第131話 後輩
1年生の入学式の日。たった1日だけの春休みを謳歌した上級生組は、普段の練習を開始しながら新入生達の到着を待つ。
「テスト内容は、智賀ちゃんとの1打席勝負で打てたらベンチ入りということにするよ。春季神奈川県大会は3回戦からだし、即戦力が欲しい」
「私がテストをするのですか」
「うん。1発勝負のテストだし、智賀ちゃんは真剣になって投げて欲しい。春の大会で使うのは、勝負強い人や運が良い人にするよ」
あらかじめ、智賀ちゃんと詩野ちゃんに1年生達のテスト内容を伝えておく。テスト内容に関しては御影監督から一任されているので、色々と考えた結果、1打席勝負の結果で決めることにした。
マネージャー組が抜けたら、空いているベンチ枠は11人。全員をテストする訳にもいかないから、テストを受ける前段階である程度は絞らないといけない。
そうこうしている内に、新入生組が着いたので早速自己紹介と自己PRタイム。自己PRと言っても、長所と短所を言って貰うだけだけどね。寮に入らなかった、近場に住んでいる人達とも顔を合わせ、新体制に入った湘東学園の野球部が始動した。
1年生は追加で1人、入って来た人がいるし、マネージャーとして七條さんが入ってくれたので、1年生47人、2年生6人+3人、3年生3人という内訳。凄くアンバランスな気もするけど、初心者歓迎な以上、来年以降も入部者は増え続けそうだし、湘東学園が本当の強豪校になれるのかは今年入った世代次第だね。
「早速だけど、春の大会に向けてベンチ入り試験を始めるよ。合格すれば明後日の3回戦から、スタメンで使われる可能性もあるし、代打で起用したりすると思う」
私のベンチ入り試験という単語に、色めき立つ後輩達は中々に現金な子も多そうだ。だからこそ、ここでふるい落とさないといけない。
「注意事項として、今回の試験を受けて落ちた場合、夏の大会が終わるまで試験を受けられないと思っておいてね。今回受けなかった人は、5月の合宿や夏の大会前にベンチ入り試験を受けられるけど、今回の試験で落ちればその資格が無いと思って良いよ」
「……じゃあ、試験を受けたいという人は一歩前進するよーに」
今日のテストを受けるデメリットというものを提示し、精神的に揺さぶった後、早速テストを開始する。詩野ちゃんの声に合わせて、前進したのは1年生部員の内、23名。ちょうど半分ぐらいだし、思っていたよりも多いかな。
「はい、締め切ります!それじゃあ、試験を受ける23人はこっちに来て。ベンチに追加で加えるのは投手1人、野手9人の予定だから、投手志望と野手志望でも分かれておいて」
「質問です。その内訳は、変えるつもりなどありますか?」
「あんまり無いよ。今年から優紀ちゃんと久美ちゃん……西野と春谷が投手に専念するし、投手は余り気味だからね」
唐突に質問して来たのは、眼鏡をかけた1年生の坂上(さかがみ)清香(せいか)さんだ。ポジションはキャッチャーで……あまり、自己紹介の内容は憶えて無い。確か、詩野ちゃんが憧れの選手だった子かな。
試験を受ける1年生の中には、2年生と同室の人も多い。というか、2年生と同室の6人は全員受けるのかな。23人の内、4人が投手志望なので、野手のテストの間にキャッチボールをさせて肩を温めて貰う。
「さて。試験内容は至って簡単。智賀ちゃんと1打席勝負をして、ヒットを打ったら合格だよ。あと、合格枠は先着順だから、後ろに並ぶとベンチ枠が埋まる可能性もあるから注意してね。埋まったら、残りの人は自動的に不合格だよ」
「はい!じゃあ1番行きます!」
「ん、じゃあ聖ちゃんから順番で良いかな。自由に話し合って、並んで良いよ。それとあのピッチャーは、調子が良くても大体5回ぐらいでスタミナが切れて打ちやすくなるとは言っておくね。じゃ、後は詩野ちゃん任せた」
「うん。行ってら」
1年生達に、智賀ちゃんのスタミナが15人目辺りから切れそうだよと言って、投手組のキャッチボールを眺める。4人が2人ずつペアになってキャッチボールをしているけど、その中でも島谷さんは1番ボールにスピンがかかっている。相手が捕りやすいように、綺麗なストレートを投げている。
「ねえ。本当に、今回の試験で不合格なら夏が終わるまで試験を受けさせないの?」
「まさか。打たないといけない場面を疑似的に作って、勝負強さを測っているだけだよ。彼女達1年生を使う場面は、基本的に1打席限りの代打。だからこそ、1打席で結果を残せるバッターが欲しい。あと一応、夏が終わるまでテストを受けさせないとは言ってないよ」
「……把握したわ。っと、あの聖って子、普通に初球から打ったわね」
投手組の肩が温まるまでの間、真凡ちゃんと小声で会話する。今回の試験を実施したのは、春の大会での即戦力が欲しいからという理由もあるけど、メンタルの強い子を試合で使っていきたいという意図もある。
私と本城さんは、大会途中にU-18代表候補が集まる合宿メンバーに選ばれているので抜けないといけない。春季神奈川県大会を勝ち進んだらの話だけど、準々決勝の日に抜けることになる。
だから、1年生でもスタメン起用する試合はあるかもしれない。そういう時に、メンタルが強い子ほど実力は発揮できる。
……代表候補の合宿が、1週間もあるのは長いと思う。この合宿を辞退すると基本的に代表には選ばれないそうだから、参加せざるを得ないけど、中には春の大会を優先して辞退する人もいるとのこと。
準々決勝まで勝ち上がっているなら夏の大会のシード権は獲得している状態だし、あまり問題無いような気もするけど、人それぞれだね。大槻さんや大橋さん、裕香ちゃんや藤波さんも呼ばれているから、合宿自体は楽しみだ。
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