第20話 スキルの難点と天頼さんの小さな不満
「んー……どうしたもんかな」
ダンジョンを出た後、事務所までの帰りすがらで無意識に声を漏らすと、すぐに天頼が俺の独り言に反応する。
「剣城くん、どうかした?」
「あ、悪い。声に出ちまってたか。大した事じゃないから気にしなくていい」
「大した事じゃない……か。ふーん、そっかあ……話してくれないんだー。私は君のバディなのに」
天頼は、俺に胡乱げな眼差しを向けながら唇を尖らせる。
いや……本当に大した事じゃないし、言っても仕方ないんだけどな。
とはいえ、別に隠すようなことでもないし言うだけ言ってみるか。
「……遠隔斬撃じゃどうしようもない敵と戦うことになった時のことを考えてたんだよ。空中に飛んでいるやつとか、一度に複数を相手しなきゃならない場合とかのな」
圧倒的射程というアドバンテージが判明したことで、部分的ではあるが、S級モンスター相手にも通用する性能があるのはよく理解できた。
だが、これだけでやっていくには無理があるというか、致命的な弱点を幾つか抱えている。
「遠隔斬撃は、一度の攻撃で一太刀しか斬撃を飛ばすことができないし、飛ばした斬撃は、斬りつけたものと接している物体の表面を伝ってしか移動できない。だから、空中や水中にいる相手には絶対に届かないし、数で攻めてくるような相手には物量で押されて負ける」
「へえ、水中の敵もダメだったんだ。意外と不便な部分もあるんだね」
「こんなものだろ。こないだまでEランクで燻っていた程度のスキルだぞ」
一芸に特化し過ぎてるのも困りもんだよな。
俺としてはもっと汎用性のあるスキルであれば……って、
「あの、なんで睨んできてんの……?」
「だって、剣城くんが自分のスキルを卑下するんだもん。君のスキルは、君が思っている以上にずっと凄いスキルなんだよ」
「……励ましてくれてどうも。でも、実際大した……って、近い近い!!」
言いかけたところで、天頼が両手を腰に当て、滅茶苦茶ジト目で顔をぐいっと近づけてくる。
——圧が強い、そんで心臓に悪い……!!
むすっとした美少女に迫られて平然としてられる奴がいるか?
いたら、そいつは余程の朴念仁かすけこましのどっちかだぞ。
「全くもう剣城くんは、自分のスキルの有用性を分かってない! 君ほどのスキルはそうそう無いんだよ!」
「……まあ確かに? 実際、射程は凄まじいもんな」
「それもだけど、本当に凄いのは精密性だよ。どんな距離からでも正確に命中させるスキルを使う人なんてまずいない。だって高速で動かれたり、避けられたりしなければ外さないでしょ?」
「………………」
言われてみれば、遠隔斬撃を外した覚えはあんまないな。
基本動いてないところを不意打ちでしか放ってなかったから、命中して当然だと思ってたけど……あれ、もしかしてそうでもない……?
黙り込んで考えに耽ていると、天頼は依然ジト目を向けてくる。
なんで気づいてなかったの、と言わんばかりの呆れた目付きだった。
「仕方ないだろ。最初からこんなだったんだから」
射程距離の長さに気づいたのは、つい最近だけど。
——それに……親父のスキルはもっと強力だったし。
それと比較すると、俺のスキルはその劣化版でしかない。
……まあでも、それは言っても仕方ねえか。
「それよりも考えないといけないのは、スキルが通用しない相手に遭遇した時の対処法だよ。特に地面に触れないモンスターを相手にした時のな」
話題を本題に戻し、強引に軌道修正する。
すると、天頼は少しだけ不服そうにしていたが、
「それって、私が撃ち落とすのじゃダメなの?」
「ぶっちゃけそれが一番楽。でもそうすると、これから先も空中の敵は全部お前に頼りきりになってしまうだろ」
今までは遠隔斬撃が通用しなさそうな奴とは、戦闘を避ければ済む話だった。
だけど、これから先はそうもいかない場面が多々出てくるはずだ。
「今でさえ戦闘中の負担は天頼の方がデカいってのに、これ以上お前に余計な負担をかけさせるわけにはいかねえよ。——バディなんだから」
「……あ」
一応、解決策が無いわけではない。
でもそのやり方は、一朝一夕でどうにかできるものではないし、努力したからといってどうにかなるようなものでもないってことか。
上手くいくかどうかも怪しいものに縋るわけにはいかない。
そう考えると、現実的な対策としては刀以外の武装——何かしらの飛び道具を持っていくのが無難になりそうか。
ただそういう系の武器って、揃えるのにも運用するのにも馬鹿みたいな費用がかかるせいでなかなか手が出せないんだよな。
だからこそこれまでずっと遠隔斬撃とナイフ一本だけでやって来たわけだし。
でも、多少は金をかけてでも装備は充実させておくべきか。
天頼と一緒にダンジョンに潜るようになってから、前より稼げるようになったわけだし。
「……のに」
「ん、今なんか言った?」
「ううん、なんでもない!」
言うと、駆け足で俺の前に躍り出て、笑いながら振り返る。
「ほら、早く事務所に戻ろっ!」
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