第7話 伝えない吉報1

 ある休日、正太郎の家に、雪子と真知子が訪れていた。正太郎の母親が、お茶を淹れてくれる。

「それで、相談とは?」

正太郎が切り出した。真知子が、正太郎に相談があると言っていたので、雪子が仲介したのだ。

「実は、仲の良い親戚がいるのですが、最近、その親戚に嫌われているのではないかと思いまして……。嫌われるような事をした覚えが無いのですが、堀宮さんになら何か良いアドバイスをして頂けるのではないかと思い、伺いました」

「何故俺に?」

「雪子さんから、堀宮さんが名探偵さながらの推理をしたと聞きまして」

正太郎が雪子を睨む。

「私は何も詳しい事は言ってませんよ。ただ、『正太郎さんって、たまに名探偵みたいな推理をするんですよね』と言っただけで」

雪子が慌てて弁解する。

 何はともあれ、真知子から詳しい事情を聞く事になった。


 真知子は今東京に住んでいるが、千葉にいる親戚と仲が良く、よく手紙のやり取りをしている。その親戚の名は奥田悦子おくだえつこ。現在二十一歳で、夫がいるという。

 つい最近、悦子に子供が生まれた事を知ったのだが、真知子は驚いた。子供が生まれたのが、三か月も前だと知ったからだ。悦子が妊娠していた事は知っていたが、あんなに頻繁に手紙のやり取りをしていたのに、どうして今まで教えてくれなかったのか。何か、悦子の気に障る事でもしただろうか。


「……子供が生まれる少し前くらいかしら。私、たまたま用があって東京に来ていた悦子さんと会っていたんです。その時は、お腹が大きくなっていた他には特に変わった様子は無かったと思うのですが……」

真知子が、頬に手を当てて考え込む。

「奥田さんが東京に来ていた具体的な理由はわかりますか?」

「悦子さんの旦那様が警察関係の方でして、仕事の関係で東京に来ていたとしか聞いておりません」

正太郎の質問に真知子が答えた。

「奥田さん……だと旦那さんと紛らわしいな。悦子さんは、手紙のやり取りを急に止めるとか、人との繋がりを軽視するような行動をする人ではなかったんですね?」

「はい。……悦子さん、旧姓を間宮まみやというんですけれど、間宮家が経済的に苦しい時、佐々木ささきさんという東京の知人が助けてくれたそうなんです。悦子さんは、佐々木家の方々に感謝していて、今でも交流があるそうです。東京にいらした時も、佐々木さんに会っていたとか」

「そうですか……」

正太郎は、しばらく考え込んだ後ぽつりと呟いた。

「佐々木さんにも話を聞きたいな……」

「では、今度の日曜日行ってみます?佐々木さん、私とも知り合いなんです。前もって電話をすれば、多分、会ってくれると思いますよ」

「……それでは、真知子さん、佐々木さんへの連絡をお願いします」

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