第二章・優しい追い風
掌に吸収するように素早くシェルター術式を解除すると、フィンはネウマに会った時と同様の少年の姿に変化した。
「あれ?」
「大の男二人に女の子一人だと誘拐っぽいだろうが」
不思議そうに首を傾げたアズロに、フィンは軽く溜め息をつく。
ネウマもアズロも、あまり外からの視線は気に留めないらしかった。
ネウマのそれはおそらく天然である一方、アズロはあえて気に留めていないように感じられる。
「年の離れた弟と妹の二人を連れたお兄さんで宜しく頼む、アズロ……兄さん?」
「頼んでおいて疑問形はやめましょうね? いいかい、フィン」
「馴染むの早いな……。……うん、わかったよ、アズロ兄さん」
切り替えの早い司令官に苦笑いする。
そういえば、誰かの背を追うように歩くのは、久しぶりだ。
「フィン兄さま、アズロ兄さま、ありがとうございます!」
ネウマもアズロも馴染むのが早いなと思いながら、自らの割り切りの悪さに自嘲の笑みを浮かべた。
そう――理解より先に、理屈などより先に、現実が来ることがある。
何よりも必要なのは、今この瞬間を生き抜く意思。
彼らはそれを本能で察知して……或いは、知ってきたのだろう。
何気ない瞬間でも、いざというときに備えて自然に構える姿勢……
「ならば、私は――」
フィンは、いつからか彼の人物を支えるために向けてきた眼差しを、二人へと向けた。
瞳に、頼もしくも脆い二人が映る。
「どうしたの? フィン」
「……ん? 兄さんの怪我は大丈夫かなって」
悪戯っぽく微笑めば、苦笑いが返って来た。
「――フィン、いつ気付……」
「左足、治りかけてて安心したよ。治癒は得意だし手当てなら僕に任せてって、いつも言ってるよね? 次は黙って放置はだめだよ?」
あえて弟口調のまま続けると、アズロは小さく溜め息をつく。
溜め息には、笑みが混じっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます