第95話 関東大会抽選会
10月中旬に、関東大会の組み合わせ抽選会が行なわれた。トーナメント表の1番左には、神奈川1位の和泉大川越の文字が大きく書かれている。和泉大川越と当たるのは、栃木2位の咲進学園と群馬2位の前橋栄徳の勝者かな。前橋栄徳は、私達と練習試合をしたところだね。
中央左のブロックには山梨1位の東甲斐大甲府と茨城2位の霞ヶ浦女学院、埼玉1位の花咲栄徳と千葉2位の中欧学院が入って、中央から右のブロックに私達は入った。
神奈川3位の湘東学園、私達の初戦の相手は群馬1位の賢大高崎。足を使って来るのが特徴的で、ベンチ入りに必須な50メートル走のタイムは6.9秒以下という高校野球ではトップクラスの俊足が求められる高校だ。
この機動力野球を、詩野ちゃんが如何に抑えられるかが勝負の鍵になりそう。1回戦に勝ったら、2回戦では茨城1位の明優日立と山梨2位の山梨学園の勝者と戦うことになる。
1番右のブロックでは、1回戦で千葉1位の多久大光陵と埼玉2位の市大川越がぶつかる。最右枠の対戦カードは、栃木1位の黒学院栃木と神奈川2位の東洋大相模か。1回戦の注目カードとしては、東洋大相模と黒学院栃木の試合が注目されている。両校とも、甲子園に多く出ている有名な高校だしね。
「賢大高崎は、全員の足が速いので有名だね」
「うん。だから、1回戦は詩野ちゃんの肩にかかっていると言っても良いよ」
「……全員が盗塁出来るなら、久美ちゃんを先発させる方が良いかな」
組み合わせが決まったので、副キャプテンの詩野ちゃんと軽く相談。相手が足を使って来る以上、左腕の方が走られにくいし、久美ちゃんの方がクイックは早い。優紀ちゃんの球速が遅い以上、久美ちゃんを先発させる方が良いのかな。
「しばらく私も盗塁練習を増やすよ。3盗の成功率も、上げて行きたいし」
「了解。試合、勝ちたいね」
「なんか、珍しいね。そういう純粋な言葉が、詩野ちゃんから出るの」
「……私、そんなに腹黒く無いよ?」
上目遣いで私は腹黒く無いと主張する詩野ちゃんだけど、話題を誘導したり、計算高い一面は見え隠れするんだよね。この前は、部室に出たゴキブリを生きたままレジ袋へ入れて弄んでいたし。
レジ袋越しとはいえ、少しずつゴキブリを踏み潰すとかちょっと怖い。うちの野球部、私を含めてほとんどの部員がゴキブリを苦手にしているから、わりと助かったのだけど。
関東大会に向けて練習はするけど、同時並行で勉強もしていかないといけない。ちょうど、2学期の中間考査があるからだ。
「……毎回思うのだけど、当たり前のように90点代を叩き出すわね」
「そりゃ、授業中は授業に集中するからね。授業は集中力を付ける練習だと思うようにしていることは、言ったっけ?」
「その話は聞きましたが、フィンガートレーナーを使いながら授業に集中するのは難しいです」
「というか、カノンってもしかして左の方が握力強いんじゃないの?ずっと授業中、左で握力鍛えているじゃない」
私の場合、授業に集中しながら握力を鍛えたり指を鍛えたりしているけど、まだ真凡ちゃんや智賀ちゃんには難しいみたいだ。あくまで、授業中に眠らないようにって渡した道具だしね。握力に関しては現状、左の方が強いので何とも言えない。ちゃんと右にも切り替えているけど、左の方が長い気はする。
「優紀ちゃんは、かなり集中できるようになったみたいだけどね。数学の点が初めて70点を超えたから「褒めて褒めて」って、凄い勢いで詰め寄って来たし」
「……私は今回の数学で84点なのですが、褒めてくれないんですか?」
「うぅえっ!?久美ちゃん、音も無く詰め寄るの心臓に悪いよ。
……褒めて、欲しいの?」
「はい」
2組の定位置で話していたら、後ろから久美ちゃんが詰め寄って来ていて心臓に悪かった。この子、本当にいつどこででも這い寄ってくるから怖い。
いつの間にか湘東学園野球部のホームページが久美ちゃんと水澤さんの手によって更新されていたけど、どこで撮った写真なのか分からないような私の写真がふんだんに使われていたし。
同じマネージャーの相馬さんは、パソコン関係が駄目みたいなので触らせていない。部室に設置したパソコンを触らせてみると「何もしていないのに真っ白になっちゃいました!」と言ってくるような子だし、今時珍しい子だ。
……そう言えばこのクラスの中に、掲示板へ野球部の情報を垂れ流している人がいるんだよね。ここで「野球部の情報を掲示板に書き込んだのは誰!?」と問い詰めて墓穴を掘るような私じゃないけど、一応警戒はしておいた方が良いかも。書き込んでいる人に、悪気は無さそうだからちょっと悩ましい。
「そう言えばこのクラスの中にうっかり野球部の情報を漏らしている人がいるみたいなので、極力漏らさないように注意してくれると嬉しいです。もうすぐ関東大会も控えているので、お願いしますね」
少し私が考え込んだその瞬間に、久美ちゃんがクラスメイトへ向けて注意を促す。予想外の行動ではあったけど、私の口からは言えなかったから感謝しよう。
うちのクラスメイトは基本的に抜けている子も多いけど、久美ちゃんの注意には「はーい」と返事をするノリの良いクラスメイトで良かった。いやでも本当に、書き込んでいた人は誰なのか気になるかな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます