第139話 代表候補合宿
私がホームランを打った後、後ろの智賀ちゃんと本城さんが連続でツーベースヒットを打ったので、5回裏終了時点では9対3と6点差に点差を広げた。そして6回表からは、私が投げる。
「今日は調子良さそうだね。油断しなければ、大丈夫かな」
「油断なんかしないよ。久美ちゃんが3失点してるし、最初から全力だよ」
後続のバッターに対しては、ヒットを許さずに勝利。最終回は四球で出たランナーが、バントで得点圏に行ってちょっと怖かったけど。センターには光月ちゃんが入って、早速センター前ヒットになりそうだった打球を捕球してくれているので、私が登板する時の守備の穴は無くなったかな。
あのキャッチが無かったら失点していたかもしれないと思うと、光月ちゃんが居てくれて本当に良かったと思う。今までは本職投手の久美ちゃんがセンターを守っていたし、不安要素は大きかったんだよね。
4回戦に勝ったので、次は準々決勝だ。対戦相手は、秋の県大会の3位決定戦で戦った鎌倉学院。あの時はコールド勝ちだったけど、高校野球では冬を越すと、全くの別チームになることもある。油断は出来ないし、私と本城さんが代表合宿に行くから負ける可能性は十分にある。
私達が公式戦で戦っている最中に、練習試合を行なっていた湘東学園の2軍メンバーは、城西高校の2軍を相手に7対1と完敗。向こうは2年生の比率が高かったから負けるのは仕方ないけど、浜川さんも尾崎さんも結構打たれたみたい。
それでも高谷さんと原田(はらだ)さんの活躍で、1点を取っている。1軍の最後の枠として上げるのは、キャッチャーの原田さんになりそうかな。
「それじゃあ、行って来るね」
「行ってらっしゃいませ。準々決勝は私達だけで必ず勝ちますから、カノンさんと本城先輩は安心して合宿生活を過ごして下さい」
「……お土産は、大坂桐正と履陰社の選手データでお願い」
そして4回戦の3日後、久美ちゃんや詩野ちゃんに見送られて、本城さんとお隣の静岡へ向かう。U-18日本代表候補達40人が集まるのは、富士山の麓の合宿所。ここで代表となる20名を選出することになっているけど、基本的に2年生が選ばれるのは稀。
「……久しぶりねえ。カノン」
「あはは、夏の甲子園前に会えちゃったね」
「あれだけ格好つけて別れたのに、再会がこれだと締まらないわね」
「良いじゃん。私達らしくて」
しかし私以外にも、宝徳学園のキャプテン、裕香ちゃんが2年生なのに代表候補入りを果たしている。ついでに宝徳学園のキャッチャーで4番、篠宮先輩も候補に入っていた。エースの真弘ちゃんは、選ばれなかったみたい。
注目の大坂勢は、大坂桐正からエースの藤波さんと捕手の森友さん、4番の大村(おおむら)さんが。履陰社からはエースの浦田さんと3番の内河さん、それに4番の山村(やまむら)さんが選ばれた。
特に山村さんにはホームランを打たれたので、その時のことはよく憶えている。あの時から変わらず、お腹がぽっちゃりしているので、ちょっとどうなっているのか触りたい。
……別に野球をする上で、太っている必要は無い。しかし体重は、重い方がバットに体重を乗せやすい。ハードな練習で有名な履陰社で、太れるのは完全に才能だね。
私達以外の神奈川勢は、まず和泉大川越の大槻さんと大橋さんのバッテリー。東洋大相模からは、左のエースの石川さんが選出されている。それに関東大会で戦った山梨学園からは、赤石さんが代表候補として選ばれた。
あと顔見知りの人は、多久大光陵のナックルボーラー芳田さんと、城西高校の白木さんだね。残りのメンバーも、名前は聞いたことがある人ばかりだ。
40人の代表候補達は最初、AチームとBチームに分かれるのだけど、Aチームの方に強い人達は固まった。たぶんこれは、Aチームが本命なんだろうなと思えるような組み合わせ。……唯一芳田さんだけがBチームなので、私達はナックルキチと戦わされるのか。
これからAチームとBチームは木製バットへの適応や国際大会のボールに慣れ、紅白戦を2回行い、最終日前日と最終日は台湾の代表と試合をする。この台湾代表との試合に選ばれるのは20人だけなので、ここで選ばれればU-18W杯日本代表はほぼ内定する。
……逆に選ばれなければ、その時点で帰される。合宿が5日で終わるか7日で終わるかは、最終候補に残れるか否かで決まるということだね。
「木製バットへの適応ということなら、僕達はかなり有利かな?」
「木製バットを練習に使うのは、お金が無いと難しいですからね。と言っても、本城さんも木製バットは苦手な方ですよね?」
「どちらかと言えば、木製バットの方が得意な真凡ちゃんやどんなバットでも関係無いカノンの方がおかしいと思うよ?」
初日の今日は、軽く日程の説明があった後にピッチングマシンの球を打つ。国際大会では最速135キロの投手がゴロゴロいるから、ピッチングマシンの球速は140キロに設定してあるみたい。
その速い球に、木製バットでジャストミートを続ける。木製バットが折れないよう、芯に当て続ける。打球は全て柵を越え、記者を含む周囲の人々は騒ぐ。ある程度打ってからゲージから出ると、見知った人が話しかけて来た。
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