第6話 天頼さんはお見通し
——どうしてだ。
どうして天頼は俺のことを知っている?
繁華街から大分離れた人気のない道を歩きながら、俺は必死に思考をフル回転させる。
今まで彼女と直接関わったことなど一度も無かったし、共通の知り合いがいるなんて話を聞いたこともない。
共通点があるとすれば、冒険者である事と歳が同じってことくらいか。
……いや、それを共通点に挙げる時点で無いと言っているのと同義か。
念の為、過去に何かあったかもと記憶を掘り起こしてみるも、やはり何も心当たりは無い。
マジでなんで俺の元を訪ねて来たんだ……?
つーか、コイツはどこに向かってんだ。
この先は立ち入り禁止区域くらいしか無かったはずだけど。
軽い足取りで鼻歌混じりに前を歩く天頼を訝しげな視線を送っていると、
「ふふっ、そんな熱い視線を向けられると照れちゃうなあ」
天頼がこちらに振り返り、はにかむように笑みを浮かべる。
「あ、すまん。不躾だったか」
「ううん、お気になさらず。……ところでさ、ちゅるぎくんはサイレンスアサシンって知ってる?」
「ちゅるぎ呼ぶなし。……まあ、一応は。あんだけバズってんだ。知らないって方が無理があんだろ」
「そうだよね。私よりもずーっと話題になってるもんね」
あの……反応に困る自虐ネタやめてもらっていいっすか?
こちとらそういうの上手くいなせる会話スキルなんざ持ってないんで。
どう返すのが正解なのか困惑している俺を天頼はニコニコと見つめてくる。
——コイツ、俺のこと揶揄ってやがるな……!
察して鋭い視線を飛ばすも、どこ吹く風と流されてしまう。
……にしても、配信で見てたよりも意外と子供っぽいな。
配信越しに見る天頼は、誰にでも優くて礼儀正しいって印象があったんだが……まあ、配信上のキャラと実際の性格が違うなんてのはよく聞く話だ。
ガチファンからしたら、違う一面を見れてラッキーって思うのか、想像してたのと違うってなるのかどっちなんだろうな。
「彼、凄いよね。S級モンスターを一太刀で倒しちゃうんだもん。それも姿を一切見せることなく」
「らしいな。確かスライムの核を真っ二つにぶった斬ったんだったか」
「そう! しかも一キロも先から攻撃してたみたいなんだよね」
「ふーん、凄え射程距離じゃん。世の中、便利なスキルもあるんだな」
話を合わせる為とは言え、なんか自画自賛してるみたいで気持ち悪い。
でも実際、強い弱いは別として便利なスキルなのは事実だ。
……つっても、昨日みたく討伐だけが目的ならいいけど、普段使いには適さないのが難点だけど。
超遠くから攻撃して倒すまではいいけど、それだと魔石が回収できない。
ダンジョン探索一本で活動する冒険者の主な収入源は、モンスターから採取できる魔石だ。
だから昨日のスライムに使ったような超遠隔斬撃は、オーバースペック過ぎて逆に使い道が無いのが実情だ。
こういうのってなんていうんだったか。
猫に小判、豚に真珠……ま、なんでもいいか。
などとつらつらと考えていると、
「……何?」
ふと気がつく。
天頼が面白おかしそうに目を細ながら、俺をじっと見つめていることに。
「あのさ……剣城くん。どうして剣城くんは、サイレンスアサシンが男の人だって知ってるの?」
「……へ?」
やっべ、もしかしなくても墓穴ったか……!?
「それにあのスライムをスキルで倒したって分かってもいるみたいだし。どうやって倒したかは、まだ特定されていないはずなのに。あー不思議だなあ」
わざとらしい惚けた口振りに思わず眉を顰めてしまう。
……まさかとは思うが、もう俺の事に気づいているのか。
いやいや、そんなまさか。
あり得ないだろ……って言いたいところだけど、もしそうだとしたら俺を訪ねてきたことに説明がつく。
でもそれだったら、どうやって特定したって話になるんだけど。
そんな俺の疑問を察するように天頼は、
「ねえ剣城くん。ダンジョンに入るには、ダンジョンの前に設置されたゲートを通らなきゃならないのは知ってるよね?」
「あ、ああ。一般人が勝手にダンジョンの中に入らないようにする為だろ」
「そ! じゃあ、誰がいつダンジョンに入って、いつ外に出たかログが残るようになっていることも?」
「まあな。そっちは確か、ダンジョンに入った冒険者が行方不明になったかどうかを分かりやすくする為……だったか」
冒険者になりたての頃、冒険者組合の新人向けの講習会でそんなことを聞かされた覚えがある。
「うんうん、その通り! なら話は早そうだね。それでね、そのログって冒険者組合に照会をかければ、中身を確認できるようになっているんだ」
……あー、なんか展開読めてきた。
つまり俺は、最初から詰んでたってわけか。
「それで昨日、サイレンスアサシンが現れた後に池袋ダンジョンを出て行った冒険者を片っ端から調べてもらったら、君の名前があったわけ。——”遠隔斬撃”のスキルを持った君の名前がね」
これはもう観念して白状するしかないな。
空を仰ぎ、小さく嘆息をつく。
そして、上目遣い気味に俺の顔を見つめながら、天頼は核心を突いてきた。
「剣城鋼理くん。君だよね——サイレンスアサシンの正体って」
「……そうだ、と言ったら?」
「あはは……そんな身構えないでほしいな。君に会いに来たのは、助けてもらったお礼を言う為なんだから」
それから襟を正して俺に向き合うと、ほんのり顔を赤く染めて微笑みながら言う。
「伝えるのが遅くなっちゃったけど——昨日は、命を助けてくれてありがとうございました。それと……あなたに一つお願いがあります」
「お願い……?」
「うん」
天頼はこくりと頷き、少しの間を挟んでから、
「私と——バディを組んでくれませんか?」
……マジ?
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