TS転生したから野球で無双する

第97話 機動力野球

初回に私のスリーランホームランで先制した湘東学園だけど、その後の本城さん、智賀ちゃん、久美ちゃんは連続で外野フライに倒れた。相手の外野陣の足が速くて守備範囲が異様に広いから、高く上がってしまうような外野フライだとほとんどアウトになってしまう。

……そう考えると、綺麗に外野の前へ落とした真凡ちゃんの凄さが際立つかな。2回表は賢大高崎の先頭バッターがヒットで出塁すると、すぐに盗塁を決めて、送りバントでワンナウトランナー3塁になる。

ここでスクイズを仕掛けにくるかと思ったら、普通に打って来たので拍子抜けする。まあ、スクイズを仕掛けて来るタイミングが読める妖怪野球婆がベンチにいるから、スクイズを仕掛けてくれた方がありがたいのだけど。

打球は私の方へ飛んで来たので、今度は私の肩と3塁ランナーの勝負か。望むところだ！と全力でバックホームをすると、3塁ランナーは慌てて戻った。いや、勝負しなさいよ。

結局、2回表も0点で抑えた久美ちゃん。毎回ランナーは背負っているけど、しっかりと抑えるべき場面で打ち取ってはいるから安心して見ていられるようになった。

「詩野ちゃん。あの返球のタイミングだと、アウトだった？」

「……2塁へ盗塁した時の足を見るに、半々かな。思っていたよりも速いし、積極的ではあるけど、噛み合っていないね」

「2塁への盗塁を刺すのは、諦める感じ？」

「うん。連打される方が不味いし、リードもまだあるから。何回走らせても、ホームへ還さなければ良いだけだし」

詩野ちゃんは、案外バッサリと機動力野球をぶった切った。事実ではあるのだけど、対戦相手が機動力野球を掲げている以上、対戦相手の全否定だよね。

勝負所で勘の冴え渡るリードが出来る詩野ちゃんと、3塁にランナーが行っても動揺しない久美ちゃんのバッテリーだから出来ることかな。セーフティバントへの対応は、優紀ちゃんが頑張ってバントの守備練習に取り組んでいたから、今のところバントヒットでの出塁も許してない。

0対3で迎えた3回裏の湘東学園の攻撃は、2番の詩野ちゃんから。元々、足の速さはそれなりだった詩野ちゃんだけど、上手く3塁線上にバントでボールを転がして出塁をする。私は敬遠されて、ノーアウトランナー1塁2塁で本城さんの打席を迎えた。

朗らかに笑う本城さんが右打席に立つけど、あの顔は完全にホームランを狙ってそう。秋季神奈川県大会で、ホームランが出なかったことが唯一悔しかったことらしいので、狙って良い状況の時は狙わせてあげよう。

そもそも、本城さんはホームランを狙えるバッターだからね。地区大会の時とかは、普通にホームランを打っていたし。

(これ以上の失点は試合が決まってしまう。けど……)

賢大高崎のエース、長井はノーアウトランナー1塁2塁で本城に対して、2球続けてボール球を投げた。本城は非常に2塁打率が高く、また一発のある打者でもあることから賢大高崎でも要注意人物の1人として挙げられていた。

この場面で2塁打を打たれれば、奏音の足だと本塁まで還ってしまう。そうなると、2点を追加されて0対5だ。そのことを意識してしまい、ボール球が先行した。

(四球で逃げて、次の江渕さんに満塁で回したくはない……)

決して、長井の調子は悪いわけでは無かった。しかしピンチの場面が多いことは、嫌でも調子が悪い事を意識させる。

(内に……入れぇ！)

カウント2-0から3球目、今までで1番強く投げ込んだシュートは長井の狙い通り、内角へ決まる。その球をフルスイングした本城が捉え、打球はバックスクリーンに当たった。0対6と点差が開き、続く江渕にもツーベースヒットが生まれたため、ここで長井は降板した。

期待の眼差しで見つめていると、本城先輩がホームランを打ったのでベンチ前でハイタッチ。

「今の、上手く捌きましたね」

「優紀ちゃんのシュートに球筋が似ているのは助かったね。久しぶりに、僕もフルスイングをしてみたよ」

「……肩は、大丈夫なんですか？」

「フルスイングはもう大丈夫みたい。だけど肩より、脇腹の方がヤバいかも」

「禁止ー！フルスイングはもう禁止です！本城先輩、うちの部員が実質9人なの分かってますか!?」

本城先輩はフルスイングでスリーランホームランを打ったけど、脇腹を少し痛めたようなので、2度とフルスイングはしてくれるなと頼み込んだ。相馬さんも水澤さんも、キャッチボールぐらいはこなせるようになったけど、ファーストの守備はまだ無理だ。

……本当に薄氷の上に立って戦っている状態だから、怪我は怖い。ちょっと、警戒はしておくべきだったのかな。一応、守備に就くのは大丈夫みたいだし、今日の今後の打席はバットを振らないで欲しいと懇願しておいた。

3回裏の攻撃はその後、ノーアウトランナー2塁という状況で久美ちゃんがバントして、優紀ちゃんが犠牲フライを打つことでさらに1点を追加する。関東大会の1回戦は3回裏の終了時点で0対7と、大きく点差が広がる展開となった。