第8話フラスコの中で何か育ててるシュウマツ
「……ナニコレ?」
「手伝いを用意しようと思ってね。ちょっと作ってみたんだよ」
いつの間にか居住区の地下に出来上がっていた地下室。
その一室には、光を放つ液体に満たされたガラスの筒がいくつも並べられ、その中に宝石のようなものが浮かんでいた。
あまりにも怪しい絵面に、僕はついつい表情を強張らせてしまったわけだが、やらかしたシュウマツさんには少しも悪意を感じない。
あくまでも僕のためというのなら、僕はあえてそこに踏み込む義務があった。
「……いかにも怪しい施設なんだけど? なんで地下に作ったの?」
「なぜかこの手の技術を使う時、皆地下に作っていることが多かったからだね」
「それは……後ろめたかっただけでは?」
「そんなことはないさ。役立つと思うよ? この錬金術は」
錬金術とはまた胡散臭い……いや失敬、またあまりなじみのない用語が出て来たものだった。
しかしその錬金術とやらで、こうして怪しげなものが出来上がってしまったわけだ。
よく見ると、液体に浮いている宝石の中に走る血管のようなものは動いているし、どうにも気になって仕方がない僕はシュウマツさんに尋ねていた。
「それで……これなんなの? ただの宝石じゃないよね?」
「ああ。外で生きられるように調整した、鉱物を捕食するホムンクルスだよ」
「鉱石を捕食する、ホムンクルス? これってやっぱり生き物?」
「そうだとも。宇宙を飛び、捕食した鉱石を体内に貯めこみ、生まれた場所に戻って朽ちる。そこから複数に分裂して新しい個体を作り出し、再び宇宙に飛んで行くように調整した。これで今までより効率的に鉱石を集められるだろう?」
「うわー……めちゃくちゃ都合がいいな」
いろんなことに目を瞑ればだけど。
僕は得体の知れない便利な生物に半眼を向けると、シュウマツさんは得意気に光った。
「それはそうさ。都合に合わせて作り出した疑似生命体というやつだね。自信作だとも!」
「そ、そうなんだぁ」
そこはかとなく冒涜的だと思う僕は考え過ぎだろうか?
だがシュウマツさんの言う通りの性能を備えているんだとしたら、それは確かに助けになりそうだ。
止めておかないか? そう言うのは簡単である。
ただ否定するには、僕は錬金術とやらを知らなさ過ぎた。
困惑する僕に気づいたシュウマツさんはふむと唸る。
「なら少しみせようか? もう外に出して問題ないはずだが」
「もう実用段階なんだ」
となると何を言っても手遅れ感がすごいわけだが。
「……」
シュウマツさんに促され、筒から取り出した宝石を宇宙まで持って来るとキーンと頭に響く音を響かせて宝石が鳴いていた。
それは宇宙空間にバラまかれてフワフワ浮いていたが、近くに隕石を見つけると恐ろしい勢いで隕石に殺到する。
アッと言う間に吸収される隕石を見て、僕はちょっと引いていた。
「なんか速くない!?」
「そりゃ速いとも。出来るだけ広い範囲をカバーしたいだろう?」
シュウマツさんは狙い通りだったのかご満悦だった。
「え、えーっと、あれって鉱物なら何でも食べるの?」
「ああ、大抵は食べられる。同化して吸収というのが近いがね」
「だ、大丈夫なのそれ? なにかこう……宇宙船とかに襲い掛かったりしない?」
宇宙船が大量の宝石に襲い掛かられる図が頭をよぎったが、シュウマツさんはあきれ顔を浮かべていた。
「襲い掛かるも何もこの辺には我々しかいないじゃないか」
「いやでも、万が一ということもあるし……」
「心配しなくても寿命は七日ほどだから、そう遠くまではいかないはずだよ」
「ああ、そうなんだ。七日なら……大丈夫かな?」
多分、いや、きっとそうに違いない。
少なくとも七日で飛んでいける範囲に、まともなコロニーはないはずである。
そもそも僕一人で資源回収してもたかが知れているところではあるし、楽になるなら正直助かる。
僕は、ひとまず気になるところには目を瞑っておくことにした。
難関だった資源の問題が解決するなら、工程を一つ進められる。
シュウマツさんだって負担が軽くなるのならそれに越したことはないから彼らを作ったに違いない。
「なら、緊急で必要そうなパーツをリストアップしておくよ。設計図は提供するから作ってみてくれないかな?」
しかしそう言うと、今度はシュウマツさんが押し黙る。
様子がおかしいシュウマツさんに気が付いて何事かと思っていると、シュウマツさんは強張った声で口を開いた。
「思うんだが……君は、ずいぶん詳細なデータを簡単に出してくるが……こちらの人間はそういうものなんだろうか?」
言われて、そう言えばシュウマツさんは理屈は理解していないのかと納得した。
まぁ確かに事情を知らなければ、あまりにも複雑すぎる要求をしている自覚はあった。
「ああ……僕は体にメモリーを入れてるから。必要なデータはすぐ引き出せるんだよ」
「それが分からない。その“めもりー”というのはどういうものなんだね?」
恐々聞いてくるシュウマツさんに、僕は自分の頭を軽く叩いて見せた。
「ええっと……いろんな情報を記憶しておける装置を体の中に埋め込んでる……でわかるかな?」
「え? 埋め込むって……ブスッと?」
「そう、ブスッと。コロニーの技術者は色々出来ないとまずいから。緊急のトラブルにすぐ対応できないと全滅しかねないし」
だからいつでもデータが引き出せるように、ちょっとした改造を施しているわけだ。
かなり特別な処置だが、どんな時、どんな状況でも最も近くにいる技術者が素早く対応するために情報は不可欠である。
アウターにでも接続すれば、外部出力も簡単だ。
僕は良いと思うんだけれど、シュウマツさんはそうでもないようだった。
「……えぇ、錬金術よりある意味冒涜的じゃないか?」
「……まぁ、もっとえげつない話も聞くけどさ」
「そうなのかね? こっちの人間も業が深いなぁ」
確かに。
だが宇宙で生きるには人類は中々頼りないところがある。
それを補うために、いろんな手を試しているわけで……考えてみると、他所の世界の事をどうこう言えない。
過酷な環境に無理やり適応する……そんな無茶を通すには、綺麗な手段ばかりはとっていられないのはどこの世界も同じということか。
宇宙とは生物には過酷なのだ。
でも生き物というのも逞しいもので、自力で適応していたりもするんだけれど……それを言ったら面倒くさそうだったのでやめておいた。
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