氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部 妖狐

第一章 目覚めたらそこは……

第1話 目覚めた時代で……

 過去に大きな戦いがあった。

その戦いで私達の家族は大事な存在の命を奪われ、喪失感に苛まれている間に戦いが終わり、新たに主となった存在の手で命の奪われ、何時目覚めるのか分からない程に不快永い眠りに付いたのだが……、気が付いたら薄暗い洞窟に横たわっていて……


「……ここは?」

「お兄ちゃ……、兄貴も起きたんだ」


 私達の種族は例え死んだとしても、体の一部から時間を掛ければこうやって目覚める事が出来る。

ただどれ程長い間眠っていたのだろうか……、記憶が所々欠けてしまい思い出す事が出来ない事が多い。

けれど、自分の役割はしっかりと思い出す事が出来るから、そのおかげで存在意義を確かめる事が出来るのは良かったと思う。


「ミコト……、確か貴様は命の権能を持った天族で末の妹だったな」

「なぁに兄貴、何か様子がおかしいけど?」

「……すまない、思い出そうとはしているのだが所々記憶が欠落していた思い出せない事が多い」

「そっかぁ……、実は私もそうなんだよね、何処まで思い出せそう?」

「その前に他の四人はどうした?」


 他の家族……上から

【破壊の天使】セスナ

【無の天使】 セツナ

【意志の天使】レイス

【死の天使】 シュラ


 そして……【氷の天使】イフリーゼと呼ばれた私と、【命の天使】ミコトと名付けられた妹。

それぞれ、無から有を作り出し、破壊からの創造、そこから意志を作り出し、死によって終わらせ、優れた生命を氷で存在の保存、最後にその中で優れた戦士を命の権能で蘇らせ、戦場に送り出す。

そして選ばれなかった者は再び無に返され、同じ流れを繰り返していく。

我々が主から与えられた生き残る為の権能であり、今や遠い過去に起きたであろう戦いを終わらせる者の為に……、いや違う。

あれはそんな存在では無かった、私達があの時、親愛なる神の娘だと慕い信頼していた存在は、異世界から呼び出された異形の魂を持つ化物だった。


「何を考えてるのか分からないけど姉ちゃんや兄ちゃん達ならまだ、そこで寝てるよ?」

「そこで……?だと」

「うん、ほらあそこ」


 ミコトが指を差した先を見るとそこには確かに目を閉じて、冷たい地面の上に横になっている家族の姿があった。

皆の姿を見て少しだけど古い思い出す……、あの時


『私の願いを叶えてくれない存在何ていらない』


 という一言で、我らが主人を滅ぼし、新たな主になった後に――


『あなた達もいらなーい、だって私の幸せには必要ないですしぃ……、それにお母様の従僕達の事なんて信用できないじゃないですか』


 と笑顔を張り付けた顔で言葉にして、私達の言葉を聞く事も無く滅ぼした。

それに過去に起きた大戦の内容も少しだけ思い出せる。

ある時私のいた天族と呼ばれる人々が生きる世界が、異世界と繋がってしまい調査の為に同胞達が異世界の血に降り立ったが……、暫くしても一向に帰って来ない。

これは何かがあったのではと心配した、当時の我らの主が自身の権能の一部を分け与えて生み出した私達六大天使と呼ばれる存在を現地へと送り出した。

その結果……、繋がった先の世界では、もう一つの別の世界とも繋がっていたようで、三勢力による三つ巴の戦いが起きていたのまでは覚えているが、その後に何が起きたのかまでは思い出す事が出来ない……、こういう時無理に思い出そうとするものなら頭が痛くなったりする筈だが、それすら起きない辺り、何者かの手によって記憶そのものが消されてしまったと見た方がいいだろう。


「兄貴……大丈夫?顔色悪いよ?」

「あ、あぁ……、少しだけ過去を思い出したのだが……、大事な記憶だけ」

「もしかして兄貴も消されてるのか?」

「という事はお前もか……」

「うん……、多分だけど私達の主を殺して、新しい主になった……愛しき神の子のせいだと思う」


 やはりミコトもそう思うか……。

ただどうしても名前を思い出す事が出来ないが、容姿だけははっきりと思い出す事が出来る。

黒い魔族の羽に純白の天族の翼を持ち、黄金色に輝く長い髪を腰まで伸ばした儚げな容姿の少女。

彼女にもし会う事が出来るのなら、もしかしてだが消された記憶を取り戻す事が出来るのかもしれない。


「なら、探して会うしかないだろう……、そうすれば消された記憶を取り戻せるかもしれない」

「私もそう思うけど、どうやって会うの?」

「それは……、この世界を回ってみるしかないだろ」

「んー、それならさ、皆が目覚めたら遠出して街に出てみない?」

「街に?……いや、この近くに街があるのか?」


 ……近くに街があるのなら、そこで情報収集をする事で目的の人物へと近づけるかもしれない。


「うん、実はさ兄貴が起きる一月位前に眼を覚ましたから、興味本位で外に出てみたんだけど……、半日程歩いた先に見た事の無い建築方式の建物が沢山ならんだ街があったの」

「……そうか、一月も寂しい思いをさせて悪かったな、お前は寂しがり屋だから辛かったろ?」

「う、うるさい兄貴っ!そんな事より、試しに街に行ってみたんだけど……、中には冒険者ギルドって言う身分証が無くても、登録する事で働けるようになる場所があったから、皆が起きたら行って働きながら情報集める何ていいと思うんだけど……」

「いい考えだな……、それで行くか」


……取り合えずこれからやるべき事は決まった。

後は未だ眠っている四人が目覚めるのを待つだけだ……、そう思いながら洞窟内を見渡すのだった。

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