな。


 ただし、奴らには一つだけ致命的な誤算がある。

 それは——お前ら自身が大して強くないってことだ。


 ゴブリン単体の討伐推奨ランクはFランク。

 五、六体同時に相手取るにしてもE〜Dランク相当……余程のイレギュラーでも発生しない限り、俺の実力であっても倒せるレベルでしかない。


 三方向から突き立てられる石の剣を躱し、三体とも地面に脚をつけた一瞬のタイミングに合わせて、大小の刀それぞれでゴブリン二体をぶった斬る。

 だが、これだと残る一体のゴブリンには攻撃できないし、向こうもそれを理解してか、俺が攻撃を終えた後に生まれる隙を窺っているようだった。


 判断は悪くないが、けどそれ……悪手な。


 刹那——二つの斬撃が最後のゴブリンを斬り裂いた。


「ギャ、ギャ……ッ!?」


 胴体から噴き出す自らの鮮血に理解が追いつかない様子のゴブリン。

 しかし、その理由に気づくことなく絶命していった。


(っし、無事勝利……と)


 ちゃんとした近接戦闘なんて最後にいつやったかパッと思い出せないくらい久し振りだったけど、思ったよりはちゃんと動けたな。

 つっても、接敵したの最後の一瞬だけだけど。


 周りに敵がいない事を確認し、両手の刀を鞘に納めたところで、


「アシスタントくん、お疲れ様!」


 天頼が駆け寄ってきて、スケッチブックを手渡してくる。


[どういたしまして]


「今の凄かったね! 特についさっきやった、触れずにゴブリンをズバーって斬ったやつ! あれってどうやったの?」


 天頼がさっきの現象について訊ねると、


”それ気になって仕方ない”

”何だったのあれ?”

”曲芸?”


 コメント欄からも質問が続出する。


 ふーん、結構気になるのか。

 そりゃ俺の動きと実際に発生した斬撃の数が異なれば当然か。

 隠す必要もないし、簡単に説明しとくか。


[タネは単純です]


 本当に変わったことはしていない。


[直前に斬ったゴブリンを起点にして、残り一体のゴブリンに遠隔斬撃を飛ばしたました]


”草”

”曲芸じゃん!”

”そんな近距離でも使えるの!?”


 可能だぞ、今まで見せてなかったってだけで。

 なんなら斬った箇所を発動場所に設定すれば、一度に二つの斬撃を生み出す事だってできる。


 まあ、やれるからといって実際にやるつもりは殊更ないけど。

 だってそうしなきゃいけない時って、つまるところ零距離で戦ってる時以外にないわけだし。


 仮にも剣で戦ってる人間が言うようなことじゃないだろうけど、安全圏から一方的に斬撃飛ばすだけで済ませたいって言うのが本音だ。


 カメラの向こうでは、天頼がうんうんと満足げに頷いていた。


「へえ、遠隔斬撃ってそういう使い道もあったんだ! 昨日、裏でも言ったけど君のスキルはやっぱり凄いんだよ!」


[あ、そういうヨイショは結構です]


「本心だってばー! もう……捻くれ屋さんは女の子にモテないぞ!」


[ここでアシやってる以上、モテる必要性がないので]


「斜に構えないでくださーい!」


”SAくん捻くれてんなww”

”そっかあ、SAくんもそういうお年頃かあ”

”なるほど、つまりはそういうことなんだね^^”

”SAくん四葉ちゃんにもっと優しくしてあげて!”

”ここで夫婦漫才しないでくれwww”


 どこが夫婦漫才だ。

 漫才要素はともかく、夫婦要素はどこにも一片たりともないだろ。


 全く……カプ厨っていうのは恐ろしいな。

 なんでもかんでもカップリングにしようとしてきやがる。

 それになんか意味深なコメントもちょいちょいあるし、ここのリスナーは一体俺に何を求めてるんだよ……。


 はあ……まあ、いいや。

 今はダンジョン探索に意識を戻そう。


 って、そういえば——、


[ところで今日は何層まで降りるんですか?]


「あれ、言ってなかったっけ? ゴールは最下層の十層だよ。今回、アシスタントくんにはボスモンスターと戦ってもらうからね!」


 親指を立てて笑顔で答える天頼に俺は、心の中で叫びながらツッコミを入れる。


 おい、ちょっと待て……お前は鬼か!!

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