2-7 八月の約束

「もうこの辺にしとこっか」

 優子が信の肩を軽く叩いた。


「え、まだ探せますよ」


「いいのいいの。それに、せっかくのお盆なのに家族と過ごす時間も必要だよ」



「そう……ですか……」

 信はスマホで時刻を確認した。午後三時を回っていた。



「私も今日はこの辺にしとこうかな、行くところもあるし」


「予定があったんですか」


「あ、気にしないでね、夕方くらいに行こうかなって思ってたくらいだから」


「それじゃあ、優子さんがおすすめしてくれたお店に行ってから家に帰ることにします」


「オオバコのことかな? 是非行ってみて」




「はい、あっ、それと」

 信はボディバッグの中から封筒を取り出し、優子に手渡した。




「これ何?」


「昨日撮ったユリの写真です」


「え、もう現像してくれたの」


 優子は笑顔で封筒の中の写真を取り出した。


「今日の朝、コンビニでプリントしてきたんです」


「そうなんだね。ほんと綺麗! ありがとう、大事にするね」


「喜んでもらえて僕も嬉しいです」




「信くん」




「はい?」





「ちょっとだけ時間あるからさ、私をモデルにして写真撮ってよ」


「え、良いんですか」


「私がお願いしてるのに、何でその台詞? 信くん面白いね」


「でも何で?」


「私さ、来年からもうここに帰ってこないと思うんだよね」


 後ろに手を組んで、優子は海の方を眺めた。


「何かあったんですか?」


「そうだねぇ……、婚約の話もだし、色々あったかな」


「大変だったんですね」


「だからさ、最後くらいは良い思い出にしたいじゃん? だから笑顔の写真を沢山撮って欲しいんだ」




 信はボディバックからカメラを取り出した。




「分かりました。僕はまだ人をちゃんと撮ったことがないので上手く撮れるかわかりませんが、頑張って撮ってみます」




「ありがとう、ちょうど練習相手になるんじゃないかなって思ってね。っていうのも言い訳で、私の勝手とわがままに付き合わせているだけなの。とびきりの一枚を撮ってほしいし、その写真をまたこのユリの写真みたいに現像して欲しいっていう下心」




「喜んで」




「わがままでごめんね信くん」





「大丈夫ですよ、むしろ僕の方がお礼を言いたいくらいなんですから、写真を撮るくらい全然――」


「……信くん」




「はい?」






「あともうちょっとなの。後もう少し。それが終われば全部話せるから」






 優子は信に背を向けたまま話した。どんな表情をしているのか信には分からなかった。優子の発言の意図が汲めないまま、カメラを構えた。




「ごめんごめん、変なこと言って。さ、どんどん撮って」




 優子は信の方へ振り返り、満面の笑みを浮かべた。信はレンズ越しに優子を見つめながら何度もシャッターを切った。


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