3-4 八月の約束
信は道を引き返し、歩きながら考えていた。商店街の店に目移りすることもなく、ひたすら真正面を見つめて早歩きをした。
(どういうことや? もしも尾崎さんが言っとることが正しければ、優子さんは幽霊で、僕には幽霊として視えとることになる……。でも僕は、今、羽田野先生の影響で視えへんはずやのに)
信は、羽田野の影響と、今回の優子の件が矛盾していることに困惑していた。
「信っ!」
後方からまなみの声がした。信は立ち止まって振り返った。圭一とまなみが喫茶店から出てきたところだった。
「こんなところにおってんな、良い写真は撮れた?」
「あ、うん」
信は咄嗟に笑顔を取り繕った。
「……何か元気ないな。流石に歩き疲れたか?」
圭一が信を見つめながら問いかけた。
「え? 別に疲れてないよ」
「若いからどうってことないか」
「まぁね。じゃあ僕、引き続き写真を撮りに行くわ。また家で」
信は俯いたままボディバッグのショルダー部分を握りしめて、その場を去ろうとした。圭一は信の反応に違和感を覚えたのか、信に近づいた。
「誰かと約束があるんか?」
「いや、約束はないけど……」
「それやったら、今日はもうこのへんにしときなさい。今からまた写真撮るってなったら夜遅くなってしまうよ」
「大丈夫やって、夜の六時までには帰るから」
圭一はため息をついた。
「あのな、写真部のことがあるから仕方ないとは思うけど、お盆の時期はな、基本的に家族で過ごすもんや。何があったか知らんけど、今は一緒に行動しなさい。あんなことがあった後やから、みんな心配してるんや。どうしても行きたいところは明日もまだ時間があるんやから、明日の午前中に動くようにしなさい」
信はすぐに返答せず、黙ったままどうするか考えていた。今から海岸に向かったとしても、優子は不在である。行ったところで答えが出るわけでもない。優子の話をするわけにもいかず、今日はこのまま行動を共にするほうが良いと信は判断した。
「分かった。明日にするわ」
「うん、その方がええと思う」
圭一はにっこり微笑んだ。
「母さんどこにおるん? 一緒じゃないん?」
「お母さんは、喫茶店のトイレ行ってる。もうすぐ出てくるんちゃうかな?」
「そっか。おじちゃんとおばちゃんは家なん?」
「家やで。僕らがずっと家におったら二人とも、気疲れしてまうやろから、信が家を出てから三人で出かけてん」
「そりゃずっと私らがおったら、おじちゃん達も疲れてまうもんね」
まなみが頷きながら答えた。
「ごめんごめんお待たせ」
喫茶店から直子が出てきた。
「あれ? 信おったん!」
直子が驚いた様子で信に駆け寄った。
「僕らが店から出てきたタイミングで、たまたま信が店の前を通り過ぎるところやってん」
「そうやったんや、ちょうど良かったやん。今からな、みんなでお土産買いに行こか言うててん。ほら、前谷さんとか、友達にお土産いるやろ? もう写真は撮れたやろから、そろそろ合流したらどないやろなぁーっと思っててん」
「確かにお土産のこと忘れてたわ」
「せやろ? 同級生のまりちゃん・礼央くん・希ちゃんらは必須やろ? この前のピアノ教室の件で迷惑かけてるんやから、絶対買ってるほうがいいわ」
「せやな、ちゃんと買っていかな、特にまりちゃんから何か言われそうやもんな」
「まりちゃんは楽しみに待ってると思うわ」
信と直子は同時に熊田まりの顔を思い浮かべて笑い合った。
「ほな、みんなでお土産探しに行こか」
圭一が歩き出した時、直子のバッグからスマホの着信音が鳴った。
「あら電話、ちょっと出るわ」
直子がスマホを取り出すと、画面を見るなり「あら、智ちゃん」と言って電話に出た。
「どうしたん智ちゃん、うん……えっ」
直子が目を丸くさせて驚いている。
「何かあったんかな?」
まなみが首を傾げて圭一に話しかけた。
「さぁ、どうしたんやろうなぁ」
三人は黙って直子を見つめていた。
「分かった、こっちも動ける範囲で探してみる」
通話を終え、直子は三人に焦った様子で電話の内容を話し始めた。
「今、入院している私の恩師の古賀先生が、病院から居なくなったみたいやねん」
「えっ」
一番に声を上げたのは信だった。
「古賀先生って、昏睡状態で出歩けるような状態やなかったやろ?」
直子から古賀の容態を詳しく聞いている圭一は、驚いた様子で話す。
「うん、私もその認識やってんけど、看護師さんが気付いた時にはもう病室に古賀先生がおらんくなってたみたいで、今、病院関係者と警察、私の同級生とか教え子たちが捜索してるんやて……。やから、私もちょっと出来る範囲で先生を探そうかと思う。三人には申し訳ないけど、私の分までお土産見といて」
圭一は直子の肩に触れた。
「あかんあかん、そんなん僕らも協力するわ。一人で行動せんほうがええやろ。まなみ、信、一緒に先生探すで」
信は黙って頷いた。直子が友人とメッセージのやりとりをして、どこの範囲を捜索するか検討している間、信の脳裏には上田の顔が浮かんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます