第268話 人気
芳田さんの動画投稿サイトでの人気を見て、湘東学園野球部も練習風景の写真をただホームページに乗せるよりかは、動画投稿サイトの方を活用した方が良いような気がして来た。
「というわけで、カメラ回します。私が撮りますので、皆さんは普段通りに練習して下さい」
「一応、嫌な人は嫌って言ってね。ホームページの方にも動画は載せるし、知り合いに見られる可能性は高いよ」
なので、マネージャーの七條さんがカメラを持って練習風景の録画を始める。1番最初に撮るのは、私の練習風景の模様。まあホームページの写真、私が練習している時の写真が多いからね。
「ちょっと盛る?」
「カノンさんは盛らなくても良いです。あ、標的の掛け声は大きくした方が良いかもですね」
「りょ。
坂上さーん!標的の掛け声は大きめでお願い」
「わかりましたー!それでは行きます!
7の3!」
追加で2台買って貰った最新鋭のピッチングマシンを起動して、坂上さんがボールを入れてコースを決める。そして場所の指示をするので、私はその場所を狙って140キロ台の球を打つ。
今の湘東学園のフェンスには、目印としてフェンスに番号が振ってある。フェンスの上部に数字が書かれた垂れ幕が設置されていて、1から3番がレフト方向、4から6番がセンター方向、7から9番がライト方向だ。7の3ということは、右中間のライト寄りのフェンス、その上から3段目ということだね。
3の1とか5の2とか坂上さんが叫ぶので、その通りに私は打っていく。一応、1軍の2番手捕手という立ち位置になる坂上さんのリード練習でもあるのだけど、私に関してはほぼ無意味なものになってるね。
ハイペースで次々と投げられるボールをひたすら打ち返して、区切られた時間内で可能な限りの球数をこなす。私の打撃練習が終わったら、次に真凡ちゃんが打席に入った。
「7!」
「はい!」
真凡ちゃんはフェンスまで飛ばす力も無いので、方向だけの指示が飛ぶ。真凡ちゃんも、方向に関してはほぼ100%打ち分ける力が付いたんじゃないかな。一方で智賀ちゃんは私と同じようにフェンスの高さまで指示されるけど、方向での打ち分けの成功率がまず30%程度になっている。高さまで一致するのは、5%も無いね。
まあそれでも、智賀ちゃんの命中率は私を除けば部内でトップクラス。普通はこんな曲芸出来ないし、極める必要性もそんなに無い。だけど高谷さんとか、聖ちゃんとかは積極的に挑戦しているね。
打撃練習を一通り撮影し終えたら、今度は2軍の方のグラウンドへ向かう七條さん。そこでは萩原監督がノックを打っていて、矢城コーチと比べると打球速度は遅いけど指示は的確だ。……島谷さんが怪我をしたことで関東大会では枠が1つ増えるから、みんなアピールに必死だ。
2軍の投手陣の中では右で125キロが出る浜川さんや左で125キロが出る及川さんが良いけど、3軍に一度落ちてまた2軍に戻って来た尾崎さんも面白いスローカーブを投げるようになっている。全員、県大会の3回戦や4回戦までなら抑えられそう。
1軍の投手陣の映像を撮るわけにもいかないので、投球練習は浜川さんや及川さんのピッチングを撮ることにする。変化球を投げた部分に関しては、後で編集でカットすれば良いや。
一通り撮り終わったら、七條さんと私で見せて良い部分を選抜して動画投稿サイトへ投稿。その動画をホームページでも見れるようにして、色々と手も加えた。これで1人でも多くの新入生が集まれば良いなという気持ちだったけど、実際は違った。
『脳が理解を拒む』
『カノンだけかと思ったら、次のバッターも当たり前のように方向の指示をしているんだけど』
『あの掛け声、やっぱりフェンスの位置だよね?あり得なくない?』
『カノンの打撃に関してはCGであってくれ』
『2軍に125キロを投げる左腕がいると聞いて』
『設備良いなあ』
「……思ってたより反響が大きいね」
「カノンさんが、思いっきりヤバいことしてますしね。話題にはなるかと私も思ってましたけど、ここまでだとは思いませんでした」
「いやでも、ホームページの閲覧数が激増してるからこれで良いんだよね?……動画投稿サイトの方は収益化が出来たら、お金は備品の補充に当てよう」
「それが良いですね。定期的に部員の紹介や合宿の動画とかも載せて行ければ、再生回数だけでそれなりのお金が入ると思います」
インターネット、特に掲示板を中心に湘東学園の練習動画は話題となり、動画投稿サイトへのコメントもかなりの数になっている。この感じだと来年の入部希望者は、さらに増えそうかな?
高校に入るまで野球をしていなかった子を中心にインタビューとかもしようか考えていたけど、止めておいた方が良さそう。なお、学園長のシオ姉は大喜びしていた模様。受験料は学園の大きな収入源の1つだし、湘東学園の人気が上がって受験者が増えるのは伯母にとって喜ばしいことなんだろうね。
こういった動画を、好意的に受け取って貰えるよう努力した甲斐はあったかな。
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